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「TSMCは顧客と共に成長する」──TSMCのフーCTO

2001年11月07日 19時12分更新

文● 編集部 佐々木千之

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ティーエスエムシージャパン(株)は6日、都内で記者説明会を開催し、6月に台湾のTaiwan Semiconductor Manufacturing Campany(TSMC)初のChief Technology Officer(CTO:最高技術責任者)に就任したチェミン・フー(Chenming Hu)氏が、ファウンドリー(※1)市場における同社の状況などについて説明した。

※1 ここでは顧客の設計に基づいて、半導体チップの生産を代行する企業を指す。

フー氏は台湾国際大学卒業後、米カリフォルニア州立大学(UC)バークレー校で電気工学の博士号を取得。マサチューセッツ工科大学助教授、UCバークレー校学部長などを務め、半導体関連の研究で多数の業績を上げているという。US National Academy of Engineering会員、IEEE特別会員、Institute of Physics特別会員。また、半導体チップ関連のIP企業である米Celestry Design Technologies社の協同創設者で、米IBM社、米テキサス・インスツルメンツ社、米AMD社、オランダのフィリップス社、TSMCの顧問も務めていた。

TSMC社初のCTOに就任したチェミン・フー氏
TSMC社初のCTOに就任したチェミン・フー氏

TSMCはマイクロエレクトロニクス分野における教育と研究支援を目的とした基金“TSMC Distinguished Professorship”をUCバークレー校に設置したが、フー氏はその最初のDistinguished Professorに就任した。TSMCでは、こうしたフー氏とのつながりの中から、TSMCへの参画を持ちかけてCTOとして就任するに至ったという。フー氏はSoC(System on Chip)開発を含む技術的戦略を策定し、TSMCの先進技術開発責任者としての役割を担うとしている。

フーCTOはまず、TSMCのポジションについて資料を挙げながら説明した。それによると、全世界の半導体売り上げに占めるファウンドリー企業全体の売り上げは13%で、TSMCはそのファウンドリー企業の売り上げの49%を占めているという。このファウンドリー企業が占める割合は今後も増加傾向にあり、2004年には20%に達するという調査会社の資料を示した。さらに2010年には40~50%を占めると予想する調査会社もあるという。

世界の半導体企業の売り上げ全体に占めるファウンドリー企業の割合(左)と、その中でのTSMCの割合
世界の半導体企業の売り上げ全体に占めるファウンドリー企業の割合(左)と、その中でのTSMCの割合
ファウンドリーにおけるTSMCのシェアは増加傾向にあり、すでに半分以上を占めているという
ファウンドリーにおけるTSMCのシェアは増加傾向にあり、すでに半分以上を占めているという

次にTSMCが考える重要項目として、十分な生産キャパシティー、半導体製造技術、顧客第一主義の3つを挙げて、1つずつ説明した。

生産キャパシティーに関しては、8インチウエハーに換算した2001年における生産量では、TSMCはトップの韓国ハイニックス半導体社に次ぎ、米インテル社を凌いで2位であるという。TSMCは2000年に約341万枚(8インチウエハー換算)の半導体を生産したが、2001年にはさらに伸びて約441万枚となる見通しで、キャパシティーについては顧客の要求に十分に応えることができると述べた。

世界の半導体企業の2001年の生産量全体に占める企業別割合
世界の半導体企業の2001年の生産量全体に占める企業別割合

半導体技術に関しては、研究開発費へ多額の投資を行なっており、結果として業界の技術に追随する立場から、リーダーへと変化したと述べた。これについてフーCTOはプロセス技術の例を挙げて説明した。それによると、'95年に半導体業界に0.35μmプロセス技術が導入されたが、TSMCは0.35μmプロセスを1年遅れで導入した。それが'98年の0.25μmプロセス技術の導入時には、ほぼ同時期に対応することができ、'99年の0.18μmプロセス技術、2000年の0.13μmプロセス技術導入では、業界に先んじることができたという。

0.13μmプロセス技術では、ロジック半導体だけでなく、ミックスドシグナルやRF、埋め込み型高密度メモリーの製造も可能であると述べた。2000年第3四半期に台湾と米国の2社(※2)からの委託による0.13μmプロセスのMPUの量産製造を開始したほか、2001年4月にはファウンドリー企業として初めて300mmウエハーでの0.13μmプロセス技術による製造を開始、11月中に月産5000枚で本格的生産を始めると述べた。

※2 米トランスメタ社と台湾のVIA Technologies社を指していると思われる。

3つめの顧客第一主義については、半導体設計に関して顧客企業と半導体デザインについてのコンサルティングサービス、“CyberShuttle”と呼ぶプロトタイプ製造サービス、品質保証サービス、半導体マスク製造サービスなど、数々の顧客企業向けサービスを展開しており、ファウンドリーとしてのサービスリーダーであると述べた。

フーCTOは「顧客とのWin-Win関係が保てるようにして、マーケットシェアを一層拡大し、さらに顧客の信頼を勝ち取りたい。顧客中心、サービス重視の姿勢は今後も変えず、技術においても生産においても卓越したものを提供していく。我々は顧客と共に成長していく」と締めくくった。

プロセスの標準化に取り組むTSMC

フーCTOに続いては、TSMCジャパンの長江幸昭会長がSystem on Chip(SoC)製造において、TSMCが構想する“プロセスの標準化”について説明した。

TSMCジャパンの長江幸昭会長
TSMCジャパンの長江幸昭会長

長江会長によるとSoCは、携帯電話などコンシューマー製品に多く採用されており、SoCを搭載したコンシューマー製品の普及が加速するにつれて、SoC製品に対する要求も高度になり、サイクルもスピードアップしている現状だという。顧客企業の動きとしては、こうした新しいSoC製品を設計するに当たっては、すべてを自社で設計していては技術に後れを取ってしまうため、他社のIP(Intellectual Property)を積極的に導入するようになっているという。この例として長江会長は、競争力のあるIPを持つ代表的な企業である英アーム社は今年、半導体関連企業の売り上げの成長率がマイナスに転じる中で、40%という驚異的な成長をしていることを紹介した。

半導体企業の平均成長率と、英アーム社の成長率の比較
半導体企業の平均成長率と、英アーム社の成長率の比較

このようにIPの導入がますます進む中で、SoCのデザイン設計者から見た問題は、あるIPを利用していた製品が、次世代の製品で異なるアーキテクチャーを採用することになったとき、これまでの経験を捨てて、またゼロから設計しないといけないことだという。これが、プロセスを標準化して、共通のデザインルールや共通の電気的特性に従ったIPを提供できれば、設計においてIPの再利用が可能になり、IPの流通もやりやすくなるはずだという。

長江会長が示した、ファウンドリーベースのプロセスの標準化によるモデル
長江会長が示した、ファウンドリーベースのプロセスの標準化によるモデル

長江会長は、TSMCは半導体業界のメガトレンドであるSoCにフォーカスし、ファウンドリーのリーディングカンパニーとして、プロセスの標準化に取り組んでいくと述べた。

TSMCがこれまでにフォーカスしてきたポイント、キャパシティー、パフォーマンスに続き、ソリューションに注力するとしている
TSMCがこれまでにフォーカスしてきたポイント、キャパシティー、パフォーマンスに続き、ソリューションに注力するとしている

コンシューマーエレクトロニクス製品においては、携帯電話はもとより、DVDプレーヤーやデジタルTVなどのデジタル家電、さらにネットワーク家電など、SoCの重要性は増すばかりとなっている。こうしたライフサイクルの短い製品においては、短期間にチップを開発し、すばやく大量に生産する必要がある。このような背景を考えれば、コンシューマーエレクトロニクス製品のメーカーにとっては、自社で半導体を生産するよりも、高い技術と大きな生産キャパシティーを持ったファウンドリーを利用するほうが、スピードでもコストでも自社の競争力を高めることができることになるため、TSMCへの生産委託がますます増加していくことは間違いない。

TSMCはファウンドリーではトップに立った。全半導体メーカーと比較しても、生産キャパシティー最大の韓国ハイニックス半導体やテクノロジーリーダーである米インテルなどが、自社が設計した特定の半導体製品(ハイニックス半導体ならDRAM、インテルならCPU)の他社との競争で大きく業績が変化するのに対し、TSMCの顧客は全世界に多数おり、さまざまな種類の製品を生産しているため、特定の半導体製品市場の影響を受けにくいというメリットもある。技術と生産キャパシティー、さらに顧客のためのサービスをモットーとするTSMCが、あらゆる意味で世界一になる日は遠くないようだ。

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