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【PCなんでも改造総研(最終回)】最強のCPUクーラー自作にチャレンジ!!

2002年01月23日 19時03分更新

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■再度真空に挑戦

 分解したクーラーを観察してガス漏れの原因を調べる。各パーツの接合はネジ留め併用なので、接着剤の強度を無視しても数百kgの力には耐えるはず。だが実際にはヒートシンク自体がガス圧による応力で変形し、隙間からガスが漏れたようだ。接着剤の乾燥も十分でなく、内部は生乾きだった。密閉状態での固着を期待するならエポキシ系などの硬化剤を混合するタイプの接着剤を使うべきだろう。しかし、内部に負圧がかかる場合は、ヒートシンクの変形は閉まり側に作用するため問題はない。フロンを作動液に使用することは後の課題として、まずは純水を注入して実験を続けよう。性能を考えてもフロンガスより水の方が潜熱が大きいため、氷点下で使用しないならば水を使用したほうが効率が良いかも知れない。

今度は慎重に、接着剤の乾燥を速めるためストーブで加熱。ここであせっては全てが水泡に帰すのでさらに48時間放置
クーラーに水を注入しバーナーで過熱。内部でお湯が激しく沸騰する状態でひっくり返し、余分な作動液を捨て素早く蓋を閉める
完成したクーラー

■期待の冷却性能

ミドルタワーケースに組み込んだ気化式巨大クーラー。ケース内部のCPU周辺の空間をほぼ使い切ってしまうが他のパーツには干渉しない

 ついに完成した気化式クーラーをPCに組み込む。実験用に用意したCPUはAthlon-1.2GHz。少々型落ちのCPUではあるが、新コアPalomino採用のAthlon XPは従来のThunderbirdコアを採用するAthlonに比べ、同クロックで最大約20%の低消費電力化がなされており、発熱という面では従来のAthlonのほうが熱源としては優秀(?)だ。クーラーの冷却性能を評価するため、マザーボード上に搭載されるサーミスタに熱伝導ゲルシートを貼りCPUコア裏に接触させ、マザーボードモニタリングツールによりCPU温度を計測した。また、冷却性能の特性を調べるため、Windows98のアイドリング状態でCPU温度が平衡状態に達するまで放置、温度計測を始めてから、スーパーπ(3355万桁)を実行し負荷をかけ、1分おき30分間のCPU温度を計測した。比較対象として、銅製ヒートシンクを採用する強力なCPUクーラー、カニエ製Hedgehog-238Mを用いて同条件にて計測している。結果はグラフにまとめてあるので参照して戴きたい。



 残念ながらWindows98アイドル時のCPU温度は、はるかに小さいヒートシンクを採用するHedgehogと同じという結果になった。ただし、負荷時の温度は気化式クーラーの方が約2℃ほど低い結果になっている。気化式クーラーの場合、気相変化に要する温度差が数度必要であるのと素材の違いによる熱抵抗がマイナス要素になっていると考えられる。代りに巨大ヒートシンクによる放熱能力の大きさが負荷時にはマイナス要素を逆転するプラス要素に働いており、大きな熱量を処理する場合に、より高い性能を発揮していると思われる。この傾向は原理的にヒートパイプを採用するクーラー全てにあてはまるものと考えられ、今回の実験結果はその特性を良く表している。この結果から、やはり熱源に直接ヒートシンクを取り付けたほうが効率が良いが、ピンポイントで発生する、ある程度以上の熱量を処理する場合、ヒートパイプは有効な熱の輸送手段となり得ることが解る。

 とはいえ、これだけ手間をかけて6cm角の銅製ヒートシンクとほぼ同等の冷却性能というのでは引っ込みがつかない。何とか性能アップを計れないだろうか? 最終的な放熱能力では10cm角ファンを2つ搭載する自作クーラーの方が圧倒的に高いはずだ。ボトルネックになっている部分は「CPUと気化室の熱抵抗」、「作動液の蒸発、凝集サイクルに要する温度差による損失」の2点が疑われる。CPUとの熱抵抗に関しては気化室の材質に依存する部分が高く、再製作以外にはクーラーの締付け圧力を上げるくらいしか手はない。だが、後者に関しては耐圧テスト時に一度失敗している作動液のフロン化によって改善するかも知れない。フロンを使用すれば内圧が高まるため蒸気の濃度も濃くなる。さらにヒートパイプ関連の情報をチェックすると、「アルミ製のコンテナに水を使うのは不可」という情報もあった。水を使った場合のデータも取れたことだし、3気圧前後の圧力までは今回のクーラーは耐えられる可能性が高い。ここは一発、爆発覚悟でフロンを充填してみよう。



 で、結果はグラフの通り。やりました、成功です!! 蒸気の濃度が関係するのか、素材と作動液の相性か、それとも水を使った場合の真空度に難があったのか、何はともあれ性能が向上。しかし、何だかちょっと息苦しい。最初は緊張のせいかと思ったが、気のせいではなく苦しい…。フロンガスは多少吸引しても特に…、あっ、筆者の作業場は現在、電気代節約のためエアコンを止めて石油ファンヒーターで暖房中だった。無害なはずのフロンが極度に加熱されると(たぶん)塩素ガスが発生するような…。やっややっ、これはホントにヤバイ…。慌てて換気したが、死ぬかと思った。ライター用のブタンガスを使うという手段も考えたが、爆発すると怖いということで中止。まさかフロンでこんな恐ろしい思いをするとは…。皆様フロンガスの取扱にはご注意下さい(ごほっ)。  実のところ今回製作したクーラーは、加工上の理由から熱交換効率を優先した設計にはなっていない。量産品のクーラーであればもっと小型軽量で性能を向上でき、かつ生産コストを低く押さえることも可能だろう。今回の結果をふまえて、さらに高性能なクーラーを製作してみたいところだが、残念ながら今回は時間切れ。

 今回も工作が多く完成が遅れてしまいましたが、気付いてみればもう2002年1月中旬。本ウェブサイトがオープンして、はや1年が経ちました。毎度遅れ気味で担当編集者にひんしゅくを買っていることもあり、次回どうなってしまうのか個人的に非常に心配だったりもしますが、最終回が完結して筆者はとても嬉しかったりします。では。また機会がございましたらお会いいたしましょう。さようなら~。

※注意
改造によっておこる結果によるいかなる損害についても、筆者およびAkiba2GO!編集部、製造メーカー、販売店はその責を負いません。機器の分解・改造は自己の責任において行って下さい。なお、この記事中の内容は筆者の環境でテストした結果であり、記事中の結果を筆者およびAkiba2GO!編集部が保証するものではありません。この記事についての個別のご質問・お問い合わせにお答えすることはできませんので、あらかじめご了承ください。

【筆者プロフィール】森本琢司氏。本来はペルチェなどを使ったオーバークロック系、冷却系に一番関心があるのだが、趣味でPC改造も数多く手がけている。ハンドニプラーやその他工具を使っての改造は得意中の得意。

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