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売上は大型店舗並みに成長――HMVのオンラインCDストア“www.hmv.co.jp”担当者に聞く

2001年11月19日 22時33分更新

文● 編集部 桑本美鈴

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HMVジャパン(株)は、同社が運営するオンラインCDストア“www.hmv.co.jp”を7日付けで大幅にリニューアルした。順調にサイト売上を伸ばし続けている同サイトの開発担当者である同社取締役E-Commerce本部長のDavid Terrill(デイビット・テリル)氏に、サイト戦略についてお話を伺った。

David Terrill取締役
HMVジャパン取締役E-Commerce本部長のDavid Terrill氏
[編集部] 「今回のリニューアルポイントを教えてください」
[Terrill氏] 「まず、常時10万タイトル以上の商品ストック(在庫)を持ったウェアハウスを新設しました。ユーザーから注文をいただいた際、商品の在庫がある場合は24時間以内にウェアハウスから商品を出荷できます。オンラインショップ用の在庫を持つことで配送期間を短縮したいと考えています。また、“個人情報”や“メールマガジン”、“ショッピングカート”、“HMVへのコンタクト”、“ヘルプ”といったウェブサイトのバックエリア部分も変更され、それぞれがより詳細に分かりやすくなりました」

「リニューアルに向けて新しいハードウェアとソフトウェアを導入したので、サイト全体のスピードも改善されました。例えば、これまでのサイトでは任意のアーティストを検索する際、結果が表示まで12秒かかりましたが、リニューアル後は7秒で結果を表示できます。そのほか、ウェブサイト全ページのルックスも変更しました。従来から人気のあるページはより強化する一方、人気のなかったページは削除しました」

「さらに、データベースを、アーティストデータベースと商品データベースの2つに分けたことで、より多くの情報が掲載できるようになり、検索機能もよりパワフルとなりました。今後もデータベース自体のパワーを上げていきます。また、デザインやサイト構成自体は変えませんが、発売予定商品をレコード会社ごとに表示したり、店舗情報を強化したりといった改善も行なっていきます。サイトは生き物であり常に進化しています」
トップページ画面
今月上旬にリニューアルしたばかりの“www.hmv.co.jp”サイトのトップページ
[編集部] 「リニューアル後のユーザーの反応はいかがですか」
[Terrill氏] 「インパクトは大きいですね。売上はリニューアル前と比べて20%増加しました。週間ページビューも平均450万から700万ページビューに迫る勢いです。売上が伸びた要因は、これまでウェブサイト自体の使い勝手が良くなかったこともあるでしょうし、注文した商品の配送状況確認が容易になったこと、サイト自体のスピードが速くなったこともあるでしょう」

「'99年9月にECサイトをスタートしましたが、いろいろアイデアがあったにも関わらずうまく実現できなかった。今振り返ると良いサイトではなかったと思います。目標売上は達成しましたが、当時はまだECサイトというものを学んでいる状態でした。当時の売上はHMV34店舗の中でいちばん小型の店舗と同じくらいでしたが、昨年6月にサイトをリニューアルし売上が伸びました。昨年6月から今年7月までの売上は、当時と比較して600%増となっています。実店舗で言えば大型店並みになりました。7月以降も順調で、今回のリニューアル後はさらに売上が伸びました」
[編集部] 「ウェブサイトのユーザー層と実店舗のユーザー層に違いはありますか?」
[Terrill氏] 「あります。サイトのユーザーのほうが年代が上ですね。そして男性が多い。また実店舗と比べて売上分布が広い。首都圏以外の売上もかなり多いですよ。それから特徴的なのが、サイトでの売上の35%が21時~翌深夜1時に購入されていること。日本のユーザーは買い物する時間が遅いですね。深夜1時なんて寝る時間だと思うのですが(笑)」

「それでもここ1年で、実店舗とサイトのユーザー層は似てきているように感じます。サイトのユーザーは女性の比率が少ないのですが、次第に伸びてきています。また、クレジットカードをオンラインで使うことにまだ躊躇されているユーザーが多いのですが、その障壁も次第に低くなってきていると思います」

競合サイトとの違いは膨大な情報量

[編集部] 「競合サイトとの差別化はどうやって図られているのでしょうか」
[Terrill氏] 「われわれのサイトは、他のサイトと比べると情報量が格段に多い。ある競合サイトは、私から見ると画像しかなく情報がまったく掲載されていません。それが悪いとは言いませんが、おそらくサイトとしての方向性が違うのでしょう。われわれのサイトは、例えばジャパニーズポップスエリアだけでも他の競合サイト全体と同じくらいのボリュームがあると思っています」

「それから、ユーザーに楽しんでもらうためのさまざまなオプションを用意しています。例えば、トップ25パンクアルバム紹介といった特集や、数百におよぶチャートを揃えています。アーティスト特集ページも人気があります。プロモーションとして、ディスカウントもかなり行なっています」

「“www.hmv.co.jp”は、プロモーションサイトではなくオンラインショップサイトです。ひとつの店舗としてみているので、常にユーザーが必要としている情報を提供するよう心がけています。ただデータを羅列したページを表示しているわけではありません」

「例えば、来月導入する“A-Zリスト”“カナリスト”があります。これはユーザーが実店舗に行ってアーティスト名をアルファベットやカナで探していくのと同じ感覚で、アーティスト名から商品を検索できる機能です。こういった新機能のインスピレーションは実店舗で経験したものからそのまま得ています」

「オンラインではできて実店舗ではできないものもあります。例えば、実店舗で大きなキャンペーンをやるときは準備に4~6週間かかりますが、サイトでは2日もあればキャンペーンページができるのです。オンラインのメリットは迅速に動けるということ。競合サイトとの差別化を図るためにも、新譜ニュースをいち早く届ける、CDジャケット写真が手に入ればすぐ掲載するといった、最新情報をいかに早くユーザーに届けるかという点を重視しています」

今の音楽配信ビジネスには問題が山積み

[編集部] 「“www.hmv.co.jp”はCDパッケージ販売をメインに展開されていますが、インターネット音楽配信ビジネスについてはどうお考えですか」
[Terrill氏] 「音楽データのダウンロード販売についてもポジティブなことを言わなければいけないと思うのですが……。ダウンロード販売のページを見ているユーザーは多いのですが、実際に購入しているユーザーは少ないのです。この2年ほど私は言い続けているのですが、ダウンロードというフォーマットは将来的なフォーマットであり、現在普及するフォーマットではないと思うのです」

「音楽配信については、まだ解決されていない業界内での問題が多くあります。例えば、著作権保護の問題。また、ユーザーは本来なら簡単な方法でダウンロード購入できなくてはいけないのに、現実は1曲ダウンロード購入するのに20項目もの情報を入力しなければならない。さらに、他の商品と一緒に買い物できなければいけないのに、今はまだそうなっていませんね。それに、1曲ダウンロードするのに通信料金が200円もかかっているようではダメです」

「また、購入したデータが物理的な価値あるものにならなければ音楽配信は普及しないと思います。ダウンロードのデメリットは購入しても目に見えない、触れないということです。こういったすべての問題が業界内で解決されなければ、音楽配信はアイデア止まりとなり、成功の日はないでしょう」

「2年前は音楽配信についてよくインタビューを受け、ジャーナリストから“音楽配信がCDマーケットに取ってかわるのではないか”と言われました。本当に2年前はそう言っていたジャーナリストだらけだったんですよ。ですがそのようなことは絶対に起きないと思います。例えば、CDを誰かにプレゼントするというのは素敵なことですが、ダウンロードしたデータはプレゼントにはならないと思うんですね。どうやって目に見えない商品に価値観を付けるかというのが最も大きな問題です」

「もちろん、音楽配信というマーケットが育つようにできる限りのことはやりたいと思っています。しかし、例えば今5分ほど時間に余裕があって、その5分をダウンロード販売の強化に当てるか、パッケージ商品販売の強化に当てるかと言われたら、絶対にパッケージ商品販売の強化に当てますね」
[編集部] 「今後のサイトでのビジネス目標について教えてください」
[Terrill氏] 「われわれは小売業ですから当然売上プランがあり、それは順調に達成してきています。サイトに必要なのは常に改善していくこと。改善すれば売上も利益率も上がるでしょう。すでにわれわれのウェブサイトは日本で最大の音楽サイトだと思っています。個人的な目標としては、ユーザーにアクセスしてもらって楽しんでもらうこと。1度楽しんでもらえれば、またそのユーザーはサイトにアクセスしてきてくれるでしょうし、そういった人たちが固定客となっていくと思います」

「サイトのリニューアル時は、日本国内トップのECサイトになるだけでなく、国内でのベストインターネットサイトになるというのが目標でした。リニューアル前のサイトと比べると非常に良くなったと思います。すべてのユーザーに“オンラインで買い物する際はHMVに行こう”と思っていただけるようがんばっています」

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