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米AMD、Hammer投入を延期――Athlonは新コア“Barton”で3GHzへ

2001年05月07日 22時24分更新

文● 編集部 佐々木千之

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米AMD社は4月26日(米国時間)に開催した株主総会(※1)で、ジェリー・サンダース(Jerry Sanders)会長は新しいプロセッサーロードマップを提示し、これまで2002年前半に予定していた64bitプロセッサー“Hammer(ハマー)”ファミリーの投入を2002年後半に延期すること、Athlonに新コア“Barton(バートン)”を投入することなどを明らかにした。

※1 26日の午前10時(米太平洋標準時)に開催した。2時間に及ぶ株主総会の模様はAMDのウェブサイトで、ストリーミングビデオによって公開されている。

3月23日のAthlon-1.33/1.30GHz発表時のロードマップ
3月23日のAthlon-1.33/1.30GHz発表時のロードマップ
4月26日の株主総会で公開された新ロードマップ
4月26日の株主総会で公開された新ロードマップ。“SledgeHammer”、“ClawHammer”の投入が半期後ろにずれ込み、“Thoroughbred”の後に“Barton”が登場した

SOIで性能アップを狙う

AMDが株主総会で示したロードマップで注目されるのは、延期したHammerファミリー(※2)と次々世代Athlonコア“Thoroughbred”(※3)の後に加えられたBartonに、SOI(シリコン・オン・インシュレーター)技術を採用するとしたことだ。

※2 Hammer(ハマー):AMDの第8世代x86プロセッサー。64bitプロセッサーで、現行の32bitのx86プロセッサーの上位互換性を持つとしている。と呼ぶ現在までにAMDが公開した資料によると、Hammerプロセッサーには、4~8wayのマルチプロセッサーに対応した“SledgeHammer(スレッジハマー)”(大ハンマーの意)と、1または2wayまでに対応した“ClawHammer(クロウハマー)”(釘抜き付きハンマーの意)の2種類がある。

※3 Thoroughbred(サラブレッド):0.18μmプロセス技術で製造している現行Athlonコア(Thunderbird)を改良したコアと言われ、2001年第3四半期に登場するという“Palomino(パロミノ)”コアの、0.13μmプロセス版コア。2002年前半に投入予定。

SOI技術は、半導体回路をシリコンウエハー上に形成する際、まずウエハー上に絶縁膜を作り、その上にトランジスターを作り込むというもの。シリコンウエハーとトランジスターの間にごく小さなコンデンサーができるのを防ぐことができるという。SOI技術は'98年に米IBM社が他社に先駆けて発表しており、SOI技術を使わずに製造した半導体と比較して、低消費電力化と20~30%の高速化が図れるとしている。米IBMはすでにSOI技術を使ったプロセッサー(『RS64 IV』『PowerPC』など)を製造している。AMDは3月にIBMとSOI技術についてのライセンス契約を結び、2002年に投入するHammerおよびBartonの高性能化を図る見込み。

AMDはこれらの技術を使ったプロセッサーのクロックについては明らかにしていないが、株主総会ではAthlon-1GHzを1とした性能比較グラフを示した。これによると2002年後半には、Athlonは2.5~3GHz相当、Hammerは3~3.5GHz相当の性能を持つことになる。Athlonはこれまで、Thoroughbredが最後のコアで、Hammerファミリーへのつなぎ役になると見られていたが、Hammerの投入が先に延ばされたことで、Athlonのさらなる高性能化が必要になったとも考えられる。Hammer投入の延期理由については、明言はしていないが、開発の遅れや、市場のニーズを見極めているのではないかと考えられる。SOI技術を使えるようになったことで、一部で競合するItaniumとの性能競争で、なるべく優位に立っておきたいという思惑もあるだろう。Bartonの投入については、安定したプラットフォームを求める企業向けに、Socket A(※4)プラットフォームを2003年まで提供すると説明した。

※4 Socket A:Athlon、Duronが使用するCPUソケットの名称。

なお、そのほかのプロセッサーの投入時期について日本AMD(株)の広報部に確認したが、「2001年第2四半期としているPalominoコアのモバイル版Athlon投入スケジュールには変更はない。第2四半期には現行のThunderbirdコアAthlonの1.4GHz版、第3四半期にはPalominoコアのデスクトップ向けAthlon-1.5GHzを予定している」とのことだった。日本AMDでは来週記者発表会を予定しており、そこでPalominoコアのモバイル版Athlonを正式発表するのではないかと推察される。

プロセッサー製造はFab30に集約

また、株主総会では、4月18日付けの2001年度第1四半期(2001年1~3月)決算が、過去最高のプロセッサー出荷数と売上高を記録するなど、好調であったことを背景に、AMDの優位性をPentium 4とAthlonやHammerファミリーを比較しながら強気で示した。ただし、最近のパソコン市場の冷え込みを考慮してか、今後数年間はプロセッサー工場立ち上げの予定はなく、ドイツのドレスデンにある半導体工場“Fab30”の稼働率アップと、新技術導入で乗り切るなど、新規工場への投資を控える姿勢も見られた。

AMD広報部によると、現在Fab30と合わせてDuronの製造を行なっている米テキサス州オースチンの“Fab25”を、徐々にフラッシュメモリー工場に移行していくとしている。ただし、Fab25におけるフラッシュメモリーの生産はまだ開始されておらず、開始時期についても明らかにはしていない。AMDはプロセッサーの生産をFab30に集約する計画であることは間違いない。AMDでは、Fab30は現在60%が稼働している状態で、年内にはフル稼働状態になる予定としている。プロセッサー需要には、この稼働率アップと、12インチウエハーおよび0.13μmプロセス導入による生産増で対応するとしている。

0.18μmプロセスにおけるダイサイズ比較表
プロセッサー名 Pentium 4 Athlon(Thunderbird)
ダイサイズ 217mm2 120mm2
0.13μmプロセスにおけるダイサイズ比較表
プロセッサー名 Pentium 4 Athlon(Palomino) ClawHammer
ダイサイズ 140mm2 80mm2 108mm2
AMDのロードマップによると、0.13μmプロセス版のAthlonはThoroughbredであるが、表中の表記は株主総会で示された資料に従いPalominoとした。実質的にはThorougbredを示していると考えられる。

株主総会でAMDが示した、Pentium 4とAthlonとのダイサイズ比較によると、現在217mm2のPentium 4に対し現行のAthlonは120mm2。Pentium 4が0.13μmプロセスに移行した場合でも140mm2であるのに対し、0.13μmプロセス版Athlonでは80mm2であり、十分な競争力を持つとしている。また、Hammerファミリーのうち、シングルまたはデュアルプロセッサーに対応したClawHammerのダイサイズが108mm2であることを明らかにしている。

サーバーとモバイルで利益確保?

インテルとAMDは先週、Pentium 4とAthlonの大幅な価格改定を行ない、デスクトップ向けの主力プロセッサーの価格は、最も高性能なものでも250~350ドル(約3万~4万3000円)程度と、かつてないまでに落ちてきている。単純計算としてダイサイズが製造コストにほぼ比例するとすれば、Pentium 4のインテルが厳しいわけだが、インテルにはXeonという高価格で安定したプロセッサーがある。また、インテルは低電圧版モバイルPentium IIIといった、デスクトップに比べれば価格の高いモバイル向けの高性能プロセッサーラインアップも豊富にそろえることで、全体として収益を支える構造となっている。

対するAMDは、高価格で売れるサーバー/ワークステーション向けプロセッサーがなく、いかにAthlonのコストパフォーマンスが高いにせよ、インテルがPentium 4で大攻勢をかけつつある現在、今後この利益構造が続けられるかどうかは難しいと考えられる(AMDはフラッシュメモリーから大きな利益を上げているが、ここではプロセッサー事業について記す)。日本AMDの堺社長も1月の記者向けミーティングで、法人市場に力を入れることと合わせて、サーバー/ワークステーション向けも売り込んでいきたいと述べている。

今回のHammerファミリーの投入延期は、まずはAMDとして、Palominoコアのサーバー/ワークステーション向けプロセッサー(名称は決まっていない)でしっかり市場を掴んでおいてから、万全を期す形で投入したい、絶対に失敗できないというAMDの意思の表われではないだろうか。Athlonの時には、好調なパソコン需要を背景に非常にアグレッシブな製品投入スケジュールを立て、それを実行してきたAMDだが、今度はかなり慎重になっているようだ。

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