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TIの研究開発戦略発表会に、あのジャック・キルビー氏が登場!

2000年09月29日 04時16分更新

文● 編集部 井上猛雄

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日本テキサス・インスツルメンツ(株)は28日、都内のホテルにおいて同社の研究開発に関する戦略記者発表会を開催した。米国本社の顧問であり、ICを発明したことで有名なジャック・キルビー氏と、上席副社長兼研究開発担当ディレクターの西義雄氏が登壇した。

「最初の1歩は、池に石を投げるようなものだ」(ジャック・キルビー氏)

“キルビー特許”で知られるジャック・キルビー氏は、'58年に世界で初めてICを発明し、現在の半導体産業の礎を築いた“半導体の父”といえる存在。キルビー氏のシンプルなアイデアから波及した効果が、現在のIT革命にまでつながっていった。

ジャック・キルビー氏。'50年、ウィスコンシン大学電子工学部修士号取得後、グローブ・ユニオン社を経て、'58年にTI社に入社、同年には世界初のICを開発した

「最初の1歩は、池に石を投げるようなものだ」と、自身の発明を例えたキルビー氏だが、「ICがこれほど発達するものだとは思っていなかった」と開発当時のことを回想した。実際に、その道のりは長く険しかった。当初はこういった技術革新が人々の職を奪うものであるとも言われ、多くの人達はICの量産化に懐疑的であった。実際に歩留まりも10%程度と悪いものだったいう。

しかし、時とともに製造コストを下げるための技術もどんどん進歩していった。これには日本が大きく貢献した。キルビー氏は「この業界は常に変化している。ユーザーも常に新しい技術を求めており、たくさんの励ましの言葉をもらった」と語り、氏を支えた多くの人々に感謝の意を表わした。

最後に、「ICから始まり、現在はマイクロプロセッサー、DSPまで急速な勢いで進んできた集積技術だが、このテクノロジーの波はこれからも限りなく続き、終わりがどこにあるのか分からない」とその可能性について述べ、スピーチを終えた。

キルビー特許。キルビー氏が発明した世界初のICは、今世紀最大の発明とまで言われている
写真は20世紀に米国でなされた偉業や人物を称える記念切手“Celebrate the Century”。'60年代を記念する出来事として、キルビー氏が発明したICが記念切手に連ねられている

“リソースの集中化”、“得意分野への特化”、“相互補完的なパートナーシップ”

続いて登壇した西義雄氏は、同社の研究開発の戦略について説明した。

上席副社長兼研究開発担当ディレクターの西義雄氏。東芝、HPなどを経て、'95年に米TIに入社。'96年、TI半導体グループ上席副社長に就任

同社は'96年から大幅なリストラを進め、たくさんの企業の買収売却を繰り返しながら事業の再編を行なってきた。今年に入ってからもオペアンプで有名なバーブラウンなどを買収している。成長分野であるDSP分野とアナログ/ミックスドシグナル分野に的を絞ることにより、この2つの分野での'99年の半導体売上構成比率は59%を占めるまでに至っている。

同社では今後、シリコンCMOSテクノロジーが主流になるということと、テクノロジー・ドライバーがDSPやシステムLSIに移行していくと分析をしているが、そのための研究開発費は年を追うごとに増大している。また、市場投入時間や量産時のウェハーコストも市場の勝敗を分ける鍵と考えている。こういった課題に対して、開発費を抑えながら、いかに効率良くシリコンテクノロジーの開発を進めていくかがポイントになると予測、解決策を探ってきた。

具体的には“リソースの集中化”、“得意分野への特化”、“相互補完的なパートナーシップ”を結ぶことで、これらの問題を解決した。たとえばその1例として“キルビーセンター”の設立がある。この研究所は'97年にダラスに開設したもので、5000平方メートル以上のクリーンルームを持つ大規模な研究施設である。

通常の研究所では、研究、開発と製品化する現場、製造現場が分離している。しかし、これでは研究したコンセプトを証明することができないばかりでなく、製造が可能かどうかといった実証もできない。このセンターでは、生産拠点に近い環境に研究開発者を集めることで、開発サイクルの短縮化や量産への円滑な技術移転を可能とした。

また、近年のテクノロジーの進歩は非常に急進的なため、1社単独ではすべてをカバーすることが困難になりつつある。そのため、シリコンを超える新素材の研究など、共闘できる分野では大学や業界パートナーと協力し、分散型のバーチャルな研究を実現した。

ナノエレクトロニクス、量子効果デバイスなどの基礎分野では大学や国立研究機関と手を組み、0.1ミクロン未満のリソグラフィー技術やデバイス物理学などでは業界と組んで開発期間を短縮化する。過去のテクノロジーや共通化できるような技術については他企業と積極的にアライアンスを組んでいき、研究、開発、製造のサイクルをつくった。

こういったことで、0.25ミクロンプロセスにおいて量産までにかかった約5年の開発期間を、現在の0.13ミクロンプロセスでは約2年半ほどに短縮できるようになったという。また、18ヵ月ごとに新しいプロセス技術を導入できるようにもなった。

最後に西氏は今後の戦略として、2000年中に0.15ミクロンプロセスで一億個のDSPを供給することや、第2四半期までに0.13ミクロンプロセス銅配線技術によるDSPの出荷を開始すること(すでに開始しつつある)、その量産を2001年第2四半期に開始する計画があることを明らかにした。また、茨城県の美浦工場にあるウェハー製造ラインを200ミリに転換し、2001年の第1四半期には300ミリに移行していくと説明し、発表を終えた。

キルビー特許の有効期限が切れても全く問題はない

最後の質疑応答では、キルビー氏に対し、「日本の半導体産業のポテンシャルが落ちているように思われるが、これについてどう考えるか?」、「キルビー特許の有効期限がもうすぐ切れるが、収益源を失うことで影響はないのか」といった質問が飛び出した。

日本の半導体産業の衰退に関しては、「市場が何十年も変わらないというのは間違い」と釘を刺した上で、「10年後には70年代、80年代と同じような状況になるとは限らないが、挽回はできるだろう」と述べた。そして、「論理的に考えれば、日本はコンシューマー製品を対象にしたほうが得策かと思われるが、ユーザーのニーズに従いながら方向性を決めていくべき」とアドバイスをした。

また、キルビーと特許の期限切れの問題に対しては、「今後、キルビー特許のような基本的な特許が出てくる可能性は小さいだろうが、さまざまな研究開発を通して重要な特許がまだまだたくさん生まれてくると思う」と述べ、それほどTIにとって重大なことではないと、特許切れの問題を払拭した。

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