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韓国インターネットの技を盗め! 著者インタビュー

2001年08月20日 06時41分更新

文● 月刊アスキー 遠藤

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表紙
韓国インターネットの技を盗め! 趙章恩(チョウ・チャンウン)著 1400円(税別) アスキー刊 ISBN: 4756138578
世界の人気サイトBEST10の半数を占める韓国サイト。とかくその表面的な模様だけが伝えられる韓国ITビジネスだが、その実態は、日本人が想像するものと微妙に違うようだ。日本の2ウランド先を行く韓国ITビジネスの成功事例のポイントはどこなのか? 現地“テヘランバレー”の著者に『韓国インターネットの技を盗め!』の背景を聞いた。



韓国のIT業界をかなり過激に率直すぎるほど裏事情まで書いています

[月刊アスキー 遠藤] 先週、amazon.co.jpの“いま売れてる本”の14位~16位くらいに出ていたりしましたね。
[趙] おかげさまで読者の反応もよくてよかったです。
[月刊アスキー 遠藤] この本を書かれた目的ですが?
[趙] いままで、韓国では、韓国のジャーナリストが書いた「日本はない」とか、韓国滞在何十年の日本人が書いた「殴り殺される覚悟で書いた韓国、韓国人批判」など、お互いを批判するような本が出版されてきました。韓国と日本は、ビジネスパートナーとして、まったくお互いのことを認めていないような、認めたがらないような気がしていたんです。それは、若い人たちの多い、ITの世界でもそうなんですよ。そこでITを通じて日韓のいいところを紹介し合い、偏見や先入観なしにありのままの姿を見て欲しいと思っていたわけです。
[月刊アスキー 遠藤] 韓国では、今回の本とちょうど逆の関係になる内容の『日本インターネットのビジネスモデルを脱がせ!』(ドナン出版)という本を出されていますよね?
[趙] ええ、日本のITを韓国で、韓国のITを日本で紹介することができました。今回の『韓国インターネットの技を盗め』では、日本でチヤホヤされてばかりいて、その本当のところまでは知られずにいる韓国のIT業界をかなり過激に率直すぎるほど裏事情まで書いてます。
[月刊アスキー 遠藤] 具体的に、ITビジネスやサイトを紹介しながら、「儲かる理由は、ズバリこれだ!」などと切りこんでいるところが、ポイントですね。ところで、趙さんは、ふだんどんなお仕事をされているのですか?
[趙] まだ日本のITは韓国より4~5年は遅れていると見向きもされなかった昨年4月、韓国最初の日韓インターネットビジネス交流会、JIBC(Japan Internet Business Community)を1人で立ち上げ、会長と名乗る名刺を作り、日本語が喋れIT関連の仕事をしている専門家や韓国滞在の日本のビジネスマンに入会してもらいました。いまでは70人近い人数が、ビジネスの話や貴重な情報交換をやっています。そのほかには、韓国のベンチャーの日本進出をサポートしたり、日本語ウェブサイト立ち上げのプロデューサーとして、あるいはプロモーションも担当します。それから、韓国のIT専門紙に関連コラムを書いてます。
[月刊アスキー 遠藤] ところで、韓国はいま経済的には'97年のIMF以来の落ち込みと伝えられていますが、インターネットのほうは相変わらず活発に使われているのでしょうか?
[趙] 今年に入ってオフラインビジネスの不況がオンラインにまでも及び、インターネットの世界は物凄い打撃を受けました。以前のような、一攫千金のベンチャードリームは、もう昔の話ですね。ただ、こんな状況だからこそ、まじめなベンチャーだけが生き残れるチャンスと受け止めるIT人も多いですね。数字で見ると、インターネットビジネスに関しては、それほど悲観的な状況でもないのですよ。韓国のインターネット産業は、昨年、対前年比81%成長しました。これは、韓国の景気水準を考えると、予想を越えるものです。
[月刊アスキー 遠藤] そうした中で利益を確保、または着実に将来に繋げるビジネスをしているのは、どんな分野、または会社なのでしょうか?
[趙] ネットワークの構築関連とショッピングモールがいちばん成長していますね。ネットワーク関連、ISP、ショッピングモールは、インターネットの普及に比例して大きくなっていきますよね。また、サービス系のサイトは「もう終わり」と思われていましたが、最近になって異変続出。画像チャットやアバタ(サイバー上での自分のキャラクター)を利用したチャット、コミュニティサイトが有料化で成功を収めています。アバタの洋服や髪型を変えるために小学生から大人までお金を使っています。
アバタ
韓国では、いまネットワーク上に分身(アバタ)を生活させるMOG(Massive Online Game)の人気が高い
[月刊アスキー 遠藤] いま韓国のインターネットベンチャーの人たちがいちばん考えていることは? また,抱えている問題は?
[趙] 企業の立場からは収益不在、人材離れ、資金難、社員の立場からはリストラ、解雇です。結局1年足らずで終わってしまうベンチャーもかなりありますが、走り始めた自転車のペダルをこがないとすぐ倒れてしまうように、車輪が揺らいでも止めるわけにはいかないと、もくもくと走り続けるベンチャーもたくさんあります。みんな「忍」の一文字で耐えてますね。一発大儲けの時代は去り、インターネットを「忍ターネット」と呼ぶかのように、長期的なビジネス計画を立てはじめるベンチャーが増えました。
[月刊アスキー 遠藤] 昨年から今年にかけてコンテンツの有料化が目だっているそうですが、ユーザーの反応は?
[趙] 今までと全く変わらないコンテンツでいきなり有料化を言い出すサイトが増えました。勿論ユーザーは大反発してます。有料化の問題について、ほとんどのユーザーが、お金を出したくなるくらいのサービスやコンテンツが提供されていないと感じているようです。100万人、500万人の会員を誇る無料サイトがある日突然有料化し、誰も来なくなった事例もあります。先程も言った「アバタ」のように新鮮なアイテムに小銭で利用できる有料化から徐々に浸透させて行くべきですね。
テヘランバレー
韓国のインターネットベンチャーの聖地“テヘランバレー”
[月刊アスキー 遠藤] 日本よりもブロードバンドがはるかに進んでいる韓国ですが、ブロードバンドにおけるビジネスで最も重要なことは何だと思いますか?
著者近影趙章恩(チョウ・チャンウン)。3歳の時に日本へ渡り、高校を卒業するまで韓国と日本を行き来する生活を続ける。日本で高校を、韓国で大学を卒業。韓国のIT企業の海外進出のサポートなどを手がける。
[趙] いま韓国ではADSLに対する不満がすごいです。モデムより遅かったり、何日も全くつながらなかったりと大変です。韓国消費者連盟が今年の4月、ADSL利用者831人を対象に調査した結果、32.3%が現在使っているADSLを取り消したいと思い、88.7%は他の接続方法に乗り換える予定で、90.2%が何らかの接続障害を経験したと答えました。これは技術的な部分での不満もありますが、料金さえ取れば終わりという高速通信会社が多かったからです。「宣伝費を開発費に回せ!」とユーザーから怒られる前にサービス体制から整えた方がいいですね。

日本と韓国は、今後、ITの世界でパートナーとして一緒にやっていけると思います

[月刊アスキー 遠藤] 本の中ではあまり触れられなかったユーザー的な視点からも質問。韓国の人はdaumに代表される民族系のWebサイトを利用する人が多いと思います。日本ではアメリカのサイトの日本語版ばかりが流行ってますが。
[趙] 私も無料メール、検索、コミュニティーは韓国生まれのサイトを利用してますね。たとえば、メールの容量や添付のサイズが大きいとか、検索もすでに昨年から画像、MP3、動画だけにしぼって検索したり、自由自在に使えます。断然使いやすい! この一言につきますね。韓国では、インターネットユーザーを「ネティズン」(ネット+シティズン)と呼びます。ネティズンは本当に気移りが激しくコロコロ変わります。ネティズンの要求を、瞬時把握してサイトに反映するには、やっぱり韓国生まれの民族系サイトでないとということではないでしょうか?
[月刊アスキー 遠藤] PDAを使っている人は多いのでしょうか?
[趙] 私の周囲ではPDAは結構使ってます。IT系の仕事をしてるからでしょうね。一般の人はまだまだかもしれませんね。今年20万台以上売れる見込みだそうです。PDAを使ってると言っても、インターネット用ではなく面白いコンテンツをダウンロードして電車の中で読むためや、アドレス帳代わりに、スケジュール確認に、ちょっとメール確認にと使い道がPDAらしくないですね。手書き入力は勿論ハングルですよ。
PCバン
インターネット普及のカギを握ったともいわれる韓国風インターネットカフェ「PCバン」。
[月刊アスキー 遠藤] 街中に「PCバン」があるからノートPCを持ち歩かないというのは本当ですか?
[趙] ノートPCまで持ち歩きながらちょっと公園で一仕事という人はいないと思いますよ。銀行やファーストフードのお店に行けばインターネットも無料で使えるし。それに、インターネット上にファイルを保管し、いつでもそのサイトに入り編集出来たりするASPサービス、ストレージサービスが定着しているのでノートPCがなくても、PCバンか、そのあたりのPCでちょこちょこやればいいわけですよね。ただ、PCバンは、ネットワーク対戦ゲームや画像チャットのために行くようなところで、PCバンでワードでジックリ文書を作ったりしているような人はいませんよ。
[月刊アスキー 遠藤] 大学生にとってITはどれくらい魅力的な仕事ですか? みな憧れるほどですか?
[趙] 大学生の就職が今すごく厳しいんです。それで創業を夢見る大学生が自然と増えてます。大企業のIT部門には憧れるがベンチャーはちょっと……という現実的な学生も結構います。ベンチャーは、自由な反面不安要素も多いですからね。また、学生が立ち上げるベンチャーも、インターネットだけでなく、バイオ関連などいろいろな分野に広がってきているようですね。
昨年、芸能人の盗撮ビデオがインターネットに流出して話題となった。
昨年、芸能人の盗撮ビデオがインターネットに流出して話題となった。
[月刊アスキー 遠藤] テレビ放送で乳首が露出するのも許されない韓国の文化が、インターネットのせいでどれくらい変ったのでしょうか?
[趙] 韓国ではインターネットユーザーを表わすネティズンという言葉にセックスを合わせて「セッティズン」と呼ばれる集団がいます。とにかくネット上のアダルト画像、動画を求め眠れぬ夜をすごす人達のことです。30代後半の男性はインターネットを「情報の海」ではなく「性の海」と受け止めていたからこそ、関心を持ち身近なものと認識するようになったといっても言い過ぎではないと思います。韓国のように表では性をタブーとしている国ほどインターネットは性的欲望を吐き出せる、匿名のごみ箱化して行きました。出会いサイトもその延長でしたね。でも、韓国人はちょっと奥手でネットで出会いすぐ会ったりはしても、十分検討したあとですからね。誰にでも会うわけじゃないんですよ。ネット上で自分の好みに合った人を検索して集中攻略したり、お見合い代わりにチャットを利用したり、他人に成りすましてチャットしたりするウソを楽しむ人が3分の2。チャットから始まり結婚したカップルも相当いるそうですが、3分の1は誰にでも会いたい、テレクラ代わりに出会いサイトを利用してます。韓国はモバイルよりPCで利用する出会いサイトが圧倒的に多いです。
[月刊アスキー 遠藤] 韓国における携帯インターネットやモバイルインターネットは?
[趙] 日本のiモードは、知らない人がいないくらい韓国でも有名で注目を浴びてます。韓国も大手通信企業SKがこれから無線しかやらないと公表するなど、すごく力が入っています。PCSや一般の携帯電話(セルーラ方式)で、日本のiモードやEZと同じで、交通情報、天気、モバイルバンキング、メール等々ができるのですが。
韓国の携帯電話売り場の写真
日本以上の普及率を誇る韓国の携帯電話だが、モバイルインターネットはiモードが先行
[月刊アスキー 遠藤] 最後に、日本と韓国のインターネットは、今後どのくらい関係してくるでしょう?
[趙] 今、韓国では歴史教科書問題を巡り、日本文化3次開放を延期したり、国家次元では険悪ムードですが、インターネットの翻訳チャットや日韓コミュニティーサイトの雰囲気は全然違いますよね。日本人と友だちになりたい韓国人、韓国に興味のある日本人が集まっています。インターネットは韓国国民、特に10代~20代の日本に対する認識を変えました。これからの世代は、インターネットを介して、いろんな場面で日本とうまくやって行けるのではないかと期待しています。そのことは、ビジネスについても言えると思いますね。 いままではお互いのことを「知っているつもりであれこれやってみる」という感じだったと思うのですが、これからはポイントをつかんでやっていけると思います。そのあたりのところは、「韓国インターネットの技を盗め」を読んでいただけると分かるのですが。

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