9月8日、“第7回アスペン国際デザイン会議 in Japan”(IDCAJ SAITAMA 2001)が埼玉県・越谷市の埼玉県立大学において開催された。ここでは午後に行なわれた分科会から“分科会6 インタラクティブな環境”をリポートする。
●情報デザインの担い手は誰に?
分科会6は“インタラクティブな環境”をテーマに、ウェブや携帯などの新しいインタラクティブメディアにおけるデザインを考える、最も身近なセッションとなった。モデレーターはメディアプロデューサーの福冨忠和氏が務め、ギガフロップス(株)代表取締役の中村陸氏、(株)イメージソースのクリエイティブディレクターの遠崎寿義氏、メディアアーティストの八谷和彦氏がスピーカーとして登壇した。この3氏は、それぞれウェブ、iモードなどインタラクティブメディアの制作において、三者三様のアプローチを行なって話題となっているクリエイターだ。
モデレーターを務めた福冨忠和氏。自身もウェブサイトなどのプロデュースを手掛ける |
冒頭、福冨氏はモデレーターがあまり発言すべきではない、としながらも、テーマである“インタラクティブな環境”に関する課題を提示した。まず、前置きとして「日本のデザインは1873年のウィーン万博よりはじまったもので、当時はデザイン=図案と考えられており、インタラクティブなものではありませんでした。それが近年、メディアや通信で情報を収集し、情報として一元化するようになり、そこに“Interactivity(対話性、双方向化)”が加わりました」と現況を確認した。
さらに福冨氏はいくつかの課題を提示した。特に重層的な判断基準として、法的(個人情報)、社会的(道義的・差別性)、文化的(文化の差)、技術的(技術上・規格上)、生理的(認知の要求・バリアフリー)、マーケティング的(購買などのユーザビリティー)などがある、とした。また、「“もの”のデザインから“こと”のデザインへ移り変わる上で、情報デザインの担い手が誰になるのかが大きな課題になります」と語った。
スピーカーの3氏。左から、メディアアーティストの八谷和彦氏、ギガフロップス代表取締役の中村陸氏、イメージソースのクリエイティブディレクターの遠崎寿義氏 |
●性能が向上しても携帯は手のひらサイズ
続いて、スピーカーのそれぞれの仕事について自己紹介が行なわれた。最初に紹介されたのは、『ギガコード』で有名なギガフロップスを率いる中村陸氏。中村氏はiモードの公式サイトに対する“勝手サイト”という言葉を広めた人物で、自分の携帯電話を使い、プロジェクターを通じて、『おすすめiアプリ』や『おすすめまちうけi』などさまざまな自社でプロデュースするiモードの『iアプリ』コンテンツを積極的に紹介した。iアプリはプログラムサイズがわずか10KBまでしか許されていないJavaアプレットでできているが、数々のユニークなサイトがどんどんできており、多くのプログラム開発者が手掛けている熱い市場だ。
中村氏の紹介したiアプリの『オススメ マチウケi』。デモ中にメールが入ってしまうというハプニングもあった |
中村氏は、この他に紹介された新幹線などのJRの発車情報をリアルタイムで見ることができる『JRトラナビ』、携帯電話そのもののバイブ機能を使って実際にマッサージする『足つぼマスター』、“焼肉定食”などの熟語を一文字ずつ捉える落ちものゲーム『YAKINIKU』、中村氏が「携帯初のピア・トゥ・ピア対戦ゲーム」とする、1台の携帯電話の端と端を持って対戦する野球ゲーム『魔球』などかずかずのユニークな作品を紹介した。
中村氏の紹介によるiアプリの『JRトラナビ』。大きな数字は選択した列車が発車するまでの残り時間を示している |
数々の携帯電話関連サイトをプロデュースする中村氏だが、「多くの人は、カラー端末は必要ないと思っていたと思います。ところが、現在は(シェアから換算すると)半分はカラー端末を使用しているはず。今後は、さらに高輝度の画面、高性能になると思いますが、この手のひらサイズは変わらないと思います」と語った。
●サイト制作のテーマはコミュニケーション
続いて紹介されたのが、若手ウェブクリエイターとして注目されている(株)イメージソースの遠崎寿義氏だ。
遠崎氏は慶應大学在学中よりイメージソースに参加し、数多くのウェブサイト制作に関わっているクリエイティブディレクターだ。遠崎氏は、森ビルの運営する“Mid-Tokyo Maps”や“Sony.co.jp”などのこれまで手掛けて話題となったウェブサイトを中心にしつつも、「モルガンスタンレー・ディーンウィッターなどの堅いサイトも手掛けています」と控えめながら自作を紹介した。
“Mid-Tokyo Maps”は東京の土地を扱う森ビルが運営しており、下落する地価に対して、東京の魅力を再認識してもらうことを主旨とし、江戸・東京の歴史と魅力を伝えるコンテンツを月2回更新で発信しているサイト。トップページには凝ったFlashで表現されているものの大変軽くかつ操作しやすいものとなっている。
さらに遠崎氏は以前に制作した自身のウェブサイト“the SYNAPSE project”を紹介した。“the SYNAPSE project”はサイト上でさまざまなユーザーがキーワードとキーワードを関連づけてつなぎ、その関係性を距離で示す、というユニークなもの。遠崎氏は「常にコミュニケーションをテーマにサイト制作を心がけている」と語った。
●iアプリ、ジェットエンジン、車社会...ますます広がる八谷ワールド
最後に紹介されたのは、“PostPetの”という前置きが必要もないと思うが、メディアアーティストの八谷和彦氏だ。PostPetで知られる八谷氏だが、以前からアートの領域でさまざまなコミュニケーションに関わる作品を作り続けている。また、インターフェースデザインを作ることも八谷氏の仕事であり、今回はそのあたりの仕事も紹介された。
おなじみモモが登場する『PP(PostPet)トラベラーズ』。いろいろな場所にワープして、宝物を交換するというiアプリ |
今回、はじめに登場したのは、ピンクのくま“モモ”をはじめ、PostPetのキャラクターが登場するiアプリソフト『PP(PostPet)トラベラーズ』。キャラクターがいろいろな場所にワープして、その場所にいる他のユーザーと宝物を交換してくる、というもの。八谷氏曰く“アンチ資本主義ソフト”とのことで、「宝物を差し出す、という行為が、エスキモーの生活の知恵である“ポトラッチ”(旅人を大切にするというもので、究極的には自分の妻も差し出すという)から、発想されています」と八谷氏は語っていた。
八谷氏が3年がかりで開発したという『エアボード』。なんとジェットエンジンで浮き上がり、走行するという |
次にビデオで紹介されたのが、映画『バックトゥザフューチャー』に出てくる反重力スケボーを見て、「あれを作りたい」と直感したのが理由という『エアボード』。しかし、反重力なるものは現在、存在しないので、とりあえず小型のジェットエンジンで浮き上がらせることしたという。実際は大変な苦労の末に形になったわけだが、海外でのデモンストレーションの際には火を噴いてしまい、「下手をすれば死ぬかもしれない究極のインタラクティブになってしまった」と八谷氏は笑顔で語っていた。
八谷氏の開発した『サンクステール』。車のリアウィンドウの上にちょうど犬の尻尾のようについている。愛嬌よく振って運転者の意志を示すというものだ |
最後に紹介されたのが、車の運転手の意志を伝えるコミュニケーションツールとして考えられた『サンクステール』。運転席にあるジョイスティックを使って、上下左右に動かすことで、後方の車に意志を伝えようというもの。八谷氏は「世界中どこにいっても『ありがとう』という言葉を使わないところはないはずです。ところが、道路の上はそれが許されてしまっている野蛮な場所。やはり『ありがとう』が基本だと思い、これを思いつきました」と語っている。
これはまだ試作品だが、「完成したら、カルロスゴーン氏に送りつけようかと思ってます」と八谷氏はお茶目な表情で語っていた。来場者の中から「たまに悪意に使う人がいることも十分考えられませんか。例えば、『Fuck!』の意味で、サンクステールを思いっきり立ち上げるポーズを取ったりとか」という意見が飛び出したが、この点について八谷氏は「そういうことは十分考えられますが、そのほうがまだ健全なのではないかと思います」と意に介していない様子だった。
●携帯って電話? パソコン?
後半は3氏でのトークセッションとなった。まず話題になったのが、八谷氏の「電話にカメラつけんなよ! とか思いますけど」という言葉で始まった携帯電話の話題だった。八谷氏が「携帯って電話なの? コンピューターだったの?」という問いかけに中村氏は「ヨーロッパの人たちは明らかに、通話機能付きのPCだと思ってますよね。僕は携帯付きのPDAと思っています。値段と大きさが大事ですね」とした。
遠崎氏が「僕はカメラはあったら使うと思いますけど」とすると、話題はGPS付きに移り、八谷氏は「どこまでも追いかけられるのはいやでしょ。奥さんが旦那さんに持たせたりして(笑)。僕は独身だからいいけどね」と語ったことで、さらに話題は携帯電話が多機能化することによるプライバシーの問題に移った。遠崎氏は「コミュニケーションのレベルの問題だと思います。直接電話するのが2次元だとすると、返事を期待せずに投げてるメールって1.5次元ぐらい。カメラ付きだと1.8次元とか。相手の時間をどれだけ拘束するかがポイントだと思います」と分析した。
このように携帯の話題で盛り上がったが、その後はバリアフリーやユーザビリティーなどさまざまな話題が上がったものの、残念ながら時間切れとなり、閉会となった。年齢もアプローチの仕方も異なる3氏ながら、コンテンツクリエーションでこれだけ盛り上がれることから、インタラクティブはクリエイターの遊び心を大いに刺激していることが強く感じられるセッションだった。