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アドビがパートナー企業と“Adobe Acrobatビジネス パートナーキックオフ”を開催――e-Japanに向け進撃開始!

2001年11月16日 23時22分更新

文● 千葉英寿

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11月15日、シヤチハタ(株)、日本ベリサイン(株)、三菱電機(株)とともに電子申請、電子決裁の分野で必須技術である電子署名ソリューションでの協業を発表したばかりのアドビシステムズ(株)は、同日、品川プリンスホテルにおいて、ビジネスパートナーイベント“Adobe Acrobatビジネスパートナーキックオフ”を開催した。

●マイクロソフトにも勝てるソフトウェア企業へ!

同イベントはAdobe Acrobatのエンタープライズ市場におけるビジネスパートナーを招き、来日中の米アドビシステムズ社の社長兼CEO、ブルース・チゼン氏を中心に、同社の提唱するビジョン“Network Publishing”への取り組みと現状、展望、さらに関連したユーザー事例およびソリューション事例を紹介するというものだ。

冒頭、ブルース・チゼン氏が「Network Publishingにおけるアドビの今後の方向性について」として講演を行なった。

ブルース・チゼン氏「2~3年の内に50億ドル規模の企業に」と語った米アドビシステムズ社社長兼CEOのブルース・チゼン氏

まず、チゼン氏は「弊社はマイクロソフトに次いで世界第2位のソフトウェア企業だ。1位とはかなり差があるが、年商12億ドル(約1470億円)規模の企業に成長した。先だって、米国金融界向けに90億ドル(約1兆1045億円)まで成長できると発表している。さまざまな協力各社の力を結集すれば、マイクロソフトにも勝てるのではないか」とビジネスの拡大に意欲を見せた。

チゼン氏はNetwork Publishingのビジョンを実現するのに克服しなければならない課題として、「企業や省庁での縦割りのビジネスが行なわれているために、各メディアごとにバラバラで、コストがかかってしまう」と指摘。「ワークフローをシームレスで行なうために、アドビが情報発信の重要な役目を果たす。また、コンテンツの再利用が容易になるような製品やサービスを提供する予定だ」と語った。

その具体的な展開として、「制作物やレイアウトなどのドキュメントにタグやラベルをつけるメタデータの作成、処理、交換を標準化するもの技術プラットフォームである“XMP(エクステンシブルメタデータプラットフォーム)”、グラフィックスやイメージをダイナミックに生成するサーバー製品の『Adobe AlterCast』といった製品を出していく」とした。また、「すでに3億を超えるAcrobat Readerを配布しているが、いまでは13のプラットフォームでの利用が実現しており、コンパックコンピュータのiPaqのようなPocket PCでも扱えるようになり、ノキアのシンビアンにPDFを実装する技術も開発した」と語った。

最後にチゼン氏は、「アドビは顧客が効率と生産性を上げる製品を投入する。世界が紙からウェブベースのシステムへの移行を果たすのがPDFだ」と語った。

石井幹氏「電子政府はPDFが解決する」と語った(株)アドビシステムズ代表取締役副社長の石井幹氏

引き続き、同社代表取締役副社長の石井幹氏が登壇し、より日本の社会の現状に即した「Adobe AcrobatとeFormがもたらす無限の可能性」と題して講演した。

まず、石井氏は「社内にはさまざまな種類の紙があるが、すべてPDFにできる。それによって、コストダウンはもちろん、省スペース化やスピードアップによる伝達の効率化だけではなく、ディシジョン(意志決定)でもスピードアップがなされる」とした。

2005年には、B2Bで110兆円規模、B2Cで12兆円規模へ市場の急拡大が見込まれている電子商取引分野の問題点として、石井氏は「セキュリティーについて現在でも若干の懸念がある。盗み見、改ざんをクリアにするのが成功の秘訣だ。また、本人認証や否認の防止も含めた認証基盤の確立が必要だ。その点、Acrobatなら機密性に優れ、認証基盤との連携も解決する」とPDFの有効性を強調した。

さらにe-Japan=電子政府の実現化に関して、「庁内のペーパーレス化、ウェブ上での情報提供開示の際のアクセシビリティーの問題やPDA、携帯電話などの端末での対応やデータベースとの連携などにより、必要な情報を必要な形で入手でき、申請を電子的に行なえるワンストップ行政サービスの実現が期待されている。各行政の独自性を残しながら連携、共用するのはPDFが解決する」とした。

この後、実際に申請書のダウンロードサービスとして、ある県庁でのPDFによる申請、認定の実際をデモを行なった。このデモでは、発表になったばかりの電子印鑑の技術などを盛り込んだものとなった。

アクサと日立が導入事例を紹介

後半は、こうしたPDFを活用した事例として、アクサ生命保険(株)と(株)日立製作所の2社が事例報告を行なった。

横川英樹氏PDFが事業統合の課程でポイントとなった。アクサ生命保険(株)の横川英樹氏

まず、アクサ生命保険(株)のITプランニングビジネスリレーションシップマネージャー横川英樹氏が登場し、「保険業務におけるAdobe PDFの使用事例のご紹介」と題して講演した。

同社はフランス、パリに本拠を持つ世界企業のAXAグループの一員で2000年4月に旧アクサ生命と日本団体生命保険と事業統合を行ない現在、国内11位の位置にいる“AA”の保険財務力格付けをもつ保険会社だ。

この事業統合にあたって与えられたミッションが、“OTOBOS(On Time On Budget On Space)”(決められた時間に決められた予算で決められた成果を)を目標に進めることであり、具体的には新契約事務、支払い事務において、旧日団、旧アクサの各システムの残課題をクリアにしつつ統合し、ホストを変えずにいかに新しいシステムを導入できるか、という点だった。さらに新生アクサ生命の課題として、商品統合の早期実現、eビジネスへの取り組みがあった。

これらの解決手段として選ばれたのが、PDFソリューションだった。実際には(株)ハンモックの協力を得て、米Cardiff Software社が開発した手書きOCRソフト『TELEform』を活用したシステムとなった。PDFを選択した理由は、同一データの複数回入力の排除、紙と同じレイアウトなので入力しやすい、約款内規にあわないデータはエラーになるが、これを極力インプット段階で省くインプットチェックのスクリプトを組み込むことができるといった点があった。また、証拠書類を残すにも、PDFならそのまま出力すれば印刷品質の高いままで残せるという点もあった。

要件定義ができてから約3ヵ月という短期間で構築にこぎ着けたが、問題も出た。インプットチェックをできるだけ多く盛り込んだため、ファイルサイズが大きくなり(大きいもので800KB)、64/128kbpsという営業店とのネットワーク環境のため表示に時間がかかってしまうという問題点が浮上した。結局、クライアント側にPDFファイルを置くことで速くすることができたが、その分、メンテナンスが増え、テストが非常に多くなった。これについては、代理店と自社で分担して行なっている。

最後に横川氏は「“人と紙の商売”と言われる保険業務において、他業界に増して応用できる業務プロセスが多数埋もれていると思う。アドビ社をはじめパートナー各社のみなさんにPDFを活用した斬新なソリューションを期待したい」と締めくくった。

続いて、(株)日立製作所の情報システム事業部事業企画本部部長の中村誠氏が「社内適用事例とPDFソリューション」と題して講演を行なった。

中村誠氏
「本当に使われる電子文書のPDFソリューションを」と語った(株)日立製作所の中村誠氏

まず、中村氏は「日立社内はMicrosoft Officeフォーマットで標準化していたが、海外のやりとりでバージョン間での非互換により、日本から送ったファイルが海外でワーニングが出るといった問題があり、特に米国からAcrbat利用の要求が以前からあった。これについて、2000年~2001年の準備期間を経て、PDFを社内標準に採用した」とPDF導入の経緯を語った。

採用の理由はいくつかあり、どんなところでも参照できる点として、デザイン部門でMacを活用していることもあり、クロスプラットフォームであること、データ互換という点でTIFFイメージがハンドリングしやすいことも理由となった。また、書面が電子文書でも構わないという『IT書面一括法』ができたこともPDFが有効なチョイスであることの理由となった。中村氏は、「社内展開の注意点としては、128bit暗号化のPDFがAcrobat 4.0はNGなので、ここは考えなければならない点といえる」とした。

引き続き、中村氏はPDFをベースとした3つの社内事例を紹介した。

茨城県にある原子力事業部において、1日当たり7000ページという大量の新規ドキュメントを作成しており、バージョン管理、設計仕様がどんどん変わる点やトラックを連ねて運ぶような紙量が問題となっていた。検索に関しても、バインダーに入れているので探せないわけではないが、大変時間がかかるものだった。こうしたことから、電子化が急務だった。PDFを採用したことで、ウェブへ掲載することで配布・回覧を廃止、原本性、長期保存も実現した。導入時にはAdobe Acrobat 5.0を1200本導入しており、現在、Acrobat Approval 5.0の導入を検討している。

同社では給与明細書もPDF化している。PDF化し、電子メールで配布することで、紙の場合では印刷管理や配送においての厳密な管理が必要であったのが、パスワードを設定することで誤配送による該当者以外の閲覧防止にも対応し、コストはもちろん、保存や機密性、内容の改ざん防止も確保できた。

また、11万枚を発行しているICチップを載せたクレジットカードとして使える社員IDカードにもPDFを活用している。シングルログインマネージャーに差し込んで使い、個人証明書によるPDF電子署名システムを構築している。このサービスをインターネットに拡大することで、家族や退職者に広げ、現在の30万人規模を100万人規模に拡大できる。さらに今後は、家庭でできるPKIアプリケーションに拡大を計画している。

中村氏は「これらの事例はソリューションにはほど遠いを思われるかもしれないが、社内事例をソリューションにしていきたいと考えている。みなさんとともに本当に使われる電子文書のPDFソリューションにしたい」と語った。

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