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【連載コラム メディア呑氣堂】第19回 本日の出物――アウトサイダー建築・日本編

2000年10月16日 00時00分更新

文● Yuko Nexus6

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怪スポット佐和山遊園の一角。ヘンな面つきで塗装の剥げた馬像。後ろは馬上の石田三成像。他にも三成の生涯を描いた『石田三成公御一代絵巻』(の模写)など、何ともいえずイヤ~な気分にさせられる作品多数

世にアウトサイダーアートと呼ばれるものがございます。フランス語では“アール・ブリュット”。直訳しますれば“生(ナマ)の芸術”――精神病者、世捨て人、囚人、広くは正規の芸術教育を受けていない人々が作った作品をこのように申します。アウトサイダーアーティストによる絵画や彫刻には非常に衝撃的なものがございますが、当呑氣堂では2回にわたり東西の“アウトサイダー建築”として、わたくしが独断で選んだスポットをご紹介していこうと思います。さて第1回は本邦が誇る不思議空間へご案内いたしましょう。

珍日本的テーマパーク――大観音寺(三重県)

都築響一さんの『珍日本紀行』(アスペクト刊)をご存じでしょうか。日本全国のロードサイドに点在する珍建築、怪空間、探偵ナイトスクープ風に言うなら「パラダイス」なスポットを集めた興味深い写真集です。これでピンと来られない方には「温泉地にある秘法館とかさー、そういう謎な場所あるでしょ? 地元の人に『あんなものがうちの町にあって恥ずかしい』とか、嫌がられてるようなさー。そういうとこばっか集めてる本なの」

とご説明さしあげればおわかり頂けますでしょうか。

実はこの夏、このご本で大フィーチャーされております三重県榊原温泉の大観音寺に行ってまいったのです。いやー凄かった。シンボルの巨大観音像、カエル楽団、招き猫楽団、河童に天狗に撫でるとガン封じになるという怪物など、珍妙な造形物がお寺のあちこちに点在。どう見てもエロい裸体の弁天像などを冷やかしておりますと、コギャルスタイルの若い娘が神妙にお線香を上げています(水子供養!)。

や、あまりの頓狂さについはしゃいでしまいましたが、ここは紛うことなき信仰の場。と、いうより超お手軽サービス満点なお寺なんでございます。堂内には四国八十八ヶ所他、各霊場のミニチュア版がぎゅっと詰まっており、ひと巡りすれば巡礼一丁上がり!

「こんな簡単でいいの?」

と呆れるわたくし達に、次々とお薦めされるご利益グッズの数々。

「水晶のお数珠が、いまなら二千円ですよ」

愛想よく元気なご長寿ぞろいの従業員が次々と笑顔で話しかけてくれます。掃除は行き届き、働いている人々もやる気満々、ありとあらゆるご利益を象徴する見世物の数々――なんだ、ここディズニーランドじゃん。おじいちゃん、おばあちゃんのためのテーマパーク。いや若いカップルだってOK。世界最高(33m)という観音様の足元でお弁当でも広げれば、健康的かつご利益つきのデートになりそう。帰りには向かいにある『ルーブル彫刻美術館』にもぜひ立ち寄りたいもの。ここにはパリのルーブル美術館から正式に許可を得て作られた美術彫刻の数々がせいぞろい(全てレプリカ)。黒川紀章による建物も見逃せない!(本当)

この仰天スポットを地元出身の友人の案内で楽しんでまいったわけですが、彼女は実家のお母様に

「大観音寺? なんであんなとこ行くの? もっと案内してあげたらいい場所が他にあるでしょ」

と呆れられたとか。

しかし「呆れられる」程度ではすまず、地元の人々から、その場所の名を口にすることすら禁じられるようなスポットが、実はわたくしの住んでいる町にあるのです。

冗談じゃすまないスポット――佐和山遊園(滋賀県)

京都から関ヶ原方面に向かうJR琵琶湖線に乗り、約1時間。徳川幕府の重臣井伊家の居城が残る滋賀県彦根市に到着します。彦根駅で降りた貴方は、黄金に光り輝く建物を発見。

「金閣寺だ。でも金閣寺って京都にあるはずだよね?」

不思議に思った貴方は、人のよさそうな中年の女性に声をかけます。

「あれなんですか?」

女性の顔はさっと青ざめ、吐き捨てるような口調で

「あんなとこ行かんと国宝彦根城を見てくださいっ!」  

言うが早いが、足早に立ち去ってしまいました。

そう言われるとぜひ行ってみたくなるのが人情。貴方はタクシーを雇い、さっそく“金閣寺”を目指します。5分とかからずたどりついたそこは、国道8号線佐和山トンネルのすぐ手前。金閣寺だけでなく、五重塔、戦国時代の城郭、観音像に不動明王、四天王他、数々の仏像など、実に様々な物体が林立しています。そして目を凝らすまでもなく、すべてが模造品であること――石垣はコンクリート成型の張りぼて――に気づきます。いくつかの彫像は、明らかに素人の作。デッサンの狂った仏像や騎馬武者の顔に、なにか禍々しいものを感じて背筋が寒くなってきます。

傍らの日本建築には「歴史博物館 入場料1000円」の看板が。毒食わば皿までの気持ちで中に入った貴方は、すぐに後悔。埃っぽく淀んだ空気と照明もなく暗い室内に乱雑に置かれた武具甲冑や美術品(インチキ臭さ爆発!)を見ているうちに、いよいよ気分が悪くなってきました。奇妙にゆがんだビーナス像のようなもの。掛け軸として表装されているにも関らず、なぜかポスターカラーで撲るように描かれた日本画の模写、その他その他。血の気がうせ、腹具合までおかしくなってきた貴方は、とうとうたまらなくなり、転がるように「博物館」から逃げ出す……。

以上はフィクションではありません。彦根市内に現存する『佐和山遊園』の模様です。「財団法人佐和山三成会」を名乗る個人、というかかなり偏屈そう? な老人が一人でこつこつと手作りした空間(たまに奥さん? が手伝っている)。日本史に詳しい方なら“佐和山”、“三成”と聞いてピンとこられるでしょうが、豊臣秀吉の寵臣であった石田三成に捧げられた庭園なのです。

石田三成といえば、歴史劇ではたいてい“悪者”ということになっていまして、今年の大河ドラマ『葵 徳川三代』では、江守徹が三成役を怪演。4年前の『秀吉』(竹中直人主演)では真田広幸が、いかにも悪な美貌の家臣・三成を演じていました。

歴史に翻弄され不当な評価を受けつづけている石田三成公の霊を慰めるために建造されたという佐和山遊園。三成の居城であった佐和山城跡近くの山肌に、彼と彼の眷族を滅ぼした憎っくき徳川方・井伊の城を睨み付けるがごとく建っている佐和山城(のレプリカ)。くしくも今年は関ヶ原の合戦400周年、しかも10月1日は京都三条河原で斬首された三成の四百回忌。鎮魂の苑にわだかまる何とも言えない無気味さは、三成の怨念なのか!?(どうも違うような気がする)

佐和山遊園は現在進行形で常にリニューアルされている施設です。しばらく見ないでいると仏像の数や新しい建物(鐘つき堂など)が増えている。にもかかわらず、なんとも荒廃した投げやりな空気が漂っているのです。石畳やセメント、看板はひび割れ、ペンキやメッキははがれ、雑草は伸び放題……。

「キてるね~」

などと軽口を叩く輩を、じわじわと絞め上げ黙らせてしまうようなマイナスパワーが漲っているのであります。そう、あのスティーヴン・キングであれば放っておかないようなロケーション。

ちなみにこの佐和山遊園は『珍日本紀行』には載っておりません(初出である週刊SPA! での連載では取り上げられたかもしれませんが)。「ぜひ行ってみたい」という方はお止めしませんが、ご注意ください。

いかに珍妙であっても「お客様へのサービス」を忘れないユーモアいっぱいの大観音寺に比べ、訪れた者を徹底的に不快にさせる恐るべきパワーを持った佐和山遊園の方がアウトサイダーアートっぽいような気がします。それは芸術的な価値だとか、作品としての良し悪しでは毛頭なく、作者の石田三成への愛が得体の知れない妄想の域にまで濃縮されているがゆえに。そしてはかり知れない熱情が、あくまでズサンに結実しているがゆえに……。

Yuko Nexus6プロフィール

ライター&Mac音楽家。滋賀県彦根市在住。'95年に翔泳社から出版された著作『サイバーキッチンミュージック』(絶版)は、Macintoshを使った"カンタン音楽制作"のバイブルとして一部で有名。'99年にはヲノサトル・プロデュースによるCD『NEKO-SAN KILL! KILL!』(KACA0085)をカエルカフェからリリース。Web絵本『かえるさんレイクサイド』 ではイラストを担当……など、おとぼけ路線の活動を主体に地方都市でのんびり暮らしている

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