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“PDF Conference 2001”開催――電子政府設立に向け、電子署名などセキュリティーに話題が集中

2001年09月07日 22時26分更新

文● 千葉英寿

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PDFを中心にAdobe Acrobatなどの関連製品とソリューションを紹介するカンファレンスである“PDF Conference 2001”が5日、6日の2日間にわたり、東京・大崎ゲートシティホールにおいて開催された。今年で3回目を迎え、恒例になった感のある同カンファレンスだが、今年はベンダーなどがブース展開する展示会は開催されず、カンファレンスのみの構成となった。

本年4月に我が国でも“電子署名法(電子署名及び認証業務に関する法律)”が法制化、施行されており、行政、経済界からPDFに大きな注目が集まってきている。本カンファレンスはそうした時代背景を写しこんだ内容となった。プログラム運営は、主催するPDF Conference実行委員会に後援するアドビシステムズ(株)が全面協力する形で行なわれた。

●最新版Adobe Acrobat 5.0を全面にフィーチャー

“PDF(Portable Document Format)”は、すでに多くの企業がデジタル書類の標準フォーマットとして導入・活用を進めており、米国政府や我が国の政府においても“イー・ガヴァメント=電子政府”の政策を進める上で、重要なテクノロジーとして位置づけられている。このようにITのキーテクノロジーと言えるPDFを中心にデジタルドキュメント技術に関する製品情報やソリューションを提供する場として開催されているのが、このPDF Conferenceというわけだ。

カンファレンスの初日、午前のセッションでは、最新版Acrobatである『AdobeAcrobat 5.0日本語版』の機能を紹介する“Adobe Acrobat5.0日本語版の新機能”がPDF Conference実行委員長の白旗保則氏をモデレーターに、アドビシステムズ(株)のPDF製品担当である岡本明彦氏、PDF検索プラグインの『サーチPDF Lite forAcrobat 5.0』を提供している(株)クセロの森真一氏をスピーカーに迎えて行なわれた。

“Adobe Acrobat5.0日本語版の新機能(一般企業編)”の模様
昨年に引き続き、アドビシステムズのある大崎ゲートシティを会場に行なわれたPDF Conference 2001。写真は“Adobe Acrobat5.0日本語版の新機能(一般企業編)”の模様

岡本氏は、電子署名や電子申請、オンライン校正といった最新機能の紹介を交えて、Acrobat 5.0日本語版の一般企業での活用を前提とした製品紹介を行なった。

まず、岡本氏はAcrobatの成り立ちを5.0に至る経緯とともに解説した。最新機能の紹介では、Microsoft Office製品との連携を強化したPDF Maker(Windows版のみ)、タグ付きPDFの生成を可能としたことによるテキスト再利用の効率化を紹介した。企業内においてウェブ上でPDFを共有しながら意見交換を行なうことができるオンライン注釈機能も重要な新機能として紹介された。

後半、森氏がAcrobat 5.0日本語版に無料でバンドルされているサーチPDF Lite forAcrobat 5.0(Windows版のみ)のデモンストレーションを行なった。サーチPDF Lite for Acrobat 5.0は、通常のPDF検索はもちろん、複数のPDFを検索したり、全文検索オプションの設定もある。いずれの検索もかなり高速で動作する印象を受けた。さらにPDFに関連する同社製品として、紙の書類からテキストを埋め込んだ形でPDFを生成することができるOCRのAcrobatプラグイン『PDF OCR』や総合的なPDFデータの管理・編集を行なうことができるドキュメントハンドリングソフトウェア『ePware』などを紹介した。

サーチPDF Lite for Acrobat 5.0
サーチPDF Lite for Acrobat 5.0は、AcrobatインストールCD-ROMの“補足資料”にある“Japanese Searchフォルダの内容”をクリックし、インストールする。Mac版は提供されていない

●2年後の電子政府設立に不可欠な電子署名機能

セキュリティー技術について岡本氏は、メインカンファレンスの第3部“AdobeAcrobat5.0日本語版のセキュリティ・電子署名機能”において詳細なプレゼンテーションを行なった。プレゼンテーションではAcrobatプラグインとしてVeriSign技術を提供している日本ベリサイン(株)のプロダクトマーケティング課長の相原敬雄氏および国産のPKIシステムを開発している三菱電機インフォメーションシステム(株)のセキュリティシステム担当マネージャーの遠藤淳氏がそれぞれの製品について紹介を行なった。

まず、岡本氏は、RC4暗号化技術で最高水準の128ビットキーを採用し、ユーザーパスワードとマスターパスワードを組み合わせることで強化されたパスワードセキュリティー機能を使って、企業における協調作業をさらにきめ細かなものとすることができるとした。公開鍵暗号化技術を用いたSelf-Signセキュリティー機能によるアクセス制御についても紹介された。この技術に用いることより、例えば、A課長の書類へのアクセス内容を“コピーや抽出などを許可”とするが、課員各人は“閲覧のみを許可”する、というようにきめ細かにコントロールすることができる、というわけだ。

セキュリティー機能の中で最も社会的に影響力を持つ技術と言えるのが、電子署名機能だろう。まず、企業内での承認作業に最適なものとして紹介されたのが、Self-Sign電子署名だ。これにより、社内で稟議書や申請書などの承認を得る際に、紙の場合と同様にひとつの書類に係長、課長、部長というように各役職ごとに署名することを可能としている。Self-Sign電子署名は高価な認証サーバーを必要としないことも重要な点だろう。

さらに岡本氏は「(PDFは)サードパーティーのPKIシステムと連携することで、G(Goverment)to B(Business)やB to Bでの申請や承認業務において役立てることができる」(岡本氏)と語った。Acrobat 5.0日本語版には、PKI(Public Key Infrastructure=公開鍵基盤)システムのEntrustやVeriSignがプラグインとしてバンドルされており、電子署名をすぐに利用することができる。

引き続き、電子署名のさらに詳しい仕組みを相原氏がVeri-Signを使った認証および署名のデモンストレーションを交えて紹介した。まず、相原氏は電子署名法の施行により、電子署名が実世界での契約書、実印、印鑑証明書という組み合わせと同等の効力を持つことになったとし、セキュリティー対策が重要であることを示した。その中で電子署名のセキュリティー技術は“なりすまし”や“事後否認”、“改ざん”といった行為を未然に防ぐ効力を発揮するとした。

AcrobatとVeriSignの組み合わせでは、Acrobatプラグインとして『VeriSign PDFDocument Signer』がバンドルされており、標準で組み込まれたCA(Class 1およびClass 2 Primary Certificare Authority)として、すぐに活用することが可能だ。AcrobatインストールCD-ROMにあるVeriSign PDF Document Signerをインストールしたら、米国ベリサインもしくは日立情報ネットワークのサイトより証明書を取得するか、ベリサインOnSiteからの発行を受けることができる。

まず、フォームに必要事項を記入し証明書を入手
まず、フォームに必要事項を記入し証明書を入手
すぐに電子署名として効力を発揮できる
すぐに電子署名として効力を発揮できる

●進む実務への電子署名導入。行政も金融も取り組み始めた!

次に相原氏はPKI導入事例を2例紹介した。まず、日本行政書士会のケースでは、行政書士に対する証明書の発行と行政書士のみが閲覧できるサイトへのアクセスコントロールを行ない、不正なアクセスを防いでいることを紹介した。一般ユーザーが行政書士に依頼をする場合、依頼者に証明書を送ることで認証できる。さらに将来的には行政書士関連の書類がPDF化された際にさらに効力を発揮すると加えた。2例目はUFJキャピタルマーケッツ証券のケースで、証券会社が毎日発行する株価情報などの書類を証明することで、信頼性を高めるとともに改ざんなどを未然に防いでいると紹介した。

このケースについて、来場者より「Class 1証明書とのことだが、万一の事があった場合、ベリサインでは責任をどこまで請け負うのか?」との質問に対し、相原氏は「まだ、そういう事態が起こっていないので、判例を元にする日本では、実際に裁判になってみないとわからない部分があるので、現在では答えられない」とした。

続いて、遠藤氏が「世界最強・最速の共通鍵暗号アルゴリズムMISTY(ミスティ)を持つ」として、国産のセキュリティー技術を紹介した。同社の取り組みは、G to BやB to Bでの電子署名を活用した電子申請・入札・調達といった、より大がかりなものという。まず、行政分野での導入事例では、通産省(現・経済産業省)の貿易管理に関わる輸出入申請手続きを電子認証化した『貿易管理オープンネットワークシステム(JETRAS)』というもので、これまで紙の場合、1週間~2ヵ月を要していた申請を、大幅に短縮、効率化を実現したということだ。

さらに金融業界でも認証サービスの国際標準を目指すアイデントラスを用いたグローバルな電子認証サービスの導入動向を説明した。ここでは、証明書にICカードやHSM(Hardware Secrity Module)と呼ばれる鍵管理装置などのハードウェアが用いられていることも紹介された。

現在、同社では前述のMISTY技術を用いた認証ライブラリーや耐タンパーセキュアボードをはじめとするPKIソリューションを提供している。遠藤氏は、「今後はICカードやR/W装置を使ったPDF署名プログラム(今秋発売予定)などを用意している」と語った。

Acrobat 5.0日本語版、注目の機能であるセキュリティーならびに電子署名機能について語った3氏。左よりアドビシステムズの岡本氏、日本ベリサインの相原氏、三菱電機インフォメーションシステムの遠藤氏
Acrobat 5.0日本語版、注目の機能であるセキュリティーならびに電子署名機能について語った3氏。左よりアドビシステムズの岡本氏、日本ベリサインの相原氏、三菱電機インフォメーションシステムの遠藤氏

●本当の評価が下されるのはいつか?

今回のカンファレンスは、改革に不可欠な、2003年の“電子政府”実現にむけて、大変重要な技術となるAcrobatならびにPDFの電子署名、電子申請といった技術を紹介するものとなった。こうした技術が確実に進歩し、実務への導入が進んでいることはとても好ましいことと言える。その反面、非PCユーザーへの配慮がどのようになっていくのかは大変気にかかる部分である。

コンピューター・リテラシーが進む現代で、確実にそれに取り残される層があるのは明らかなことだ。我が国においても中高年層や老年層に対して“パソコン”や“IT”という言葉自体が大変なプレッシャーを与えており、世界的に見れば“文盲”という大きな課題も残されている。そうした層がストレスなく扱うことができるものとならなければ、せっかくの技術も正当に評価されないだろう。行政サービスひとつとっても、住民票を取るために誰もがインターネットとキーボードを操らなければならなくなってしまうのでは、本末転倒と言うものだ。

Acrobat 5.0日本語版では障害者を対象とした補助アクセシビリティーを強化しているが、これはあくまでパソコンそのものを扱えることを前提としたもので、前述のような層の誰もが扱えるわけではない。PDFならびにAcrobatが本当に評価されるのは、紙のように誰もが扱えるようになって初めて正当な評価が下されるのかもしれない。

先だって筆者は米国アドビシステムズ社のCEO、ブルース・チゼン氏にインタビューした際に、チゼン氏はPDFの評価については「3年後にもう一回きいてみてください」と語ってくれたが、今になって同社の決意のようにも聞き取れることに気がついた。

「今年もおかげさまで好評です」と終始にこやかだった白旗実行委員長「今年もおかげさまで好評です」と終始にこやかだった白旗実行委員長

今回のPDF Conferenceは、以前と比較して事例紹介などの、よりユーザーが必要とする生の情報に乏しい感があり、セッションによってはメーカーの製品紹介に終始する、というものもあった。こうした内容にならざるを得なかったのは、やはりブース展示が行なわれなかったためと言えるだろう。来場者からも「講演に出てきた製品をすぐに見ることができて、さらに詳しい説明が聞けるといいと思う」という感想が聞かれた。主催者には、ぜひ、来場者のフィードバックに耳を傾けて、展示の再開を検討していただきたいものだ。

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