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シーラス・ロジック、IEEE 802.11e仕様を先取りしたマルチメディア対応無線LAN製品を発表

2001年11月08日 23時47分更新

文● 編集部 佐々木千之

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シーラス・ロジック(株)は8日、東京・千代田区の本社で記者説明会を開催し、ストリーミングビデオ画像などマルチメディアデータに適したネットワークプロトコル“Whitecap2(ホワイトキャップ2)”を採用した、家庭向け無線LAN製品ファミリー“Bodega(ボデガ)”プラットフォームを発表した。

Whitecap2およびBodegaは、シーラス・ロジックが7月に買収を発表(10月1日に手続き完了)した、米ShareWave社(※1)の製品。説明会では、元米ShareWave社員で、現在は米シーラス・ロジック、ワイヤレス・ネットワーキング部門セールス担当副社長のケビン・ダロカ(Kevin Daroca)氏がWhitecap2/Bodegaの概要を解説した。

※1 米ShareWaveは'96年に、カリフォルニア州エルドラド・ヒルで、株式非公開企業として設立されたファブレス半導体メーカー。マルチメディアデータを無線伝送する技術や、家庭に特有の電波干渉を回避する技術などを開発した。米シスコシステムズ社、米インテル社、九州松下電器(株)などが出資しており、米シスコ、九州松下、米ネットギア社と提携している。シーラス・ロジックによる買収後も、提携関係はそのままとしている。

米シーラス・ロジック、ワイヤレス・ネットワーキング部門セールス担当副社長のケビン・ダロカ氏
米シーラス・ロジック、ワイヤレス・ネットワーキング部門セールス担当副社長のケビン・ダロカ氏

ダロカ氏はまず、企業向けの無線LANと家庭内/SOHO向け無線LANの違いについて説明した。まず、企業ではファイル転送や電子メール、プリントデータ、HTMLデータなどのデータトラフィックがメインで、無線LAN機器が使われている機材はパソコンとプリンターが大部分、使用環境としては壁のないフロアが多く、ネットワーク管理者もいるという環境。これに対して、家庭ではビデオ、オーディオといったマルチメディア/ブロードバンドコンテンツが多く、機材もパソコンおよびパソコン以外のAV製品などがある。また使用環境は、壁や扉で仕切られており、コードレス電話や電子レンジなど、電波の干渉が起きやすく、個人が管理している。こうした違いから、家庭向けには企業向けとは異なるシステムが必要という。

シーラス・ロジックの考えるホームネットワークのインフラ構造
シーラス・ロジックの考えるホームネットワークのインフラ構造

家庭では、ブロードバンドネットワークが普及しつつあり、その入り口であるパソコンやCATV/衛星TVセットトップボックス、xDSLモデムなどのレジデンシャルゲートウェイ製品と、PDAやインターネットラジオ/TV、インタラクティブTV、デジタルTV、パソコン、ウェブパッドといったネットワーククライアント製品を繋ぐ手段として、無線LANが注目されているとしている。

ダロカ氏によると、Bodegaプラットフォームが採用するWhitecap2は、家庭向けの機能を盛り込んだネットワークプロトコルで、IEEE 802.11bからマルチメディアデータのサポート、非干渉性能強化、操作性の向上などを狙ったものという。

具体的には、MPEG-1/2やCDオーディオといったマルチメディアデータ伝送の際に、FEC(順方向誤り訂正)機能を使って、データのエラーを受け取った端末側で処理し、データの再送を抑制する。これによってストリーミングデータのスムーズな再生を可能にするとしている。

デモンストレーションに使われた、Bodegaチップ搭載無線LAN製品
デモンストレーションに使われた、Bodegaチップ搭載無線LAN製品

この点については、従来のIEEE 802.11b無線LAN製品とWhitecap2を採用した無線LAN製品を使って、毎秒6.5MbpsのMPEG-2データを再生する(※2)というデモが行なわれた。結果はIEEE 802.11b無線LANを使った場合は、音も映像も切れ切れになったのに対して、Whitecap2採用無線LANでは、映像・音声ともになめらかに再生していた。さらに、毎秒1.5MbpsのMPEG-1データを再生中に、データファイルをコピーするというデモも行なわれた。このデモにおいてもIEEE 802.11b無線LANがファイルコピーが始まったとたんに映像が乱れたのに対して、Whitecap2採用無線LANでは、スムーズに再生が続いた。なおこのとき、IEEE 802.11b無線LANでは、データの再送が多く発生してファイルコピーそのものも非常に時間がかかっていたが、Whitecap2採用無線LANではファイルコピーもスピーディーに行なわれた。

※2 IEEE 802.11bの実効データ転送速度は約5Mbps、Whitecap2では約7.5Mbpsとなっている。これは、IEEE 802.11bがCSMA/CA(Carrier Sence Multiple Access with Collision Avoidance)というアクセス制御方式であるのに対し、Whitecap2がDynamic TDMA(Time Division Multiple Access)であることによる。IEEE 802.11bとWhitecap2は、直接通信することはできないが、Whitecap2採用無線LANでは、ソフトウェアでIEEE 802.11b互換モードに切り替えることで、相互運用を可能にしている。

Whitecap2ではこのほか、電子レンジなどの干渉を避けるための“Channel Agility”機能、“Coordinator Redundancy”機能をサポートしている。Channel Agilityは、無線LANのチャネルをエラーレートが最も低いチャネルに動的に変更するという機能。Coordinator Redundancyは、“コーディネーター・ノード”と呼ぶ、無線LANネットワークのホストが故障などで機能しなくなった場合に、自動的に代わりのコーディネーター・ノードを探して、そのノードでネットワークの動作を継続する機能。

Bodegaのネットワーク管理ソフトウェアの画面。ネットワークの構造をリアルタイムに反映する
Bodegaのネットワーク管理ソフトウェアの画面。ネットワークの構造をリアルタイムに反映する

さらに、Whitecap2を構成するソフトウェアも、家庭のユーザーを考慮して、インストールの簡素化や分かりやすいユーザーインターフェースを採用しているという。

Whitecap2がサポートするマルチメディア対応機能やQoS機能は、現在IEEE 802.11e規格として審議中とのことだが、最終的に規格としてアナウンスされるのは2002年中であり、機能のいくつかは規格のオプションとなると見られており、「Whitecap2はIEEE 802.11eのフル機能を現時点で提供できる唯一のソリューション」(※3)としている。

※3 Whitecap2がサポートしている機能はIEEE 802.11eの規格暫定案に盛り込まれているもの。最終規格が決まった場合には、Whitecap2採用チップのファームウェアアップデートによって対応可能としている。

シーラス・ロジックは、無線LANのコア技術を提供するという(図の点線内)
シーラス・ロジックは、無線LANのコア技術を提供するという(図の点線内)

Whitecap2は、IEEE 802.11(2.4GHz帯、2Mbps)、IEEE 802.11b(2.4GHz帯、11Mbps)、IEEE 802.11a(5GHz帯、54Mbps)、IEEE 802.11g(2.4GHz帯、22Mbps)のいずれにも適用できるとしており、現在2.4GHz帯用のBodegaファミリーである『CS22200』ネットワークコントローラーシリーズの量産を開始したという。このCS22200ネットワークコントローラーを搭載したネットワーク製品は2002年上半期に発売される見込みとしている。なお、5GHz帯用のWhitecap2採用製品である“Hermosa(ヘルモサ)”も開発中で、2002年中盤に製品出荷予定という。

Whitecap採用製品のロードマップ
Whitecap採用製品のロードマップ

シーラス・ロジックでは、IEEE 802.11eの規格化に先駆けてWhitecap2製品を投入し、先行するメリットを最大限に生かす構えだ。

IEEE 802.11b無線LAN製品の低価格化によって、日本でも家庭内のネットワークインフラとして、無線LANの利用が進んでいる。が、ブロードバンドネットワークがさらに高速化し、より大きな帯域を前提としたマルチメディアコンテンツの登場が予想されており、そうしたコンテンツを利用するには、現在のIEEE 802.11bでは役不足。IEEE 802.11aが登場しても、QoSなどの機能がサポートされなければ、事情はそれほど好転しないと考えられる。デモを見る限りにおいては、シーラス・ロジックのWhitecap2がもたらすメリットは非常に大きい。IEEE 802.11eの規格に先行したものではあるが、現在ほかに対抗する製品がないことや、米シスコシステムズ社など有力ネットワーク機器メーカーと提携関係にあることを考えると、Whitecap2の仕様がデファクトスタンダードになることも十分に考えられる。

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