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IPA、活動成果を一同に集めた“IPA Technology Expo”を開催――ユニークな技術が多数

2001年11月15日 23時44分更新

文● 編集部 佐々木千之

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情報処理振興事業協会(IPA)(※1)は15日、東京・文京区の東京ドームシティにおいて、これまで行なってきた研究開発事業の成果を集めた展示会“ITX 2001 第1回 IPA Technology Expo~e-Japanのあけぼの~”(以下ITX 2001)を開催した。

※1 情報処理振興事業協会(IPA:Information-technology Promotion Agency, Japan)は、“情報処理の促進に関する法律”に基づいて'70年に設立された、政府関係機関(経済産業省の特別認可法人)。

IPAはこれまで、次世代ソフトウェア開発の支援、IT関連の人材育成事業、ITベンチャー事業化支援、情報セキュリティー対策事業などを行なってきた。ITX 2001はこれまでのIPA事業活動の成果を、一般の人々にも公開し、成果の普及とIPAの活動をアピールすることを目的としており、今後1年に1回開催する予定。

第1回となる今回は東京ドームシティ内のプリズムホールと東京ドームホテルに分かれて、展示会と講演/セミナーが行なわれた。展示会は、“e-Japanのあけぼの”というテーマのもと、今後のITに必要な基盤技術を集めた“e-インフラストラクチャー”、天才クリエーターを発掘する“e-クリエーター”、医療関連のITを紹介する“e-メディカル”など、8つのゾーンに分かれ、デモンストレーションなどが行なわれた。ここでは展示会で見つけた目新しい技術や製品をいくつか紹介する。

『NetSkate』の画面。中央右の灰色の円で囲まれた端末から、右下の端末2台に対してアタックが行なわれていることを表わしている
『NetSkate』の画面。中央右の灰色の円で囲まれた端末から、右下の端末2台に対してアタックが行なわれていることを表わしている。ネットワーク地図内の機器のステータスを表示することも可能

(株)NTTデータ東北支社と(株)サイバー・ソリューションズが展示していたのが、ネットワーク地図ベースのセキュリティー管理システム『NetSkate』。これまでのネットワークセキュリティーシステムではSNMPエージェントからのデータをリストとして表示しているものが多かったというが、NetSkateではネットワークの“地図”を自動的に生成し、SNMPエージェントからの情報を元にして不正なアクションを行なっている端末と、その攻撃を受けている端末などをネットワーク地図上に重ねて表示、進入経路を可視化する。これによって、トラブル時にネットワーク内のどの部分で問題が起きているかをすぐに判断でき、対処が迅速に行なえるとしている。ネットワーク地図の自動生成機能はこれまでになかったものだという。

東芝IT コントロールシステム(株)は、人間の活動を支援する“知的空間”に関する研究を展示。知的空間とは、“知能化されたセンサーに囲まれた空間”を意味している。展示では画像センサーとコンピューターを組み合わせた“DIND(Distributed Intelligent Network Device)”をネットワークで接続して複数配置し、DINDが協調制御可能な知的空間“ISpace”を構築。このISpace内をDINDによって無線制御されたロボットが動き回る、というデモを行なった。

ISpace内を動き回るロボット。灰色の部分が川(障害物)で、黒色の部分が橋という設定。橋の場所を動かしてもすぐに対応する
ISpace内を動き回るロボット。灰色の部分が川(障害物)で、黒色の部分が橋という設定。橋の場所を動かしてもすぐに対応する。四隅にある4色のポールは、ロボットの前後を示すもの

このデモのポイントは、DINDが空間内の障害物を検知して、安全な移動経路を自動的にロボットに指示するところにある。処理はリアルタイムに行なわれるため、障害物の位置が変わってもすぐに対応できるという。応用としては、工場や病院内にDINDを配置して、荷物搬送用のロボットを制御する、といったことが考えられている。従来のシステムでは、ロボットに各種のセンサーやコンピューターなど、自立型のシステムを構築するものが多いが、DINDを使って外部からコントロールすることで、システム全体の価格を低く抑えることを狙っている。

DINDが認識しているISpaceのようす。このデモでは、障害物かどうかの判断は色で行ない、その輪郭を抽出して、安全な場所を判断している
DINDが認識しているISpaceのようす。このデモでは、障害物かどうかの判断は色で行ない、その輪郭を抽出して、安全な場所を判断している

(株)情報技術コンソーシアムは、京都工芸繊維大学の藤田和弘博士と共同で開発したという、“劣化画像復元処理システム”を展示していた。写真を撮る際に、被写体が動いたり手ぶれなどによってぶれてしまった画像や、ピントがうまく合わずにぼけてしまった画像に対して、どのくらいぶれ/ぼけたのかを計算して、画像フィルターの適切なパラメーターを自動的に設定して、適用することができるという。独自のパラメーター推定理論と独自開発した画像フィルターによって、使用者の技量や経験に依存しない処理が可能としている。画像全体が劣化したものの復元が可能だが、現在、部分的に劣化した画像の復元について研究開発中であるという。

情報技術コンソーシアムの劣化画像復元処理ソフト。すでに警察への納入実績があるという
情報技術コンソーシアムの劣化画像復元処理ソフト。すでに警察への納入実績があるという
開発中の、部分劣化画像復元処理システムの画面
開発中の、部分劣化画像復元処理システムの画面

200字ほどの文字サンプルを用意するだけで、その文字の特徴を認識・抽出し、第2水準まで約7000字のTrueTypeフォントを自動生成するソフトを展示していたのが(株)テクノアドバンス。これまで、新しいフォントを作るには“タイポグラファー”と呼ばれる専門のデザイナーがすべての文字を書いていたので、フォント会社が1年に2種類程度しか作れなかったが、このシステムによって数十種類のフォント生成が可能だとしている。現在はソフトウェアの販売はしておらず、企業などを対象に、1フォントあたり数十万円でオリジナルフォント作成サービスを行なっているが、将来は個人でも利用できる程度の価格に引き下げたいとしている。

フォント生成ソフト『FONT WIZARD』で、オリジナルの文字から特徴を抽出しているところ
フォント生成ソフト『FONT WIZARD』で、オリジナルの文字から特徴を抽出しているところ
右側の文書の文字をもとにして作ったフォントで印刷したのが左側の手紙
右側の文書の文字をもとにして作ったフォントで印刷したのが左側の手紙。テクノアドバンスの片岡社長が使っているもので、もとになった文字はひいおじいさんが書いたものという

独創的な技術がたくさん展示されていたe-クリエーターゾーン

会場で小さなブースが集まった展示ながら、いつも来場者で混雑していたのがe-クリエーターゾーン。このゾーンは、日本の各地にいるはずの天才クリエーターを発掘・育成するという“未踏ソフトウェア創造事業”(※2)の成果を展示しているコーナー。

※2 未踏ソフトウェア創造事業:2000年度に経済産業省とIPAで開始した事業。まず“プロジェクトマネージャ”12人を選定して、予算を配分(2000年度では1人8000万円)する。プロジェクトマネージャは、それぞれが独自の考えに基づいた開発テーマで、個人を対象に募集し、採択した個人の指導、評価を行なう。募集するテーマ、採択の基準、金額の配分、指導の方法などは、すべてプロジェクトマネージャの裁量に任されていることが大きな特徴。この事業の経過は、IPAのホームページで公開している。

豊橋技術科学大学の梅村恭司助教授が展示していたのは、“未踏テキスト情報中のキーワードの自動抽出システム”。これまで、テキスト中のキーワードを抽出する際には、まずどのような単語をキーワードとして認識するかという“辞書”を用意し、その辞書を元に抽出を行なっていたという。この方法では、新しい単語や、複合語が登場したときに対応できないという問題があるという。例えば、“Web”と“サービス”という単語を辞書に持っていたとしても、“Webサービス”という単語としては認識できなかったという。梅村助教授が開発したアルゴリズムでは、辞書がない状態から、テキストを処理しながらキーワードを抽出できるため、このような問題が起きず、新しい技術情報分野のテキストで、精度の高い情報検索が行なえるという。

未踏テキスト情報中のキーワードの自動抽出システムを使った、住友電工情報システム(株)の類似情報検索エンジン『QuickSolution』
未踏テキスト情報中のキーワードの自動抽出システムを使った、住友電工情報システム(株)の情報検索システム『QuickSolution』

(株)日立インフォメーションテクノロジーの山崎敏氏は、高速圧縮・高速展開・高圧縮率の次世代アーカイバーソフト(圧縮形式名“yz2”)を展示していた。yz2は、現在広く使われている“LZH”や“ZIP”などと同じ可逆圧縮(ロスレス圧縮)の方式。LZHやZIPが利用しているHuffman符号化方式に代えてRangeCode符号化方式を採用、辞書構造を改良したことで、LZH/ZIPと比較して圧縮速度が約3倍、展開速度が約2倍と高速で、圧縮率もおよそ10%高いものになったという。山崎氏はWindows用のソフトを開発中だが、ホームページでオープンソースとして公開しており、改造・販売もライセンスフリーとしている。

yz2とLZH/ZIPとの比較表
yz2とLZH/ZIPとの比較表

香川大学工学部信頼性情報システム工学科の垂水浩幸教授が開発したのが、ある場所、ある時間にアクセスできる情報という“SpaceTag”。街のある場所に“貼り付ける”ことができる仮想の付箋紙のようなシステムだ。“その場所に行かなければ見ることができない情報”を提供できる。現時点では、GPS機能を持った携帯電話で、特定の場所を訪れるとその場所に貼られたSpaceTagの情報にアクセスできる、といったシステムを想定しているが、将来はウェアラブル端末などと組み合わせてゲームや観光案内などへの応用が考えられるとしている。

SpaceTagのデモシステムの画面。左の携帯電話を持ったユーザーが、右の地図の中を移動しているという想定で、情報のある場所に来るとアイコンが現れる
SpaceTagのデモシステムの画面。左の携帯電話を持ったユーザーが、右の地図の中を移動しているという想定で、情報のある場所に来るとアイコンが現れる

(有)アントラッドの和田健之介氏は“双方向型ネットワーク対応仮想空間共同構築システム”を開発し、仮想空間の中を行動する“アバター”(キャラクター)を展示していた。一見、3D表示のネットワークゲームのような画面だが、この仮想空間内では、独自開発した超高速演算方式による物理シミュレーションや、複数のアバターが同じ空間で行動した際にイベントの同期保証を行なう通信制御システムなどが組み込まれている。表示するアニメーションも、4次元の超複素関数を高次補間したなめらかなものだとしている。現在はネットワークを流れるデータが多いため、同じ空間を共有できるアバターは10BASE-Tネットワークで8人までだが、今後はもっと多くしたいという。

仮想空間に積み上げられた箱に、球をぶつけるアバター。箱が球をぶつけられるたびにずれていき、リアルに崩れ落ちていた
仮想空間に積み上げられた箱に、球をぶつけるアバター。箱が球をぶつけられるたびにずれていき、リアルに崩れ落ちていた

いつでもどこでも人に話しかけるような感覚で家電やコンピュータの操作ができるように、という目標で、産業技術総合研究所の長谷川修氏が開発中なのが“ユーザー支援のための携帯型対話エージェント”。展示していた試作システムはノートパソコンを使い、上部のカメラでユーザーを認識、識別して、エージェントと音声による対話を行なうというもの。ユーザーを認識するカメラの部分は、2台のカメラを使ったステレオ方式を採用し、ユーザーと背景を区別することができるため、背景が変わっても高精度の認識が可能で、この部分だけでも十分実用になるとしている。将来はロボットなどにこのシステムを組み込んで“サイバー個人執事”としての利用を想定しているという。

携帯型対話エージェントシステムのデモ
携帯型対話エージェントシステムのデモ。ディスプレー上部の、2つ穴の空いた銀色の部品がカメラになっている
開発者で工学博士の長谷川修氏。産業技術総合研究所では脳のシステムとしての研究が専門だという
開発者で工学博士の長谷川修氏。産業技術総合研究所では脳のシステムとしての研究が専門で、赤ん坊が言葉を学んでいく仕組みを研究中という

IPAは、ITX 2001事前説明会で、およそ5500名の来場者を見込むとしていたが、実際には約2500名だったということで、無料のイベントとしてはやや寂しい数字となった。しかし、来場者の多くが質問などをしながらじっくり見て回っている様子で、来場者数の割に展示スペースはいつも混み合っているのが印象に残った。展示は地味なものが多かったが、内容はほかのイベントではあまり見られないものだった。特に未踏ソフトウェア創造事業の研究は非常に面白いものが多く、日本の個人の開発パワーというものが感じられた。

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