パシフィコ横浜で24日、“Electronics Disign Solutions Fair 2002(EDSFair 2002)”において、イー・アクセス(株)の千本倖生代表取締役社長兼CEOが“ブロードバンド革命が開くIT新時代”と題したキーノートスピーチを行なった。
イー・アクセス(株)の千本倖生代表取締役社長兼CEO |
千本氏はスピーチの冒頭「先日、米国通商代表部(USTR)のかたが来日した際に会食したが、日本の経済状況のことをたいへん憂慮していた。その席で『私は日本はいい状況にあると考えている』と話したら非常にびっくりされた。今日はブロードバンド革命によって日本の産業が回復基調に向かうということをお話ししたい」と切り出した。
ネットバブルの崩壊と日本のブロードバンド革命
千本氏はまず2001年の動きを振り返り、象徴的な出来事としてネットバブルの崩壊を取り上げた。
ネットバブルの崩壊は企業の資金調達を困難にした |
「2年ほど前には、日本でも若い経営者がネット会社をたくさん立ち上げもてはやされたが、しっかりしたビジネスプランと技術を持たないベンチャーはつぶれた。またバブル崩壊後のネット相場の急落に9月の米国でのテロの影響が加わり、市場で資金を調達することが非常に難しくなった。米エクソダス コミュニケーションズ社のような優良企業でさえもが資金が調達できずにつぶれて(※1)いった」
※1 編集部注:米エクソダス コミュニケーションズは英ケーブル・アンド・ワイヤレス社に買収された。ネットバブルの崩壊をよそに、2001年に“超成長”したADSL加入者のグラフ |
千本氏は、ADSL加入者の推移グラフを示しながら、そうした厳しい経済状況の中で、日本に“ブロードバンド革命”が起こったと説明した。
「1年前、日本のADSL加入者は1万人に満たなかった。当時米国と韓国には300万の加入者がおり、ブロードバンドの世界を引っ張っていた。しかし、日本の加入者は12月には150万を超えた。この1年でどこの国も経験しなかった超成長をしたことになる。2001年第4四半期の成長率を見ると米国を遙かに凌駕し、韓国を追い抜いた。2002年末にはADSL加入者は600万人くらいになるのではないかと思っている。年末には世界最大のブロードバンド国家になるだろう」
ブロードバンド革命の進行はインフラの整備と捉えることもできる |
この“ブロードバンド革命”のポイントとしては、高速・大容量だけでなく、常時接続、定額制が重要だったという。
千本社長は、3G携帯とADSLなど有線のブロードバンドは補完関係にあるもので、競合しないという |
「ここ1年くらいで大容量、常時接続、定額制でのインターネット接続が当たり前になった。これまでのNTTの文化ではなかったことだ。これにより新しいサービス、新しいインターネットの世界が広がってきた」
日本におけるインターネットアクセスの種類と費用の比較グラフ(FWAはFast Wireless Access(無線インターネット)を示す) |
「日本ADSLは1.5Mbpsの接続から8Mbpsに移りつつあるが、これだけの数の8Mbpsユーザーがいるのは日本だけ。サービス価格も、米国では1ヵ月約50ドル(約6700円)、韓国でも4000~5000円くらいであり、2000円台なのは日本だけだ。2001年第4四半期、日本のADSLは米韓を上回る伸びだったが、イー・アクセスの状況を見ると1月はさらに伸びており、このトレンドはさらに進むだろう」
日本、米国、韓国のADSLおよびCATVインターネットユーザーの伸び |
健全な競争が世界で最も進んだブロードバンド環境を生む
こうした、ブロードバンド革命が起きた理由として、千本氏は“健全な競争”が起こったことを挙げた。
これまでこのようなブロードバンド革命が起こらなかった原因はNTT独占による弊害だという |
「こうした革命の原因は、ADSLをめぐる競争が非常に活発になったためだ。孫さんが昨年、“Yahoo! BB”をかついでやってきて、競争は確かに厳しくなったが、ADSL産業全体にとってはたいへん良かった。日本でもフェアな競争を行なえば、健全な競争が起こるといういい例だ。米国では、ADSL業者の競争関係がバブル崩壊でなくなり、(旧AT&Tの)ベル系の事業者だけになった。独占になったとたん、月額利用料金は40ドル(約5400円)から50ドル(約6700円)になってしまった。独占は消費者に不利益をもたらすということだ」
今後の通信業界を変えていくのはイー・アクセスのようなIP技術をベースとした第3世代通信事業者だという |
また、千本氏は日本のベンチャー育成環境の未整備に触れ、「米国で企業のベストテンをとれば、4割くらいはベンチャー企業など比較的若い会社になる。日本では100%古くからの大企業が占める。どちらが産業に対するフレキシビリティーがあるかは明白だ。日本でも新しい人たちにチャンスを与えることができるようにならなくては、産業の国際競争力は回復しない。70のおじいさんに絆創膏を貼る時代は終わったということだ」と、今後の産業発展のためには、過去のしがらみにとらわれない新しい企業の育成が必要という考えを示した。
IP電話は常時接続向けキラーアプリケーションの1つ。イー・アクセスは間もなく、マイクロソフト(株)とWindows Messengerを使ったIP電話サービスを発表するという |
そして、今後のブロードバンド革命について「ADSLはおそらく2000万加入者まで伸びると見ている。コンテンツ関連も含め、ブロードバンドに関連する投資額はここ2、3年は増大するだろう。ブロードバンドの普及によってネットライフは変わる」という。また、日本の産業を見たとき、世界で最も広く普及し、高速で料金も安くなったブロードバンド環境を背景として、「ブロードバンド関連市場に焦点を合わせ、これをトリガーにして、日本のIT産業は完璧な回復基調に入ると考えている」と断言してスピーチを締めくくった。
イー・アクセスによる日本のブロードバンド市場予測 |
千本社長はもともと日本電信電話公社の出身で、第二電電(株)の創業に関わり(副社長)、さらにその後イー・アクセスを創業したという、まさに日本の通信業界を知り尽くし、そこへ風穴を開けてきた人物だけにその言葉には説得力がある。日本のブロードバンド接続は、2002年中に千本氏の予想する600万のADSLにCATVと光ファイバーを加え、1000万に迫るとの見方もある。以前は、ブロードバンドを生かすコンテンツがなければブロードバンド接続は普及しないという意見も聞かれたが、常時接続と競争により価格の下がった定額制料金によって、急速な伸びを示してきた。すでにVoIP技術による電話サービスが始まろうとしているが、世界有数のブロードバンド大国になろうとする今年、携帯電話でiモードが登場したように、日本発のブロードバンドサービスが登場してくるかもしれない。
テレホーダイに狂わされたインターネット生活時間帯は常時接続の普及により徐々に正常に戻るという |
イー・アクセス調べによる、ADSL導入前と導入後のインターネットコンテンツ利用の変化。動画を見る、インターネットラジオを聞く、ネットワークゲームなどが大きく増えている |