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東京国際ブックフェア 2001で出版のプロがeBookに大注目

アドビの本格参入で激化する電子出版戦争

2001年04月20日 23時54分更新

文● 千葉英寿

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19日よりアジア最大規模の本の見本市“東京国際ブックフェア 2001”(TIBF)が有明の東京ビッグサイトで開催されている(併催する形で“デジタルパブリッシングフェア”)。一昨年あたりから、デジタルパブリッシングフェアのエリアも含めたブックフェア全体において、電子出版、ブックオンデマンド、インターネットといったデジタル関連の出展が増えているが、今年はさらにそうした本とデジタルをつなぐ技術や出版物が数多く展示されている。

注目を集めたアドビブース

最大の注目株は先だってeBook関連の新製品を発表したばかりのアドビシステムズ(株)だろう。TIBF初出展となる同社は、先週の『Adobe Acrobat 5.0』の発表に続き、同じPDFを使った電子出版のソリューションである『Adobe Acrobat eBook Reader』の発表を今週に入って行なったばかり。今回の出展は一般への初お披露目、ということになる。

同社ブースの目玉は、このAdobe Acrobat eBook Readerをはじめ、eBookの著作権を保護・管理するためのサーバーソフトウェアである『Adobe Content Server 2.0』が紹介された。Adobe Content Server 2.0は、PDF形式のeBookを暗号化し、著作権を保護した状態であらゆるウェブサイトから直接配信することができる。

PDFの大きな利点のひとつに精細な画像を含む印刷物により近いものを提供できることにあるが、印刷物とPDFを同時に作成できるパブリッシングツールである『Adobe InDesign』も紹介され、出版関係者の注目を集めていた。

アドビシステムズのブース
大変な活況だったアドビシステムズのブース

Adobe vs Microsoft?

電子出版の本命とも言われるAdobe Acrobat eBookだが、その対抗馬であるマイクロソフト(株)は、米国でアドビに先んじて米アマゾン社や米Barnes&Noble.com社などのオンライン書店での提携を行なっており、アドビはこれに追随する形となっている。

この二大巨頭の決着について、(株)イーストの下川和男氏は「どちらが標準ということにはならないと思う。いずれのよいところを上手に使い分けることができればよいのではないか」としている。また、マイクロソフト社の日本語版の対応の遅さについては、「早く国内の担当者を定めて、取りかかってほしい」としている。

当然のことだが、日本語版のリーダーを用意するには、それに見合った美しく読みやすい日本語フォントとレイアウトを用意する必要がある。Adobe Acrobat eBookの場合は、PDFを使うことで発行者の意図に基づいて埋め込まれた日本語書体で表示させることができ、その表現の幅ははかり知れない。しかし、マイクロソフト社はこれまでそうした組版などの技術に対してあまりコミットしてこなかった。そうしたことから、少なくとも日本においては、アドビの方に分があるように見て取れる。

イーストの下川和男氏(右)とアドビシステムズのeBook担当、石原信義氏
イーストの下川和男氏(右)とアドビシステムズのeBook担当、石原信義氏。イーストは“Open eBook”へ参加するなど国内の電子出版のパイオニアの1社だ

インターネットでの“立ち読み”を実現したドットブック

こうした世界標準を目指す動きとは別に、すでに電子出版のスタンダードとしておなじみになった“エキスパンドブック”と“T-Time”を擁する(株)ボイジャーは独自の動きを見せている。'92年から電子出版に取り組んでいる同社は、当初よりTIBFには出版社として参加しており、(株)新潮社とともにブースを出している。

ボイジャーでは、数多くの出版物とともに新しい提案として“ドットブック”を紹介していた。ドットブックは、T-Timeの立て書き技術を使ったもので、発行者がファイルの閲覧制限や改ざん防止といった著作権保護を施すことができるもの。

各ブラウザーに対応したプラグインソフト『T-Time Plug』をインストールすれば、インターネット上で公開されている電子本を“立ち読み”することができる。この試みは、すでに同社のオンラインショップ“理想書店”をはじめ、出版社8社で共同運営する“電子文庫パブリ”や筑摩書房の“Webちくま”などですでに運用されている。

ボイジャーのブース
ボイジャーのブース
立ち読みのデモ
理想書店で提供されている『デジタル時代の出版メディア』(湯浅俊彦著/ポット出版刊)を閲覧してみた。まるごと一冊立ち読みはできるものについては、10分を経過すると左のようにスクランブルがかかり読めなくなる
凸版印刷ブース
凸版印刷(株)ブース
Book Jacket 2
凸版印刷は独自の読書ビューア『Book Jacket 2』を紹介していた。印刷会社としての日本語レイアウトの技術と添付されているスムースフォントにより見やすい日本語表現を実現したとしている

eBook端末の実機が展示

電子出版といえば、パソコンでの表示と平行して常にビューアー端末が提案されてきたが、今回もいくつかのモデルが紹介されていた。

(株)東芝では、(株)イーブックイニシアティブジャパン、(株)NTTデータと共同提案した見開き型端末を紹介していた。電子書籍向けの7.7型のVGA×2(640×960画素)液晶パネルを使用したもので、あくまで画面を表示するためのサンプルモデルという。

書籍としてはページとページの間のアキが不自然では、との質問に対してブース担当者は、「その通りだが、これはあくまでサンプル。当然、製品化の段階では、このあたりは改善されるだろう」としていた。

東芝製のeBook端末
驚くほどの美しさでカラーの漫画作品を表示している東芝製の端末モデル。これなら漫画はもちろんグラビアの表示にも威力を発揮するだろう

あちこちで見かけたブックオンデマンド

話題になっていたのは、電子出版だけではない。むしろ、数多くの出版社ブースでも展開されていたのが、ブックオンデマンドのサービスだ。すでに技術寄りの紹介ではなく、サービスや独自の出版の取り組みなどが紹介されていた。

自費出版のためのソリューションサービスとしては、(株)プリコの“個人書店”、コニカビジネスマシン(株)と(株)住友金属システムソリューションズがそれぞれの技術とノウハウ(コニカオンデマンド印刷機と住友金属のEDIAN WING)を用いた“ebook-print.com”などが展開されていた。

ブックオンデマンドは、稀覯本や絶版本の復刊や人文書の専門書などの刊行に効果が高いとされていることから、こうした取り組みもあちこちで見られた。

日本出版販売(株)(日販)ブースでは(株)ブッキングとの共同業で、絶版、品切れの書籍をインターネットを介して集め、出版社と交渉して復刊する“復刊ドットコム”が紹介されていた。

大日本印刷(株)ブースでは、関連会社である(株)トランスアートと(株)岩波書店、(株)晶文社、(株)筑摩書房、(株)白水社、(株)みすず書房、『本とコンピュータ』編集室による“《リキエスタ》の会”によるオンデマンド印刷物による人文書発行の取り組みが紹介されていた。

リキエスタの会出版物リキエスタの会による刊行物。そのほとんどが1000円程度で、これまでの人文書の価格からは考えもつかない安価で名著、傑作を読むことができる

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