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【矢部直治のアキバB級グルメ探検隊(最終回)】アキバで30年!ホモ・サピエンスのハートを刺激する「ベンガル」

2001年12月21日 04時42分更新

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――想像以上に試行錯誤されたんスね。ってことは、他店や他国のカリーも研究したんですか?

店内の天井近くに謎の文字を発見。我々には発音すらわからないが、日本語では「カリーと紅茶の店(写真04)、バンガール(写真05)」という意味だという。来店したら要チェックだ!

「他店っていうのはあんまりないけど、インド大使館のパーティで「アジャンタ(麹町)」さんなんかには行きましたよ。「デリー(上野)」の先代の方とかと一緒に。アタシの場合、むしろ外国へ研究しに行ったわね。マレーシア、シンガポール、タイでしょ、それからインドでもボンベイ、マドラス、カルカッタ……あとどこに行ったかしら。とにかく、いろんなところいってカレーを食べたわけ。面白いのよ、どこも味がぜんぜん違って。いちばん辛かったのはタイだし、シンガポールはハイカラな感じだった。やっぱりね、本を読んで知るのと、実際に行ってみるのとじゃ違うのよ。その経験もまた、ワタシの「カリーの味」のヒントになってると思うわ」

――ナルホド。でも、そんな経験をお持ちならカリーにはライス以外の選択肢もあることはご存知ですよね。「ベンガル」で今後、「ナン」や「チャパティ」を出されたりしないんですか?

「だから、「ナン」なんて関係ないの! あのね、ワタシが作ったカリーの味は、最初から日本のうるち米に合うようにスパイスをブレンドしたもの。お客さん全員がインド人なら、そりゃあ現地そのままの味を再現するようにしますよ。でもココは日本、お客さんもほとんど日本人。ライスがイチバンなの! お米だってインド米じゃないんだから、インド風にこだわりすぎたってしょうがないじゃない。それにね、アナタは知らないかもしれないけど、インドでだって「ナン」をバンバン食べないのよ。ね、ダウラさん?」

ダウラさん(ベンガルの料理長・日本語ペラペラ):
「ハイ。インドの家庭ではふつう「チャパティ」か「プーリ」ですね。あ、もちろんゴハンも食べます。……えーと、ナンだっけ? ああ、「ナン」のハナシでしたね(注:ギャグとして発言)。ニホンでは「ナン」を出すカレー屋さんすごく多いけど、インドではいつも食べるもんじゃないです。というのは、家庭では焼かなくてお店から買ってくるものだから。これホントよ。日本人だって米は炊いても、パンはコンビニとかで買ってくるでしょ。ソレと同じことね」

「ほらね? まあ、アナタが言いたいこともわかるけど、すべてのお店が「ナン」を出す必要はないじゃない。ていうかね、今のみなさんは「ナン」とか「ケバブ」とかふつうに知ってるけど、そんなのココ5年、10年の話ですよ。それまではインドを旅行したことがあるとか、そういう人以外は知らなかったことなの。雑誌は少ないし、インターネットとかなかったわけだし、そもそもインド料理店自体が今ほどたくさんなかったんだからね。当然ライス以外を希望されるお客さんなんて一人もいなかったわよ」

――あっ、そうか! 子供のころスパゲティといえば、茹ですぎのソフト麺を油で炒め、トマトケチャップを混ぜた「ナポリタン」のこと。今みたくアルデンテに茹でた「パスタ」というのは、イタメシブーム以降の常識ですもんね。カリーにおける10年前の一般常識っていったら、まだ「バーモントカレー」や「ボンカレー」だったような気が

「でしょ? バブルとかあの頃だったかしらねえ……東京でこんなにたくさんの国の料理が食べられるようになったのは。つまり、アレですよ。食べる人の舌の感覚が肥えたってわけ。ウチに来るお客さんだって、いろんなカリー専門店を食べ歩いてると思うのよね。そういう意味じゃ、新メニューや新味を考えないわけじゃないわよ。でもね、変えないってのも大切なの」

「ウチはこの場所で30年近くずっとやってきたでしょ。そのあいだに神田青果市場が消え、電気屋さんはパソコン屋に変わって、街並みは昔とぜんぜん違ってしまった。でもね、ウチは変わってないのよ。味もお店も。こないだ青果市場で働いてた古い常連さんが、久しぶりに食べに来てくれたのね。彼が言ってましたよ。「十数年ぶりに食べたけど、昔とおんなじ味だった。うれしくて泣きそうになったよ」って」

「テレビのCFとかさ、週刊誌の記事とかさ、みなさん「変える」ことこそがチャレンジだとか、進歩みたいなこというじゃない。でも、アタシは「変えない」ってほうが勇気いるし、難しいことだと思うのよね。ワタシが30年前に作ったカリーを、いまの若いお客さんも美味しいって食べてくれるんですよ。これってワタシの味が、時代を超えても受け入れてもらえた証明じゃないかと。だから、味を変えたり、新しいメニューをたくさん作ることは考えられないわ。頑固? そうかもしれないけど、ワタシはそれだけ自分の舌を信頼してるし、ウチのカリーを誇りに思ってるってわけ。アナタもね、これから10年、20年後にまた食べに来てごらんなさい。ワタシのカリーは同じ味だから」



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