第2部は、“Better Future for Children”と題してパネルディスカッションを行なった。司会はMITメディアラボのミッチェル・レズニック(Mitchel Resnick)準教授で、パネリストはウォルター・ベンダー(Walter Bender)MITメディアラボ所長、シンシア・ブリゼール(Cynthia Breazeal)MITメディアラボ助教授、アレックス・サムナー(Alex Sumner)BBC(英国放送協会)開発ディレクター、上田信行甲南女子大学教授、森由美子CAMPエグゼクティブプロデューサーの5名。
パネルディスカッション。左から順に、ブリゼールMITメディアラボ助教授、上田甲南女子大学教授、森エグゼクティブプロデューサー、司会のレズニックMITメディアラボ準教授、サムナーBBC開発ディレクター、ベンダーMITメディアラボ所長 |
ミッチェル・レズニックMITメディアラボ準教授。「“小学4年生の心を持つ40歳”だとマスコミに取り上げられたことがある。違う。まだ40歳にはなっていない」 |
まず、司会のレズニック準教授が「大人になっても好奇心やクリエイティブな心、子供のような心をもつことは重要だ。子供たちが、子供の心を持ち続けられるよう、今の段階から子供たちに場を提供すべきだ」と語った。以下、パネリストの発言を順に紹介する。
新聞は大学だ
ベンダーMITメディアラボ所長は、子供たちによるウェブ上の新聞“The Junior Journal”について説明した。
ウォルター・ベンダーMITメディアラボ所長。「新聞は、真実、公平、平等を考える大学だ」 |
「子供たちがアクティブに参加することで、メディアを変えることができる。The Junior Journalを、バングラディシュ、カナダや日本など、世界54ヵ国の子供たちが参加して、すでに35ヵ月続けてきたが、先月はほとんど、テロに関する記事だった。また、バングラディシュの子供は父親が死んだことを記事にした。個人的なことでも、何でも材料にする」
「おもちゃではない、本物の新聞であり、子供たちも責任を果たさなければならない。毎月、Eメールで編集会議をしているが、プロのジャーナリストと変わらない、素晴らしい経験をしている。新聞は、真実、公平、平等を考える大学だ。子供が学ぶ場として、素晴らしいと思う」。
子供たちにもっとインタラクティブな体験を
アレックス・サムナーBBC開発ディレクターは、BBCの取り組みを説明した。
アレックス・サムナーBBC開発ディレクター。「BBCにとって、インターネットは、実は頭痛の種なんです」 |
BBCは2002年、子供のための2つのチャンネルを、新たに開設するという。サムナーさんによると、BBCは教育に注力しており、特に子供がメディアで遊ぶということを重視している。子供たちにもっと、インタラクティブな体験をさせたいとし、子供たちも制作に関わる視聴者参加型の番組作りを目指す。
また、BBCはトイ・シンフォニーにも関わっている。メディアラボと協力して2002年7月2日に、これまで楽器を演奏したことのない50人の子供たちにトイ・シンフォニーを持たせて、グラスゴーの交響楽団との共演させることを計画しているという。
博物館は、展示だけではもう限界
森由美子CAMPエグゼクティブプロデューサーは、CAMPや関連する活動のために、世界中を駆け巡ったことを説明した。
森由美子CAMPエグゼクティブプロデューサー。「玩具や場で、子供が表現する手助けをしたい」 |
森さんは、デジキャンプのプロジェクトを成功させるために、カンボジアからサンフランシスコ、ダブリン、CAMPを理解してくれるパートナーを探して、さまざまな場所を訪れた。それぞれの土地で、最初は博物館を訪問したが、どこの博物館も通常の展示だけでは限界であり、さまざまな実験を、“ハンズオン(実際に自分の手や身体を使って何かを行なう)”のものをやろうと協力してくれたという。森さんは、「玩具や場で、子供が表現する手助けをしたい」と語った。
CAMPは家庭、学校以外の第3の場所に
上田信行甲南女子大学教授は、自分が作った小さな博物館を通じての体験を語った。
上田信行甲南女子大学教授。「テクノロジーが進んでも、私たちが鈍感になってしまってはいけない」 |
上田教授は奈良・吉野に“ネオ・ミュージアム(neoMuseum)”を作った。森さんの考えと同じく、博物館は本来どんどん触る場所であるとし、さまざまなワークショップを展開してきたという。「学校や家庭では経験できないことを」子供たちに経験してもらう場として、地元の紙すきへチャレンジしたり、河原の石の音を聴診器で聞いて回ったりといったことを行なっている。
そうやって遊んだことを、メディアで表現できることも、また重要なことだという。そして、上田教授は「家庭、学校以外の第3の場所に、学びのコミュニティーにCAMPがなってくれることを期待している」と述べた。
また、シンシア・ブリゼールMITメディアラボ助教授はまだメディアラボに着任してから日が浅く、以前に研究していたマイクロロボットや認知学について話した。
シンシア・ブリゼールMITメディアラボ助教授。「子供でも、社会的な反応というものは、幼いころから育っている」 |
CAMPから始めよう
パネルディスカッションでは、遊びやおもちゃについての議論もなされた。
森プロデューサー「ままごとのようなごっこ遊びはなくならない。ただし、使うツールは変わっていく」
上田教授「綾取りは非常に面白い。1人でもできればコラボレーションもできる。伝統の綾取りとコンピューターが組み合わさると面白い」
綾取りをする上田教授。「伝統の綾取りとコンピューターが組み合わさると面白い」 |
ブリゼール助教授「レゴが好きだった。新しいものが作れるおもちゃがいい」
レズニック準教授「何かを作れる、手の中で何かを作れるおもちゃが重要だ」
上田教授「おもちゃは自分で作るものだ。子供はどんなものでもおもちゃにしてしまう。CAMPでは作る楽しみを教えるべきだ。そして、それをコーディネートしていく教師を育てることも重要。これからの学びをどうすればいいのかを、ここから、CAMPから始めよう」
子供たちが自らの将来をクリエイトする社会を
大川氏の夢を、実現したい |
そして、パネルディスカッションの最後を、司会のレズニック準教授は、こう語って締めくくった。
「大川氏の夢を実現させるためには、子供たちに自分たちの将来を作りさせるような力を与えなければならない。しかし、メディアラボの数千人だけでは、リーチが足りない(手が届かない)。世界の子供たちに、アプローチしなければならない」
「情報でものごとが変わる社会ではなく、子供たちが新しいことをクリエイティブして変わっていく社会、情報化社会ではなく、クリエイティブな社会を目指さなければならない」
「子供たちが、自らの将来をクリエイトするという、大川氏の夢を、実現したい」
大川氏は、子供たちの可能性を信じた。子供は決して間違わないと考えていた。現在、アメリカの同時多発テロとそれに対する報復攻撃で、世界は騒然としている。では、この世界を子供たちはどう見ているのか、どうすればいいと考えているのか。
子供によるウェブ上の新聞“The Junior Journal”の、パキスタンの子供記者の記事には、こう書かれている。
「私たちの進む道が愛、平和、同情、そして寛容でありますように」