ソニー(株)は7日、低温ポリシリコンTFTを採用した13インチフルカラーのアクティブマトリクス型有機ELディスプレーを開発したと発表した。
新開発の13インチ(対角33cm)のフルカラー有機ELディスプレー |
独自のTAC技術で中大型サイズの有機ELディスプレーを実現
同社は有機ELディスプレーの大型化および高輝度/高精細化を実現する技術“TAC(Top emission Adaptive Current drive)”を開発、これにより13インチのフルカラー有機ELディスプレーの試作機を開発することに成功したという。
有機EL素子は、陽極(透明アノード)と陰極(カソード)で有機薄膜を挟み込んだ構造。直流電圧を与えると陽極から正孔が、陰極から電子が注入され、有機薄膜内で再結合しこの時発生したエネルギーが有機材料を励起し、有機材料それぞれ固有の色の発光が起こる。有機ELディスプレーはこれらの素子でRGB各画素を形成している。
有機ELディスプレーは自発光するのでバックライトが不要となり、薄型/軽量のディスプレーが実現できる。また、視野角への依存性が少なく、応答速度もLCDと比較して速いため、動画像をなめらかに表示できる特徴を持つ。
同社が開発したTAC技術は、従来の有機ELディスプレーの問題点を克服し、中大型サイズの有機ELディスプレーの実現を可能とするもの。従来のアクティブマトリクス駆動型有機ELディスプレーは、トランジスタを2個使う2TFT型の電圧書き込み方式による画素回路であったが、すべての画素の駆動TFT特性が均一でなければ画内に輝度のばらつきが発生し、均一な画像が表示されないという問題があった。同社は電流書き込み方式による画素回路を開発、この画素回路はトランジスタを4個使う4TFT構成で、1画素内のペアトランジスタを構成する2TFTの特性が揃っていれば、画内で駆動TFTの特性がばらついていても、画内の輝度を統一できる仕組みとなっている。これにより輝度ムラを抑制でき10インチ以上の大画面化が容易となったという。
電流駆動方式のイメージ |
さらに、従来の有機ELディスプレーはTFTガラス基板側に光を取り出していたが、基板の上部から光を取り出すTop Emission構造を新たに採用した。これにより基板のTFT配置に光量が影響されないため、発光部に対する開口率が拡大し、高輝度化および画素数のアップ/高精細化が可能となった。
Top Emission構造のイメージ |
また、有機EL素子は大気中に含まれる水分や酸素に触れると発光特性が劣化するため、従来は大気との接触を遮断するべく素子背面をメタルキャップで覆うなど中空部分を持つ構造が採用され、厚さを増す原因となっていた。Top Emission構造では光透過性カソード上に保護層と透明シールを重ね合わせることで中空部分のない完全固体の薄型構造を実現している。
中空のない完全固体構造のイメージ |
開発品の仕様は以下の通り
- 駆動方法:低温PolySiTFTアクティブマトリクス方式
- 画面サイズ:対角13インチ(264×198mm)
- 画素数:800×600(SVGA)
- 画素ピッチ:0.33×0.33mm
- 色度:R(0.66、0.34)、G(0.26、0.65)、B(0.16、0.06)
- 色温度(ホワイト):9300K(ケルビン)
- 輝度:300cd/m2以上
- ディスプレー部厚さ:1.4mm
- ディスプレー部重量:230g
有機ELディスプレーはブロードバンド時代向けのデバイス
本日都内で行なわれた発表会で、ソニー執行役員専務コアテクノロジー&ネットワークカンパニーのNCプレジデントである中村末広氏は、「今回、世界最大サイズの13インチ有機ELディスプレーの試作機を開発した。薄型ディスプレーはブロードバンドネットワーク時代に向けて急成長するだろう、2005年には8兆5000億規模になるのでは。画質に重点を置きブラウン管に取って代わるべきデバイスを開発したい」と語った。
今回開発された試作機を持ち、角度を変えて薄さを説明する中村氏。中村氏の手の中にあるのが横から見たディスプレーの試作機だ |
CRTやFEDなど他のデバイスとEL有機ディスプレーの位置づけについては、「有機ELは有力な中大型デバイスになり得るが、これ1本にするわけではなく現状ではFEDなども並行して事業を行なう。ただし今後技術的な見極めが必要だろう。ブラウン管もさらに事業を続け、生産量も増えるだろう。ブラウン管は重さと奥行きを除けばこれに勝るものはない。しかしあの重さと奥行きはこれからの時代には合わないだろう。有機ELは自分で発光し、動画などをTVと等しい色表現で表示できるブロードバンド時代向けのデバイスだ。今後家庭用ディスプレーに応用できるだろう」としている。
現在の試作機は、寿命や消費電力が実用レベルではないため、寿命を1万時間以上にするなど改善しながら、2003年の実用化を目指してさらに開発を進めていくという。実用化された場合の価格帯については、既存のアクティブマトリクス型LCDと製造プロセスが似ているので、LCDと同等以下のコストになることは十分考えられるとしている。また、サイズの可能性についてもLCDと同等で、30インチ程度までは技術的には実現可能という。
発表会場で展示された13インチ有機ELディスプレー。自然の色合いに近い動画がなめらかに表示されている |
試作機を利用した家庭用ディスプレーのイメージモデル |
上のイメージモデルの背面。薄型で軽量となればこのようにスタイリッシュなデザインのディスプレーも実現できる |
今回試作機開発に成功した有機ELディスプレーの実用化は2003年とのこと。他社が開発している有機ELディスプレーが小型端末向けのサイズであるのに対し、13インチという中大型サイズと、TVと同等の明るさを実現したことで、ソニーは次世代平面ディスプレー事業で1歩先行したといえよう。気になるのは、ソニーがここ数年米キャンディセント・テクノロジーズ社と共同で行なっている高圧型FEDの開発で、こちらにも少なからず影響を与えそうだ。