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日本TI、DLP新技術説明会を開催――より高画質・低コスト製品が2002年に登場

2001年11月13日 23時27分更新

文● 編集部 佐々木千之

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日本テキサス・インスツルメンツ(株)(日本TI)は13日、東京・新宿の本社にプレス関係者を集め、DLP(※1)製品の現状と新技術に関する説明会を開催した。新技術の導入で高画質化、低コスト化が図れるとしている。

※1 DLP(Digital Light Processing):米テキサス・インスツルメンツ社が'87年に開発した、角度を制御可能な超小型の正方形の鏡をシリコンウエハー上に並べたDMD(Digital Micromirror Device)を使用した、デジタル制御による画像表示技術およびシステム。DMDの製造工程はCMOSのSRAMとほぼ同じとしている。

DLP技術によってプロジェクターが小型・軽量に

説明会ではまず、日本TIオフィサーでDLP事業部長の堀内豊太郎氏が2001年のDLP関連のトピックを紹介した。

日本TIオフィサーでDLP事業部長の堀内豊太郎氏
日本TIオフィサーでDLP事業部長の堀内豊太郎氏

ビジネス向けDLPプロジェクター製品では、プラスビジョン(株)がビジネス向けのポータブル製品として初めて重さ1kgを切る(約0.9kg)『V-807』『V-1080』を発売したことと、重さ2.5kg程度で2000NSIルーメンと高輝度なプロジェクターを開発できたことを挙げた。重さ1.35kg以下のプロジェクターでは、ほぼ100%がDLP技術を利用しているという。

重さ0.9kgのポータブルプロジェクター『V-807』(プラスビジョン)
重さ0.9kgのポータブルプロジェクター『V-807』(プラスビジョン)

商用エンターテイメント向け製品では、大型機において1万4000ルーメンという最高レベルの輝度を達成したことや、中型機でも高輝度化するとともに小型・軽量化を進めたことを挙げた。5000ルーメン以上の高輝度大型プロジェクターに限ると、市場シェアで70%以上がDLP技術を採用(※2)していると、大型機分野での強さをアピールした。

※2 プロジェクター市場全体に占めるDLP製品のシェアは約30%。

さらに、'99年から実地テストを行なっていた、映画館専用デジタル映写システム“DLPシネマ”では、商用機がベルギーのバルコ(Barco)社、米Christie Digital Systems社、米アイマックス・デジタル・プロジェクション(IMAX Digital Projection)社から発売され、世界の40ヵ所に設置されたことも紹介。このうち日本は7ヵ所(※3)を占め、米国を上回る勢いで導入が進んでいるという。

※3 国内のDLPシネマ設置映画館:新潟県のティ・ジョイ新潟万代、東京都の東宝日比谷スカラ座、千葉県のAMC IKSPIARI16、群馬県の109シネマズ高崎、大阪府の東宝北野劇場および東宝梅田スカラ座、広島県のティ・ジョイ東広島。さらに12月に1館が導入するとしている。

堀内氏が示した2001年のDLP関連のビジネストピック
堀内氏が示した2001年のDLP関連のビジネストピック

家庭向けのホームエンターテイメント製品では、プラスビジョンがHDTVの480P方式に対応した小型フロントプロジェクター『PIANO』を発売したことや、HDTVに対応した1280×720ドットの新DMD(Digital Mirror Device)“HDチップ”を出荷開始し、シャープ(株)と日本マランツ(株)がHDチップ搭載フロントプロジェクター製品を発売したことなどを紹介した。また、リアプロジェクタータイプのテレビ製品では、これまで目標としてきた3000ドル(約36万円)というクラスの価格の製品が米国メーカーによって開発されたとし、家庭にDLP製品が普及するめどが立ったとした。

HDチップを採用した日本マランツの『VP-12S1』
HDチップを採用した日本マランツの『VP-12S1』
同じくHDチップを採用したシャープの『XV-Z9000』
同じくHDチップを採用したシャープの『XV-Z9000』

堀内氏は最後に今後のDLP製品についての技術的動向について述べた。'98年に1ピクセルピッチ(DMD上のマイクロミラーのサイズ)17μmだったものを、2000~2001年に13.8μmにシュリンク(半導体プロセスを縮小)したが、2002年にこれをさらにシュリンクして小型化するという。また、現在のDMDは6インチ(150mm)ウエハーで製造しているが、これを2002年中に8インチ(200mm)ウエハーに移行、さらにパッケージも新しい素材を使用することでDMDの低価格化を図ると述べた。

DLP関連の今後の技術動向
DLP関連の今後の技術動向

さらなる高画質化技術を投入

堀内氏に続いて、同社DLP事業部主幹技師の歸山敏之氏が、2002年以降のDLPシステムに導入される新技術などについて説明した。こうした技術は6月に米国で開催された映像機器の国際見本市“Infocomm International 2001”などのイベントのセミナーや、学会で発表したことはあるが、プレス向けに説明するのは初めてとしている。

日本TI主幹技師の歸山敏之氏
日本TIのDLP事業部主幹技師で、DLPの技術について説明した歸山敏之氏

はじめに歸山氏はDLPシステムを構成するDMDとコントローラーなどの周辺チップの新製品“D1000ファミリー”について紹介した。D1000ファミリーは、ピクセルピッチを13.8μmにシュリンクした『DMD1000』とDMDコントローラー『DDP1000』、波形ジェネレーター『DAD1000』、および開発ツールソフト『DLP Composer』で構成されるメーカー向け製品パッケージ。

DMD製品のラインアップと出荷時期。赤字で示されているのが『DMD1000』
DMD製品のラインアップと出荷時期。赤字で示されているのが『DMD1000』
“D1000ファミリー”の構成
“D1000ファミリー”の構成

DMD1000には、0.55インチの800×600ドット製品、0.7インチの1024×768ドット製品、0.9インチの1280×1024ドット製品の3種類がある。現在サンプル出荷を開始しているが、本格的な量産出荷は2002年になるという。DMD1000では、マイクロミラーの傾斜角度をこれまでの±10度から±12度に変更したほか、“CR1000”と呼ぶ新製造プロセスとミラー構造によって、明るさが約20%向上、コントラスト比が約50%増加するとしている。また、コントローラーとのデータ転送をDDR(Double Data Rate)方式によって高速化し、結果として画像のちらつきを軽減できるとしている。さらに、200mmウエハーでの製造に移行することで、低コスト化を図るという。

DMD1000の特徴
DMD1000の特徴

コントラスト比については、これまでDMDの改良によって、'97年に400:1だったものが、'98年に800:1になり、DMD1000では1000:1となっている。さらに現在1500:1以上、2000:1も視野に入れて研究開発を行なっているという。

DMDコントローラーのDDP1000では、これまで数チップで構成していたものを1チップにまとめた。メモリーは4個のDRAMからRambusDRAM1個に変更、DMDへはDDRデータ転送を採用して、コンパクト化と画像品質向上を図った。さらにDMD1個を使用したプロジェクターが利用する色時分割方式時(後述)のちらつきの低減や、画面暗部での階調表現の改良、暗いシーンでのディザリングノイズの低減など、画質が向上するとしている。

D1000ファミリーのチップセット(右)と、従来のチップセット(左)。チップ数がかなり少なくなる
D1000ファミリーのチップセット(右)と、従来のチップセット(左)。チップ数がかなり少なくなる

次に歸山氏は、1DMDのDLPシステムにおける新技術“SCR(Sequential Color Recapture)”について解説した。

従来の色時分割方式の仕組み
従来の色時分割方式の仕組み

1DMDのDLPシステムでは、光源からの光を、赤青緑の三原色のフィルターを通してDMDに反射させる色時分割(Sequential Color)方式を使用している。これまでの色時分割方式では、赤の光を使うときは赤色のフィルターによって青と緑の光は反射され、青の光のときは青のフィルターによって赤と緑が反射されというように、光源からの光の3分の1しか画像表示に使っていなかった。これに対して、SCR方式ではSCRカラーホイール(カラーフィルターホイール)のカラー境界形状をスパイラル状にし、“SCRインテグレーターロッド”と呼ぶ、光を導く棒状のプリズムを通じてフィルターに光を当てることで、フィルターに反射された光を再利用して、光の利用効率を従来比で1.4倍に向上するという。

TIが開発したSCR方式の仕組み
TIが開発したSCR方式の仕組み
SCRカラーホイールの動作
SCRカラーホイールの動作。左の四角い枠の中のストライプが、スクロールする。DMDのミラー制御も、このスクロールと同期させる仕組み
SCRインテグレーターロッドの中で光が反射し、またフィルターに戻ることで光の利用効率が向上する
SCRインテグレーターロッドの中で光が反射し、またフィルターに戻ることで光の利用効率が向上する。理論的には1.8倍の利用効率になる計算

SCRカラーホイールの回転によるカラーパターンは、ビデオフレームレート(毎秒60フレーム)の3~11倍でスクロール可能。色時分割方式で高速に動く画像を表示した際に問題となるカラーセパレーション(※4)は、スクロールサイクルを300Hz以上にする(5倍以上でスクロールする)と知覚できなくなることから、カラーセパレーションについては事実上問題でなくなったとしている。

※4 カラーセパレーション(色割れ):動きのある画像の輪郭に、本来はないはずの色が見える状態。

歸山氏による、2002年のDLPプロジェクター製品の輝度予測
歸山氏による、2002年のDLPプロジェクター製品の輝度予測。緑のグラフが現在のDLPプロジェクター、青いグラフが現在の液晶プロジェクター

歸山氏によると、DMD1000ファミリーやSCR方式など新技術の採用によって、現在1kgクラスのプロジェクターで1000ルーメン程度の輝度が、2002年度の製品では1500ルーメンに、また2.5kgクラスでは現在の2000ルーメンから3500ルーメンに向上するという見通しを示した。

また、画像品質向上技術以外では、6月のInfocomm International 2001でデモンストレーションを行なったという、“ProjectConnect”について説明した。これは、PDAやノートパソコンの表示データを現在規格策定中のIEEE802.11g(2.4GHz帯域、22Mbps)によってワイヤレスでプロジェクターに転送、プロジェクターをディスプレー代わりにするというもの。ほかの無線通信規格にも対応可能で、今後は直接MPEG-2/4のデータを送って動画を表示できるようにする計画という。

ホームユースへはあと2、3年か

DLPシステムを使ったプロジェクターは、安いものでも価格が数十万円からとあって、現在のメイン市場はビジネス向けとなっている。しかし、2年前は同じクラスの製品の価格は2~3倍以上であったことを考えると、コストダウンは順調のようだ。あるプロジェクターメーカーの話では、家庭向けの製品の動きは、ビジネス向けに比べるとまだまだ鈍いということだが、日本TIの説明によれば2002年には相当なレベルの技術的進歩があるようで、家庭向けのプロジェクターとして、10万円程度の製品が登場するのもあと数年かもしれない。プロジェクターは設置場所を選ぶという問題はあるが、PDPよりも安く、液晶ディスプレーやELディスプレーよりも手軽に高精細の大画面が得られるシステムとして、人気が出るのではないだろうか。

ビジネス向けプロジェクターから始まったTIのDLP戦略だが、上はDLPシネマへ、下はホームエンターテイメント製品へと着実に展開しているようだ。

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