日本AMD(株)は18日、都内のホテルで報道関係者を集めてプレスミーティングを行ない、本日発表されたばかりの米本社の2000年度決算や、2001年の見通し、製品ロードマップを明らかにした。また、日本独自のベンチマークソフト『Ninja Bench』も初公開した。
2001年の日本市場シェア30%が目標
堺和夫代表取締役社長は、2000年のAMDの事業を、1GHz動作のAthlonや独ドレスデンの新工場“Fab.30”立ち上げ、Duron、DDRメモリー対応チップセットなどのハイライトを示しながら「売り上げ、利益とも31年のAMDの歴史の中で最高の年となった」と振り返った。そして2001年の日本市場の目標として、市場シェア30%の獲得を掲げた。現在18%程のシェアを、個人市場でのさらなるシェア拡大と、法人市場への本格的な参入によって伸ばす意向で「不可能な数字ではない」と達成に意欲を示した。
日本AMD代表取締役社長の堺和夫氏 |
堺社長はまた、サーバー・ワークステーション市場への参入をもう1つの目標として揚げた。すでにAthlonの高速性から、ワークステーションに近い使い方をされ初めているというが、DDRメモリー対応インフラの普及や、マルチプロセッサー製品の提供などで売り込んでいきたいという。
堺社長のスピーチの最後に示された平家物語の一節。“奢れる者久しからず”の心で2000年度の好調に浮かれることのないようにしたいという |
2000年は'99年の赤字から一転して黒字10億ドル
続いて吉澤俊介取締役が本日プレスミーティングの数時間前に発表されたばかり(米国時間1月17日)の、AMD全体の2000年決算について説明した。
取締役吉澤俊介氏 |
AMD2000年度決算ハイライト
- 2000年通年の売り上げは46億4000万ドル(約5500億円)と前年の28億6000万ドル(約3400億円)から62%の大幅増加
- 通年の純利益は9億8300万ドル(約1160億円)と過去最高を記録(通信部門の売却益3億3700万ドル(約400億円)含む)。前年は8900万ドル(約105億円)の赤字
- プロセッサーの出荷数は2650万個と、目標の2500万個をクリアー(第4四半期(10~12月期)は700万個出荷)
- フラッシュメモリーの売り上げが前年比で倍増(金額は未公表)
- キャッシュフローは13億ドル(約1500億円)になり、財務体質が堅固に
さらに吉沢氏は米国での決算発表後に行なわれた、経済アナリストとのカンファレンスで米国本社幹部が述べた2001年の予測についても明らかにした。
2001年の業績・製品見通し
- 2001年第1四半期(1~3月期)のプロセッサー出荷数見通しは600~650万個
- 第1四半期の終わりまでに、Athlonはすべて独ドレスデンのFab.30で、銅配線プロセス技術によって製造されるようになる。クロックはすべて1GHz超
- Athlonは第1四半期に1.3GHz、第2四半期に1.4~1.5GHz、後半には1.7GHz版を投入。2GHz以上のクロックは2002年にHammerファミリーで達成の予定
- Duronは第2四半期に900MHz超、第3四半期に1GHz版を投入
- 2001年末のクリスマス商戦モデルでは、DDRメモリープラットフォームが2~3割を占める
- SOI技術を使った0.13μmプロセス技術を第4四半期に導入
- 2001年設備投資は24%アップの10億ドル(約1180億円)、研究開発費は15%アップの7億4000万ドル(約880億円)の予定
今年前半にPalominoとMorganを投入
最後に同社のプロセッサーとチップセットのロードマップを公開した。注目は現行のAthlon(Thunderbird)の後継で、モバイル向けにも供給される新Athlon“Palomino(パロミノ)”のスケジュール第1四半期に発表する予定で、量産出荷も第1四半期となっている。スペックについては1.2GHz以上ということしか公開されていないが、2次キャッシュ強化あるいはマルチプロセッサー構成への最適化が予想される。現行Duronの後継となる“Morgan(モルガン)”は第2四半期に発表の予定。さらに、2002年には第8世代プロセッサーとする64bitプロセッサー“SledgeHammer(スレッジハマー)”“ClawHammer(クロウハマー)”や、Palomino後継の“Thoroughbred(サラブレッド)”、Morgan後継の“Appaloosa(アパルーサ)”が控えている。
コンピュテーション製品グループ マーケティング本部長のサム・ローガン氏 |
プロセッサーロードマップ |
チップセットロードマップ |
デスクトップ向けプロセッサーの位置づけ |
ノート向けプロセッサーの位置づけ |
日本AMD独自ベンチマーク『Ninja』
また、ローガン氏のプレゼンの終わりに、日本AMDが独自に作らせたというベンチマークテストプログラム『Ninja Bench』が初披露された。さまざまな3DグラフィックスをグラフィックスチップのハードウェアT&L機能(※1)を使わずに、プロセッサーの計算で表示させるもので、店頭での販促活動や、プレス向けに提供する予定のソフトウェア。世界のAMDでも初めての試みで、他の地域のAMDからの問い合わせも入っているという。
※1 T&L(トランスファー・アンド・ライトニング)。3D画像のレンダリングにおいてモデルの座標変換を“トランスファー”といい、照明のあたり具合の処理を“ライトニング”という。最近の高性能グラフィックスチップでは、この計算処理をハードウェアで行なう機能を備えている。『Ninja Bench』のスタート画面 |
今回はPentium 4-1.5GHzとAthlon-1.2GHz搭載マシンを使った比較デモが行なわれた。結果はAthlon-1.2GHzが上回るものであった。このプログラムは3Dゲームの開発を手がける(有)メディアジャグラーが制作したもの。いずれは一般ユーザーへの配布も検討しているとしている。
Ninja Benchの結果(Pentium 4-1.5GHz) |
Ninja Benchの結果(Athlon-1.2GHz) |
Ninja Benchの1シーン。Ninja Benchの名の通り、Ninjaがキャラクターとして登場するものが多い |
1GHzプロセッサーのインテルに先駆けての発表、Fab.30の順調な立ち上がり、新Athlon(Thunderbird)、Duron、DDRメモリー対応チップセットに絶好調のフラッシュメモリーと、2000年のAMDは良いことずくめでミスらしいものはなかった。一方のインテルは、普及がすすまないRAMBUSメモリー、MTH(RAMBUS対応チップセットにSDRAMを使用するためのハードウェア)、Pentium III-1.13GHzの回収騒ぎ、プロセッサー統合チップセット“Timna”の開発中止とさんざんで、やっと発表したPentium 4はまだ市場の人気を勝ち取るまでには至っていない。とはいえ、同じ17日(米国時間)に発表された決算では、AMDだけでなくインテルも過去最高の売上高を記録している。結果として、まだ両社には通年の売り上げで約8倍、純利益では約12倍の開きがあり、インテルの底力を見ることができる。
しかし、パソコンの米国市場における売り上げの鈍化などによる業績の悪化が取りざたされる中で、インテルがパソコンにおいてさらなる成長が難しいといわれる中で、AMDにはまだサーバーやノートなどのフォームファクターに向けた製品や、企業向けのマーケティングなど、まだまだ進出して伸びる余地が多い。かつては製品を発表しながら、思うように生産ができずに業績が伸びなかった時期もあったが、0.18μmプロセスやFab.30の順調な立ち上がりを見ると、もうその心配はなさそうだ。今年はクロック周波数ではPentium 4に比べて下回ることになるAthlonだが、Pentium 4よりも発熱が少ないことや、コストパフォーマンスのよさで順調にシェアを伸ばすだろう。Pentium IIIやCeleronの独壇場だった省スペースデスクトップへの採用を果たしたこともAMDの自信につながっている。さらにDuronも各パソコンメーカーの製品への採用が増えている。2001年もAMDにとって良い年になりそうだ。