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メインフレームの後継者

2001年04月28日 07時18分更新

文● 渡邉 利和(toshi-w@tt.rim.or.jp)

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PCユーザーにとって、「メインフレーム」は今や過去の遺物としか思えないだろう。筆者自身にとっても、メインフレームの記憶は大学の計算機実習の思い出と同一である。低機能な端末から苦労しつつFotranプログラムをたどたどしく入力し、実行し、しばらくしてからラインプリンタのところに出力を取りに行く、というロクでもない操作環境の記憶だ。PCのインタラクティブな操作環境を知ってしまえば、メインフレームはうすら馬鹿でかい電卓程度にしか思えなかったものだ。

その後、「ダウンサイジング」や「オープンシステム」という標語が盛んにもてはやされた時期、筆者はUNIXシステムをメインに利用するようになっており、PCよりもUNIXが気に入っていたが、これとてもメインフレームに比べればまだ「個人用コンピュータの匂い」を強く持っており、どう考えてもメインフレームよりもすばらしい環境に思えた。メインフレームが過去の遺物として恐竜扱いされ、主役の座を追われつつある状況を共感を持って眺めていたわけだ。

しかし、あれから10年以上経った今でも、メインフレームは絶滅なぞしてはいない。これは間違いなく、メインフレームに向いた用途が実際に存在し、そこではメインフレームを利用することがよい選択であったからだろう。規模が大きく、大量のリクエストを処理する。しかも、安定性/信頼性を重視し、とにかくダウンしないという特性を実現したのがメインフレームである。Sunが取り組んできたビジネスサーバ市場ではこの特性が求められていたわけだが、現実にメインフレームに匹敵する形でこうした要求に応える目処が経ったのが、ダウンサイジングの提唱から10年以上経った今なのだということなのだろう。

Midframeと呼ばれるSun Fireシリーズの特徴は、Dynamic System DomainとDynamic Reconfigurationの実現にある。これらは、従来のUltraSPARC II世代のシステムでは唯一Sun Enterprise 10000(Starfire)のみが実現していた機能だ。もちろん、これ以外にもほとんどすべての主要コンポーネントが冗長化に対応しているなど、PCとはレベルの違う構成になっているが、ここではもっとも目立つ2つの“Dynamic”機能に注目してみよう。

Dynamic System Domainは、システムの動作中に動的にドメイン分割を可能とする機能だ。ドメインとは、単純化するとCPUのグループ分けと言ってもよいだろう。このクラスのSunのサーバでは、SMP構成がデフォルトである。つまり、最初から複数のCPUが存在するわけだ。この複数CPUをいくつかのグループに分け、仮想的に別のコンピュータのように扱うのがドメインの機能である。ただし、仮想的と言っても実際には物理レベルでの分離がなされている。つまり、単一のOSが複数のOSイメージをエミュレートするような、VMwareのような実装ではなく、ホストOSは存在しない。相互に直接的な依存関係のない独立して動作するOSが1つの筐体内部で複数存在することになる。

Sun FireをはじめとするSunのサーバ群では、CPUとメインメモリ、そしてI/Oが一組のシステムボード上に搭載され、これが複数あるというデザインになっている。PCに例えると、1つの筐体内にマザーボードが複数あるようなイメージだ。このため、Dynamic System Domainとは、最初から物理的に別々のコンピュータとして動作可能なコンポーネントをそのまま別々に動作させるようなものだと言い換えることもできる。

一方、Dynamic Reconfigurationは、このシステムボードを動作中に抜き差しできるという機能だ。もちろん、動作中といってもそれはシステム全体のレベルでの話であり、システムボードレベルで見れば、抜く前にそのシステムボード上で実行されている処理は止めておかないといけないわけだが、この抜き取りに備える準備作業の時間はごく短い。逆に、システムボードを追加する際には既存のシステムボード上で実行されている処理はそのままにしておき、物理的に新しいボードを追加すればよい。この場合、新しいボードを利用する前にシステムが新しいボードの動作チェックなどを実行するため多少時間がかかるが、それでも数分程度の話だという。

この両者を組み合わせると、1台のサーバ内を2つの異なるコンピュータに分割し、それぞれのCPU数の割り当てを動的に調整できるほか、全体の処理能力が不足した場合には新しいボードを追加して増やすことができる。追加した新しいボードは既存の任意のドメインに追加してやれば、そのドメインの処理能力が拡大される。しかも、“Dynamic”というだけあり、こうした作業はすべてシステムの動作中に行なえる。メンテナンスを理由にシステムを停止することも許されない、24時間365日稼働を続けることが期待されるサーバが増えているが、こうした用途にとっては実に便利な機能だといえる。

このドメイン分割の機能も、元はメインフレームで実装されていたものだ。近視眼的には、この機能が実現されたことが“Midframe”という呼称の理由となっていると言うこともできるだろう。

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