携帯電話向け文字入力技術“T9(ティーナイン) Text Input”の開発を手がける、米テジックコミュニケーションズ社は26日、日本語版として初めての正式バージョンとなる『日本語版T9 バージョン4.2.1』を、携帯電話メーカーに向けて提供を開始したことを明らかにした。
テジックコミュニケーションズは'95年に設立された、米ワシントン州シアトルに本拠を置く企業で、'99年12月に米アメリカオンライン社(AOL)に買収されてAOL傘下となった。T9 Text Inputは、同社が身体障害者向けに開発した入力技術だったが、限られたキーを使って効率的に入力できることから、携帯情報端末や携帯電話向けの開発が進められたという。
『日本語版T9 バージョン4.2.1』による入力の例。1、3、2、0と入力して“あすきー”と表示させた(画面はパソコン上のエミュレーターによるもの) |
T9 Text Inputの特徴は、1つのキーに複数の文字を割り当て、キー入力を辞書と比較して正しい単語(の読み)となるよう変換する仕組みになっていること。日本の携帯電話では、1にア行、2にカ行、3にサ行といったように50音が0~9のキーに割り当てられている。例えば“あすきー”と入力しようとした場合、従来の入力方法では、1を1回(あ)、3を3回(す)、2を2回(き)、0を4回(ー)と、10回キーを押す必要がある。T9 Text Inputでは、1、3、2、0、と4回キーを押せばよい。もちろん、1つのキーに複数の文字が割り当てられているため、同じキーを押しても別の言葉(“いしかわ”など)が表示される場合もあるが、いくつかの候補が表示されそこから選ぶことによって、決定する。読みが決定した後は、従来の入力方式と同様、漢字変換を行なう仕組みだ。
“T9”は「Textを9つのキーで入力できる」ことから名付けられた。現在T9 Text Inputは、英語、イタリア語、オランダ語、スウェーデン語、スペイン語、デンマーク語、チェコ語、ドイツ語、ノルウェー語、フィンランド語、フランス語、ポーランド語、ポルトガル語、ギリシャ語、トルコ語、日本語、中国語、韓国語の18ヵ国語がサポートされている。ヨーロッパでは、ラテン系言語の広く普及しているほか(シェアについては非公開)、中国語版は中国において10キーによる公式の入力方法として認められているという。
英語版T9が搭載されている、フィンランドのBenefon社の携帯電話。液晶ディスプレーの左上に“T9”ロゴが見える |
テジックコミュニケーションズでは日本語版の開発を続けてきたが、今回のバージョン4.2.1で、確定した読みを学習し次回に優先読み候補として表示する機能や、1度に入力した読みを短い単語の読みに切り分ける機能、ユーザーが任意の単語を辞書登録・削除できる機能などを備えたため、4.2.1をもって日本語版正式バージョンとしたという。システム辞書の登録単語数は6万5000語で、必要なメモリーは対象となる端末への実装方法によるが、およそ1MB。この日本語版4.2.1を搭載した携帯電話は、2001年後半に数社から登場する見込みという。
テジックコミュニケーションズでは、日本では他の国々と比較して、電車など公共の交通機関が発達しており、かつ移動時間も長いこと、携帯電話でのメールが定着していることなどから、T9 Text Inputの大きな市場になると見込んでいる。
1つのキーに複数の文字を割り当ててキー入力回数を少なくする日本語入力方法は、富士通高見沢コンポーネント(株)、(株)富士通研究所、(株)しなの富士通が共同開発した“SH-Key”やミサワホーム(株)の“CUT Key”があるが、これらは専用のキーボードが必要であり、携帯電話側のキー配列などに影響を与えずに実装できるT9の意義は大きい。日本語版のT9採用を表明したメーカーはまだないが、英語版について日本メーカーでは松下通信工業(株)、日本電気(株)、(株)東芝、富士通、三菱電機(株)、ソニー(株)が海外向け携帯電話に採用しており、これらの企業のいずれかが日本語版を搭載した携帯電話を2001年後半に投入する見込み。また携帯電話以外では、セットトップボックスやテレビなどへ搭載される可能性もある。