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「回線交換網と同等の信頼性を持つパケット通信網を提供する」──ノーテル、アーケル副社長

2001年09月14日 01時07分更新

文● 編集部 佐々木千之

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ノーテルネットワークス(株)は8月末に、IPネットワーク上で音声や画像などのマルチメディアサービスを構築するための、大規模通信事業者向け製品『Succession Interactive Multimedia Server(IMS)』を、日本市場において2002年第1四半期に販売開始すると発表した。“Succession”は、通信事業者向けパケット網を構成するための製品群の名称。

ASCII24編集部では、ノーテルネットワークスのアジアパシフィック地域担当バイスプレジデントのエニス・アーケル(Enis Erkel)氏に、同社が全世界で展開を目指す通信事業者向けのマルチサービスIPネットワークについてお話を伺った。

ノーテルネットワークスのアジアパシフィック地域担当バイスプレジデントのエニス・アーケル氏
ノーテルネットワークスのアジアパシフィック地域担当バイスプレジデントのエニス・アーケル(Enis Erkel)氏
[編集部] 音声サービスなどをIPネットワークを通じて提供するということでは、Voice over IP(VoIP)サービスを提供するところがありました。ノーテルネットワークスが提供するマルチサービスIPネットワークはどんなものですか?
[アーケル氏] これまで展開されたVoIPソリューションでは、通信事業者のニーズの1つか2つだけを、個別に解決するものでした。1つか2つのサービスを提供するだけでも、強力なメインフレームクラスのコンピューターの能力を使いきってしまうようなものだったのです。グローバルクラスの巨大キャリアー(通信事業者)が、信頼性を確保して提供できるようなものにはなっていませんでした。これが過去の状況でした。

現在のキャリアーに課せられた問題は、既存の回線交換網から、音声およびデータに対して最適化されたパケット交換網へとインフラをいかにシフトしていくかということです。また、インターネットが普及した今日でも、キャリアーにとっては依然として音声通話の収入が最大の収入源であり続けています。確かに、音声通話からの収入というのは増加ではなく横ばいとなっており、またデータ通信はどんどん増えていますが、この2つの曲線が交差するのは2006年以降になるといわれています。

従ってノーテルの役目は、キャリアーが持っている音声通話収入を確保しつつ、それに加えてマルチメディアサービスを新たな収入源としてどう追加できるかということになります。さらにIPネットワークのようなパケットベースのデータネットワークは、キャリアーから信頼性という点においてあまり信用されていないところがあります。この認識を克服するということは我々の課題です。
[編集部] キャリアーにとってIPネットワークの利点はどのようなものですか?
[アーケル氏] IPネットワークのインフラが整備されると、例えば有線、無線のアクセスを統合するとか、データサービスをさらにそれに統合するといったことが容易に考えられます。IPネットワークのプラットフォームがあること自体が、回線交換網で構築してきたいままでよりも、ずっと簡単にライバルのキャリアーに対して差別化したサービスを提供できるという柔軟性を提供してくれることになります。

Succession製品群を利用したIPネットワーク網によるネットワークの統合
Succession製品群を利用したIPネットワーク網によるネットワークの統合
IPネットワークというパケット交換網からは、オープンスタンダードという環境も生み出されてきています。設備コストや維持コスト、サービス・運営コストの節約が期待できるのです。キャリアーの観点から見たVoIPの推進力は、設備投資と運営コストの節約です。回線交換網からパケット交換網へのアップグレードに際して、パケット網の新設を考慮に入れても、運用コストまで考えれば3割~6割くらいパケット網の方が安くできます。これは、回線交換網と比べ、交換機の設置数がずっと少なくなるためです。サービスの観点から見ると、インターネットベース、ウェブベースなどのパーソン・ツー・パーソン(P2P)サービスが、キャリアーやサービスプロバイダーにとっての新たな収入源となるのです。
ノーテルのIP電話機を手にするアーケル氏
ノーテルのIP電話機を手にするアーケル氏
[編集部] ノーテルの製品群の役割はどのようなものでしょうか?
[アーケル氏] ノーテルのSuccession製品群は、まさにIPネットワーク上のマルチメディアサービスとそのP2Pサービスを可能にするために作られたものです。ネットワークのコア部分に関しては、光ファイバー網がベースであることがほとんどですが、IPネットワーク、ATMネットワークなどが混在しています。Succession製品群はいずれのネットワークにも、プロトコルにも対応できます。

ノーテルのSuccession製品群
ノーテルのSuccession製品群
Succession製品群によるIPネットワークの特徴は、オープンなサービス開発環境です。サービスにしてもアプリケーション開発にしても、もはや1ベンダーが占有するものではなくなっているのです。また、IPネットワークのもとですべてのサービスが統合されることは、統合された課金システムがあるということであり、データも音声も、有線も無線も1つの請求書でカバーできることになるため、キャリアーにとっても一般消費者にとってもメリットになるでしょう。

過去15年に渡ってノーテルは回線交換網製品のリーダーであり続けてきました。その間さまざまな製品やサービスを提供してきましたが、それをパケット網向けにポーティングする作業も継続して行なってきました。現在は“コア”と呼ばれるような、既存の回線交換網が持っている機能のすべてをパケット網でも提供できます。またノーテルが回線交換機で培った99.999%(ファイブナイン)と呼ばれる信頼性がパケット網でも提供可能になりました。これら400以上の製品、サービス群を持っていること、これは他社にはない特徴です。

Succession IMSの特徴
Succession IMSの特徴
こうした製品のなかでも、キャリアー向けアプリケーションサーバー『Succession Interactive Media Server(IMS)』は、米サン・マイクロシステムズ社の『Netra(ネトラ)』サーバーに、JavaやSIP(Session Initiation Protocol)(※1)ベースのサービスがビルトインされた製品です。IMSはPDA、ウェブ端末、パソコン、インターネット電話機などあらゆるIP端末に複合的なIP付加価値サービスを提供可能です。事業者向けに開発ツールキットも公開していますから、新しいサービスの開発も容易です。
※1 IPネットワーク上で、音声や映像通信を行なうためのプロトコルがH.323。SIPはIPネットワーク上で、呼び出しや電話/テレビ電話会議を行なうためのプロトコル。

Succession IMSが展開可能なエンドユーザー向けサービス
Succession IMSが展開可能なエンドユーザー向けサービス
[編集部] ノーテルが提供するパケット網サービスに対して、キャリアーの反応はどのようなものでしょうか?
[アーケル氏] スペインの全土において、世界で初めてとなる全国ベースのIPベースのネットワークサービスの構築を、BTスペイン社と行ないました。契約締結後の6ヵ月でネットワーク構築とサービス提供が可能になりました。これほど短期間で全国レベルのサービスを開始できることは、回線交換網ではとても考えられなかったことです。

ノーテルのIP電話機『i2004』と、SIPベースのパソコン用電話会議ソフト
ノーテルのIP電話機『i2004』(右)と、SIPベースのパソコン用電話会議ソフト(左)
英ケーブル・アンド・ワイヤレス社は、すでにノーテルと全世界的なネットワークのパケット網へのアップグレードに関する契約を結んでいます。契約額で10億ドル(約1200億円)を超える大きなものです。アジア太平洋地域では、オーストラリアのTelstra社が、企業ユーザー向けに提供予定の次世代ネットワークサービスのパートナーとしてノーテルを選びました。中国では、世界で最も急速に成長しているチャイナテレコム社に、次世代ネットワークのテクノロジー協力パートナーとして選ばれました。またSuccession IMSに関して言えば、ベータ製品でテストを行なっているユーザーが、ヨーロッパと北米で5社あります。

日本でもSuccession製品群についてキャリアーとテストを行なっており、IMSについてもすでにマーケティング活動を開始しています。IMSは日本でも世界と同じ2002年第1四半期に正式サービスをスタートします。IMSが普及すれば、IP電話や画像や音声にも対応したインスタントメッセージ、携帯電話と連動したサービス、ウェブを通じた契約内容の変更など、高付加価値サービスが利用できるようになるでしょう。

(8月20日/ノーテルネットワークス本社にて)


ノーテルネットワークスは、回線交換網向けの交換機を全世界のキャリアーに対して長年提供し、キャリアーの信頼を得てきた。そのノーテルが回線交換網と同等の信頼性を持ったパケット通信網のシステムを、マルチメディアサービスのシステムと共に提供することは、回線交換網からパケット通信網への変化を促ながす効果があるだろう。パケット通信網は通信ネットワークの帯域を効率よく使用することができ、多様なサービスを提供しつつコストを抑えることができるという。日本においては、全国に光ファイバーによるネットワークがすでに敷設されており、ノーテルのシステムの導入は比較的容易なはずである。ある1社がこれを導入した場合、他社は対抗のために導入を急ぐということも考えられ、一気にパケット通信網が普及するかもしれない。

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