第2部は、“ロケットの今後の活用と将来の日本の宇宙開発”。引き続き山根氏が司会を務めるほか、宇宙化学研究所対外協力室の的川泰宣教授、独立行政法人航空宇宙技術研究所宇宙輸送システムプロジェクトセンター長の白水正男氏、NASDA宇宙輸送システム本部の丹尾新治副本部長、そして古川聡宇宙飛行士が登壇した。
左から、山根氏、宇宙化学研究所の的川泰宣教授、航空宇宙技術研究所の白水正男氏、NASDAの丹尾新治氏、古川聡宇宙飛行士 |
冒頭山根氏は「パネルディスカッションは、止めました」と述べ、出席各氏にそれぞれ一言ずつ述べてもらったあと、会場からの質問に積極的に応じると語った。以下、各氏の話を列挙する。
宇宙化学研究所対外協力室 的川泰宣教授
宇宙化学研究所対外協力室の的川泰宣教授 |
「2年後に、日本の宇宙に関する機関が統合する。組織が統合するというのは、本来これというビジョンがあって行なうものだが、トップダウンの今回は逆になった。今後のビジョンとしては、商業化、有人飛行、宇宙科学、宇宙教育がある。1955年のペンシルロケット以来、半世紀で時代はずいぶん変わり、今後の宇宙開発には好きだけではなく社会性が必要になる。4つのうち、特に宇宙教育について、経済的には世界で1流、精神的にはまだまだの日本で、宇宙を軸にして教育を建て直したい」
航空宇宙技術研究所の白水正男氏
航空宇宙技術研究所宇宙輸送システムプロジェクトセンター長の白水正男氏 |
「はたして自分は宇宙に行けるのか。H-IIAには乗れない。料金、安全性で、欧米に旅行に行くように宇宙に行けるのは、まだ先だ。「3年後に宇宙に行けます」というのは無理だが、日本でも宇宙輸送機を作り、基礎的な研究もやっている。そういう技術を蓄えておく」
NASDAの丹尾新治氏
NASDA宇宙輸送システム本部の丹尾新治副本部長 |
「NASDAの予算は、2001年度で約2000億円、人員は1100人だ。予算135億ドル(約1兆6600億円)、人員1万9000人のNASAに比べると、小さな組織と小さな予算でやっている。また、関連する人員も、日本は約1万人、アメリカは軍関係も含めて40万人くらいいる。先日、ヨーロッパから調査団が来て、この予算・人員でどうやって宇宙開発を行なっているのかを視察にきた。だが、教えなかった(笑)」
古川聡宇宙飛行士
古川聡宇宙飛行士 |
「第1部で「宇宙に行きたい人」と山根氏が尋ねたとき、控え室で私も手を挙げた。1999年の4月から宇宙飛行士としての訓練を開始し、現在は3段階の訓練の中盤。ISS(国際宇宙ステーション)に異常があったときの対応などを訓練している。実際にISSに行ったら、若田さん(若田光一宇宙飛行士)がスペースシャトルでキャッチボールをしていたように、私も新しい遊びをやってみたい。たとえば、立体的なビリヤード。3次元のクッションも考えなければならないが……」
また、古川氏によるとISSでも土曜日と日曜日は休日だという。なお、NASAでは宇宙飛行士に、国内出張と同じ手当てが支給されるというが、NASDAではそういうことはないようだ。「1kmあたり1円でも出てくれれば、億万長者になれるのだが(古川宇宙飛行士)」
生涯をかけて、軌道エレベーターの材料研究を!!
そのあと、会場からの質問を受けた。まず、「宇宙空間でロケットを組み立てることはしないのか?」
的川氏が答えた。「20世紀の初めから、宇宙での組み立ては検討されている。だが、(現在の技術では)地上から打ち上げるほうが近道だ。ISSも、もともとは宇宙船の拠点、前進基地として計画された。しかし、経済的に厳しくなって、“さらに遠くへ”はなくなった。もっとも、将来は必ず実現する。月面で作ってというのもあり得る。日本人は月に特別な感情を持っており、日本は月を目指すべきだ。ただし、それは22世紀の課題だが」
次の質問は、「宇宙往還機の計画は?」
白水氏の回答によると、1994年に打ち上げた“OREX(オレックス)”は、大気圏再突入に耐えうる材料、設計技術の獲得。1996年に打ち上げた“HYFLEX(ハイフレックス)”で、極超音速飛行の実験、同じく1996年の“ALFLEX(アルフレックス)”で、グライダーのように滑空して着陸する実験を行なった。約3度の角度で着陸する通常の航空機とは違って、宇宙往還機は30度の角度で着陸するが、10数回の飛行実験で、その技術は確立できたという。NASDAでは、H-IIAロケットの先端に取り付けて打ち上げる、無人の宇宙往還機“HOPE-X”を計画している。
“OREX”大気圏突入、各種データの入手に成功 |
“HYFLEX”実験はほぼ成功したが、着水した機体の回収に失敗したため、一部のデータを取得できなかった |
“ALFLEX”ヘリコプターで上空まで運んで、滑空させる |
“HOPE-X”研究開発の方針を見極めるためとして、現在実機の製作が凍結されている。よって実現時期は不明 |
また、丹尾氏は、日本がキリバス共和国と、クリスマス島にある滑走路の20年間使用契約を締結したことを説明した。クリスマス島は北緯2度に位置し、衛星を分離するのに適した場所だという(もちろん、上空の宇宙で)。NASDAでは、2002年度にも、HOPE-Xの4分の1程度の機体で、クリスマス島で実験を行なう。
会場内の中学生からの質問。「軌道エレベーターは実現しないのか」
的川氏の答えは「何百年か先の話」。「SFなどで、静止衛星までエレベーターを、というのはあるが、(反対側にも同じ重量の重りをつけないと)実際には3万6000kmの高度は保てない。また、エレベーター自身が、自分の重さで切れてしまう。今の地上で建築できるのは5kmが限界で、まだ笑いの世界だが、材料開発の世界で革新的な発明がなされれば、未来はわからない」
山根氏はその中学生に「人生をかけて、そういう材料を創ってください」と語った。
職業柄、偵察衛星が気になるという参加者からの質問「偵察衛星の開発は?」。質問者の職業は自衛官。
丹尾氏は、2002年度および2003年度に、地球観測衛星とレーダー観測衛星の打ち上げが計画されていると説明した。商用の地球観測衛星“IKONOS(イコノス)”の解像度は1m、アメリカの偵察衛星の解像度は、一説によると15cm以下だという。ただし、丹尾氏はそれらの技術を何らかの形で世界に還元するべきだと語った。
NASDA副理事長の石井敏弘氏 |
また、会場内にいたNASDA副理事長の石井敏弘氏は、 山根氏に挨拶を一言求められ、H-IIAロケットが28万点もの部品で構成されており、故障したからといって引き戻して修理することもできないと語り、「皆さんの熱意ある話を糧として、H-IIA第2号機の打ち上げを、必ず成功させたい」と約束した。
そして、山根氏は最後に「2030年に、宇宙でシンポジウムをやりたい」と語って、2時間におよぶシンポジウムを締めくくった。
シンポジウム終了後、もう1度、打ち上げ映像が流された。H-IIA試験機第2号機の打ち上げは、年内に行なわれる模様(種子島に、見に行きたい)。(宇宙開発事業団(NASDA)提供) |