モンタビスタソフトウェアジャパン(株)は17日、米モンタビスタソフトウェア社マーケティング担当副社長のシーラ・ベーカ(Sheila Baker)氏の来日記者会見を開催した。ベーカ氏は2002年に組み込みLinux市場でトップになるとコメントしたほか、米モンタビスタソフトウェア日本セールス担当副社長で、モンタビスタソフトウェアジャパンの有馬仁志代表取締役社長が、日本市場での状況について説明した。
米モンタビスタソフトウェアのマーケティング担当副社長のシーラ・ベーカ氏 |
ベーカ氏は、2000年現在21億ドル(約2500億円)と組み込みOSの市場が2010年には89億ドル(約1兆800億円)に拡大し、そのうち組み込みLinuxは年平均60%の成長をして2010年にはおよそ3分の1を占めるようになる(※1)という調査会社の予測を紹介し、今後大きな伸びが期待できるとした。
※1 数字は米VDC(Venture Development Corporation)による。レガシーな組み込みOSから高機能なLinuxへの動きがあるという |
そして、組み込みシステムに対するコスト削減要求、高機能化への要求、インターネット接続への要求などにより、企業内で開発した独自OSから、商用製品へのシフトが起きているという。また、従来の組み込みOSがネットワークなど“限定された”機能を提供しているのに対して、Linuxがリッチな機能を提供可能なことから、組み込みシステム開発者の間にこれからはLinuxを使っていこうという気運が高まっていると述べた。2001年5月の調査資料によると、組み込みシステム開発者の36%が2年以内にLinuxを使うことを計画中で、5年以内になると49%もの開発者がLinuxの利用を考えているという。
組み込みシステム開発者の半数が5年以内にLinuxへの移行を計画しているという |
米モンタビスタソフトウェアは、'99年にジェームス・レディ(James Ready)氏(※2)によって設立された、組み込みシステムに特化したLinux『Hard Hat Linux』およびその関連ツールの開発を手がける企業。Hard Hat Linuxはオープンソースの原則に従い、ソースコードは無料で提供しており、ランタイムロイヤルティーも無料。Hard Hat Linuxのサブスクライバー契約を結んだ顧客企業に対して、Hard Hat Linuxを使ったシステム開発のサポート、ツールの提供、コンサルティング、技術者へのトレーニングなどのサービスを提供して収入を得るという、独特のビジネスモデルを持つ。現在そうした顧客企業は全世界で250社以上あり、増加の一途であるという。
※2 設立者のレディ氏は、最初の商用組み込みOSの1つである『VRTX(バーテックス)』を開発した米Ready Systems社の共同設立者として知られている人物。ベーカ氏はHard Hat Linuxが評価されているポイントして、Linuxカーネルが持たない“リアルタイム性能”、アプリケーションの開発・評価が市販のLinuxプラットフォーム上で一貫して行える“ソフトウェア・ファブ”とそのサポートするターゲットの多さを挙げた。Hard Hat Linuxでは、1つのソースコードから、異なるプロセッサーを搭載する75以上のリファレンスボードで動作するバイナリーを作成することができるという。
優れたHard Hat Linuxの開発環境と、独特のビジネスモデルによって顧客企業は、少ないリスク、少ないコスト、短い開発期間で、投資に対する利益を最大化することができるとしている。
また最後に2002年へのモンタビスタの計画として、日本を中心とし、中国、韓国、台湾などのアジア市場への一層の注力、通信インフラ機器やデジタルコンシューマーデバイスへのフォーカスなどを挙げた。さらにベーカ氏は、組み込みLinux市場においては、モンタビスタのほか米リネオ社、米レッドハット社が三つ巴の状況であるが、2002年中にモンタビスタが頭一つ抜け出して、組み込みLinux市場でナンバー1の企業になり、組み込みOS市場全体では、トップの米ウインドリバー社に継ぐ2位に付けるという“予測”を披露して締めくくった。
米モンタビスタソフトウェア日本セールス担当副社長でモンタビスタソフトウェアジャパン代表取締役社長の有馬仁志氏 |
ベーカ氏に続いて、日本市場の状況についてモンタビスタソフトウェアジャパンの有馬社長が説明した。
有馬社長によると、日本の組み込み市場におけるLinuxへの流れは非常に強く速いという。現時点ではまだ製品発表には至っていないものの、家電各社のデジタルコンシューマーデバイスへの組み込みLinuxの採用は一気に進んでおり、特にPVR(パーソナルビデオレコーダー:HDDに録画するビデオ機器)、ブロードバンドインターネット端末、デジタルTV、プリンターといったカテゴリーにおいて、多数が開発中で、年末から来年にかけ次々に発表される見込みだという。
モンタビスタの売り上げに対する日本市場の割合(2001年1月~6月期) |
モンタビスタソフトウェアジャパンの、モンタビスタ全体の売り上げに対する割合(2001年1月~6月期)は、北米市場並みのおよそ3割に達しているという。ベーカ氏は2002年に組み込みLinux企業で1位になる、と発言したが「日本ではすでに1位。2002年には組み込みOS市場でウインドリバーを抜き去ることもできそうだ」という。有馬社長は日本でHard Hat Linuxが好調な理由の1つとして「日本では組み込みOSとして『ITRON』が多く使われており、オープンソースに対する慣れがある。ITRONを使っているところが、機器をインターネット機能を付けようとしたときに、Hard Hat Linuxを採用している」という例を紹介した。
某大手メーカーの組み込みOSについての評価 |
また、有馬社長がある大手メーカーに聞いたHard Hat Linux採用のメリットとして、開発期間の短縮、通信プロトコル開発コスト低減、ドライバー開発ソフトの低減、ランタイムロイヤルティーがない、といった点を挙げた。Linuxといえども、イニシャルコストは無料ではないわけだが、プロトコルやドライバー開発において、オープンなリソースを利用できる点がコストや開発期間短縮に利いてくるといった事情を紹介した。
モンタビスタソフトウェアジャパンは、国内パートナー企業である日本電気(株)、(株)東芝、(株)日立製作所、日本IBM(株)などとの協力関係や、2000年7月に設立した“日本エンベデッド リナックス コンソーシアム(Emblix:エンブリックス)”への積極的参加などの活動によって、日本市場における組み込みLinuxのトップベンダーとしての地位を確かなものにしようとしている。
Hard Hat Linuxがサポートするプロセッサー |