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JASRAC、音楽電子透かし技術評価プロジェクトの結果発表

2000年10月07日 02時28分更新

文● 編集部 佐々木千之

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(社)日本音楽著作権協会(JASRAC)は6日、6月に発表した音楽電子透かし技術の国際評価プロジェクト“STEP2000”(※1)の評価作業が終了したとして、評価要件を満たす技術を持つ認定企業5社を発表した。

※1 STEP2000:“by Society, Technical Evaluation for Promotiong practical utilization of digital watermark”の意。

STEP2000は、デジタル音楽流通に事業者が電子透かし技術を利用する際に、その技術選択の指針となるよう、商品化された実績を持つことを条件に、世界中の企業から電子透かし技術の募集を行なったもの。JASRACおよび、著作権管理団体の国際組織であるCISAC(※2)とBIEM(※3)が主催し、各国の著作権管理団体が後援して実施された。技術評価にあたっては(株)野村総合研究所(NRI)に事務局を委託した。

※2 著作者作曲者協会国際連合(シサック)“Confederation Internationale des Societes d'Auteurs Compositeurs”。

※3 国際レコード著作権協会事務局(ビーム)“Bureau International de l'Edition Mecanique”。

STEP2000の評価結果について報告した、野村総研ナレッジソリューション部門事業企画室副主任コンサルタント、STEP2000事務局の松尾秀城氏

6月15日に募集を開始、7月14日に応募締め切り、8月14日に課題提出締め切り、9月14日に評価実験終了というスケジュールで行なわれ、透かし技術を持つ企業から多数の問い合わせ、応募がなされた。最終的な評価作業を行なう段階まで進んだのは10数社としている。具体的な応募数は、応募した企業に対して、不利益になる可能性があるという方針により公開されていない。

認定企業5社

最終的に“デジタル音楽流通に関わる事業者への利用の推奨が可能な技術を保有すると認定した企業”として発表されたのは以下の5社(表記順は技術の優劣とは無関係)。

  • IBM社
  • 韓国のMarkAny社
  • 日本ビクター(株)
  • 英Signum社
  • 米Blue Spike社

IBMを除く4社に対しては、利用に際して音質、フォーマット変更などについての透かし耐性のチューニングバランス調整を求めるなどの条件が提示されている。電子透かし技術においては、フォーマット変更などへの耐性と、音質の良さはトレードオフの関係にある。しかし、STEP2000の評価にあたって各企業にチューニングの機会を与えていないため、チューニングすることで、十分要件を満たすことができると考えられる技術についても認定を与えたため、という。

STEP2000の評価内容

電子透かし技術の評価にあたっては、

  1. 耐性:音楽利用のためのさまざまな処理を行なっても透かしデータが抽出できる
  2. 音質:透かしデータが入れられた音楽を、非常に耳の良い評価者が聴いても、データが入っていないものと区別できない

という点に留意された。音楽に挿入された電子透かしデータは、コピー管理情報(CCI)(※4)として15秒の音楽に2bit、著作権管理情報(CMI)(※5)として30秒以内に72bitのデータを挿入することとしている。

※4 Copy Control Information

※5 Copyright Management Information

テストに使用したの音楽は、WAVフォーマット(ステレオ、44.1kHz/16bitサンプリング)でCD-Rに記録された、ポップス2曲、クラシック1曲、特殊音響曲(邦楽とパーカッション)2曲の計5曲。

耐性テストでは、デジタル形式からアナログ形式に変換し、それをまたデジタル形式に戻すD/A-A/D変換、ステレオ形式をモノラル形式に変換するチャンネル数変更、44.1kHz/16bitサンプリングを16kHz/16bitに変更するダウンサンプリング、44.1kHz/16bitを44.1kHz/8bitに変更する振幅圧縮、曲時間やピッチの変更、MP3/AAC/ATRAC/ATRAC3/Real Audio/Windows Media Audioの各フォーマットへの変更、FM/AM/PCMの各変調による放送、-40dB(デシベル)のホワイトノイズ追加についてテストされた。

耐性テストの結果について、CCI、CMIのいずれも優れた結果を示す企業(技術)があり、音質テストの結果と合わせてみても、電子透かし技術は研究段階から実利用段階へ入ったと総括している。

音質テストでは、ある曲ごとに、透かしが入ったことが示されているもの(A)、透かしが入っていないことが示されているもの(B)、透かしが入っているかどうか不明なもの(X)が用意され、被験者はABを交互に2階ずつ聴いて、その後にXを聴き、XがA、Bのいずれかを判断するという“ABXテスト”を行なった。偶然による正解を防ぐため1曲についてこのテストを5回ずつ実施し、5回とも正解となった場合に、透かし挿入が検知されたとした。被験者はレコーディング業界で、非常に優れた聴覚をもつ“Golden Ear”“Silver Ear”(※6)と呼ばれるような人物のうちから、レコーディングエンジニア、マスタリングエンジニア、シンセサイザーマニピュレーター、オーディオ評論家4人ずつ16人を選出して行なったという。

※6 非常に“耳がいい”人を指すレコード業界の用語。厳密な定義はなく、GoldenとSilverの差も曖昧であるという。このように呼ばれるような人物は、例えばある特定の機械をつかって録音した、というようなことが音を聞くだけでわかるという。

音質テストの結果については、多くの被験者にデータ挿入が検知されない技術がいくつか見られ、周波数分析などにおいても優れた結果であったとしている。

JASRAC常任理事の加藤衛氏

JASRACでは、今回の結果をCISACとBIEMに送り、11月1日にJASRACを含めた代表者会議を開いて電子透かし技術に対する今後の対応を検討するとしている。また、STEP2000のような評価プロジェクトは「1回のみで終わらせるのでなく、少なくともあと2回程度は行ないたい」(JASRACの加藤衛常任理事)という。

電子透かし技術については、全米レコード工業会(RIAA)が中心となって組織する団体SDMI(Secure Digital Music Initiative)のSDMI標準がすでにある。しかし、SDMI標準は米国の著作権事情にそって決められているため、各国著作権団体の事情に合わない部分もあるという。JASRACは「STEP2000の評価の目的は、いずれか1つの技術、企業を決めるものではない。それは著作権団体のする事ではない」(加藤常務理事)とし「仮に著作権管理の技術が100使われるようになれば、100すべてに対応していく」という立場をとっている。一般消費者としては、STEP2000のような評価プロジェクトを通じて優れた技術が見いだされ、結果として普及が促進されて、早く広く利用できるようになることを期待したい。

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