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JASRAC、デジタルミュージック講座“ミュージック・ジャンクション”開催――音楽配信は儲かりません

2001年09月28日 23時12分更新

文● 編集部 中西祥智

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(社)日本音楽著作権協会(JASRAC)は27日、音楽とデジタルテクノロジーの結びつきをテーマとする講座“ミュージック・ジャンクション~デジタルでふくらむ音楽の夢~”を開催した。

“ミュージック・ジャンクション~デジタルでふくらむ音楽の夢~”
“ミュージック・ジャンクション~デジタルでふくらむ音楽の夢~”

この講座はJASRACが公益文化事業として行なうもので、全5回を予定している。第1回目の今回は、“ネットワーク時代の音楽制作と表現”と題して、MIDIを使った音楽制作や表現が1990年代以降どのように広まったか、そして、インターネットと出会って何が起ころうとしているのかを考察した。講師はヤマハ(株)メディア総合戦略推進室総合企画グループの長谷川豊マネージャー。

ヤマハ(株)メディア総合戦略推進室総合企画グループの長谷川豊マネージャー
ヤマハ(株)メディア総合戦略推進室総合企画グループの長谷川豊マネージャー

長谷川氏はまず、デジタルミュージックとインターネットの歴史と現状について説明した。デジタルミュージックの歴史は、1980年代のヤマハのデジタルシンセサイザー『DX-7』から始まる。デジタル音楽機器を相互接続するための規格“MIDI”が制定され、MacintoshやAtariなどの音楽を扱えるパソコンも登場した。

MIDI音源のデータを標準化する“General MIDI(GM)”規格が生まれたのは1991年。1990年代後半になると、パソコンの処理速度が向上し、ソフトウェアでシンセサイザーを再現できるようになった。ソフトウェアシンセサイザーは爆発的に普及し、ヤマハのXG音源対応製品だけですでに5000万ライセンス以上普及している。さらに、Windowsに標準で搭載されるようになったため、長谷川氏によると、その総数は数億という数になるという。

一方のインターネットだが、音楽配信や、現在サービスを停止しているファイル交換ソフト『Napster』などの違法なコピーファイルのやりとりが普及して、「レコード会社はめちゃめちゃになる」また「音楽市場の10%がインターネットになる」と1999年当時は言われていたという。しかし、実際にはまだそういった事態にはなっていない。長谷川氏の示した数字によると、2001年の音楽CDの売り上げは4820億円で、1999年の5513億円に比べると1割以上下落している。しかし、音楽配信は1999年の1億円に対して2001年は5億円規模であり、ほとんど普及していない。

音楽系の市場規模
音楽系の市場規模

他方、携帯電話の着信メロディーなどの配信サービスは、大きく伸びている。コンテンツ全体の市場は1999年の47億円から2001年には793億円と大幅な伸びを示しており、長谷川氏は「ざっくり言ってその内の3割が、着信メロディー」だと語った。

長谷川氏は、「音楽データの配信は(当面)伸びない」と語る。将来的にはわからないとしながらも、いまだに多くのユーザーがナローバンドで接続している現状では、MIDIによる配信が現実解だとしている。上記の着信メロディーも、ほとんどがMIDI形式だ。長谷川氏は以前より、ライブをMIDIによってインターネットからストリーミング配信するなどの実験を行なってきた。講演でも、ウェブサイトからダウンロードしたMIDIファイルを、会場内の音源内蔵ピアノで再生して見せた。

会場内のピアノが鳴り出した
MIDIファイルを、会場内のピアノが演奏した

そのMIDIファイルは、ピアニストの仲道郁代さんがクラシックの面白さを伝えるために作ったサイトからダウンロードしてきたもの。長谷川氏によると、仲道さんは「私の弾いたニュアンスやエッセンスが、MIDIでも伝えられる」と喜んでいるという。仲道さんのサイトは“MidRadio”の中のコンテンツ。MidRadioはMIDIとオーディオの融合を目指して、ヤマハが設置したサイトだ。

仲道郁代のPiano Style
仲道郁代のPiano Style

そのほかの取り組みとして、長谷川氏は音楽を楽しむ人々がインターネット上に集える“場”を提供している。全国に音楽教室を展開してきたヤマハによる「みんなが自分で音楽を」表現したり、楽しんだりできる場所が、“ミュージックイークラブ”だ。長谷川氏は「音楽愛好家のためのポータルサイトを作りたかった。決してメーカーの販促ではなく、ユーザー本位でやりたい。MIDIの講座や6000の音楽サイトを網羅した検索システム、音楽配信入門、そして音楽を作った人がファイルを公開できる“プレイヤーズ王国”を、“場”として提供する」と説明した。

プレイヤーズ王国には、19日現在で1454曲がアップされている。この中にはJASRACが管理する、つまり他者が著作権を持っている曲もあるが、それらの権利処理はヤマハが行なう。「ポピュラーな曲からオリジナルの曲まで、上手くても下手でもいい、みんながインターネット上でデビューできるようにしたい」と、長谷川氏は述べた。プレイヤーズ王国は利用者が曲を単に公開する場だが、それ以外にインターネット上でのオーディションも行ない、すでに多くのミュージシャンがインターネット上で活躍しているという。

音源技術の進化
音源技術の進化。楽器、パソコン、携帯電話と、順番に進化している

また、長谷川氏は携帯電話について、「DX-7は24万8000円だったが、今はそれがポケットに入る」とし、「シンセサイザイーやパソコンの移り変わりを見ていると、今後の携帯電話の音楽環境は予測できる」と語った。すでにFM音源だけでなく、PCM音源を搭載した携帯電話も登場している。なお、ヤマハでは携帯電話の着信メロディーのクリエーターを支援するプログラムを提供しているという。

長谷川氏は今後のデジタルミュージックの展開について、「CDのビジネスは減っていく。しかし音楽配信はなかなか伸びてこない。通信カラオケなど、MIDI配信は伸びている。また、着信メロディーという日本特有の音楽配信には勝ち目があるかもしれない」との予測を示した。また、音楽の制作のやり方自体が、従来の流れ作業から協調作業に変化してきているという。長谷川氏は「デジタル、インターネットが当たり前になった次の世代が、新しいビジネスモデルを生んでくれると期待している」と語って、講演を結んだ。

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