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【INTERVIEW】今、なぜ、“おニャン子クラブ”の音楽配信?

2000年09月27日 22時41分更新

文● インタビュー/WEB企画室 根岸智之、構成・文/同 伊藤咲子

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'87年9月20日のファイナルコンサートから13年、“おニャン子クラブ”の歌声がインターネットで蘇る――。今日27日より、(株)ソニー・ミュージックエンタテインメント(SME)(株)ポニーキャニオンのウェブサイトにおいて、合計14曲の有料音楽配信サービスが始まった。価格は1曲300円~368円(※1)で、なかには『バレンタイン・キッス』や『セーラー服を脱がさないで』など、ファンならずとも親しんだ曲も。

今回編集部では、SMEの有料音楽配信サービス“bitmusic”を担当するプロデューサー加納糾(おさむ)氏と、渡辺満里奈の元担当で、旧譜担当セクション“GT music”の現チーフという山下鉄男氏に、なぜ今“おニャン子”なのか、旧譜配信サービスの概況と併せて訊いた。

※1 SMEが1曲300(税込)、ポニーキャニオンが1曲350円(税込368円)

SMEは、『バレンタイン・キッス』(国生さゆりwithおニャン子クラブ)や、『マリーナの夏』(渡辺満里奈)など9曲を配信する
ポニーキャニオンは、『セーラー服を脱がさないで』(おニャン子クラブ)や、『MUGO・ん…色っぽい』(工藤静香)など6曲を配信。9月20日発売の新アルバムに収められた、ユーロバージョンもあるぞ(c)Pony Canyon Inc.
今回配信される楽曲の一覧。『涙の茉莉花LOVE』から『ホワイトラビットからのメッセージ』までがSME、『SERAFUKU O NUGASANAIDE』から『くちびるから媚薬』までがポニーキャニオン

大物歌手のダウンロード数が伸びなかったワケ

SMEが“bitmusic”で旧譜の配信を始めたのは、今年5月のこと'99年末の新譜販売より遅れること約5ヵ月、“思い出の名曲の有料配信サービス「bitmusic GT」”の名称でスタートした。9月27日現在で、“おニャン子”を除き、15人のアーティストによる46曲が販売されている。

[編集部] 今年5月から始まった旧譜販売について、ユーザーの反応はどうですか
[加納氏] 「今年5月、旧譜と洋楽の配信を同時に開始したのですが、旧譜の第1弾は『17才』など南沙織の3曲でした。南沙織の初日の売上は、2位の平井堅を引き離し、全タイトルの中でダントツ1位でした。割合で見ると、その日トータルの12パーセントです(※2)」

「正直に言って、もしこれで人気が出なかったら今後の“bitmusic GT”の活動に支障が出ると思い、自分でもダウンロードしたほどでした。ところが、そんなことをする必要がないくらい良い結果が出て、ビックリしたというのが本音です」

「それから、続く太田裕美や、渡辺真知子も驚く数字を出しました。そこで、旧譜がこれだけきているならと、ある大物アーティストを期待をしてやったら、ガクーッと――」」
※2 5月10日の総ダウンロード数は約500。1曲単位でのダウンロード数は公表していない

[編集部] 旧譜の配信は、人気アーティストであればダウンロード数が伸びるというわけでもないと
[加納氏] 「なぜかと理由を考えたのですが、この大物アーティストの場合、ベスト版のCDが毎年のように出ているからではないかと分析しました。ファンから見れば、デジタル音源が身近にあるので、わざわざインターネットで買う必要がないでしょう」

「旧譜の売れ筋の傾向として、ドーナツ盤レコードの時代のアーティストが人気を集めています。アナログのレコードは持っていても、プレーヤーがないとか、針がないとか、実家の蔵に眠っているとか――、“今すぐ聞こうと思っても、ちょっと聞けないような曲”です」
会員番号8、国生さゆり。解散後も芸能活動を続け、この秋は舞台に初チャレンジという

ドーナツ盤を大量に売った昭和最後のアイドル

[編集部] '80年代後半に活躍した“おニャン子”は、“bitmusic GT”におけるヒットの法則に当てはまるということですか
[加納氏] 「“おニャン子”の最盛期は、CDがまだ普及していませんでしたし、まだシングルCDがなかった。ドーナツ盤レコードを大量に売った昭和最後のアイドルです」

「もう1つ、なぜ今“おニャン子”なのかと言えば、“bitmusic”ユーザーにとって、“おニャン子”がストライクゾーンだと考えたからです。今現在の“bitmusic”ユーザーは、世代別に見ると25才~45才が約65パーセントを占め、性別で見ると男性が85パーセントと、圧倒的多数です」

「こうしたデータから、一番ハマるかなと考えました。ベストコレクションCDが各社連動で出ているんですが、“おニャン子”の最盛期のファンは、今は仕事で忙しくてCDショップに足を運んでいないという世代です。今回、ポニーキャニオンも同時に配信を始めますから、商品もアピールして盛り上げたいと思います」 --“おニャン子”は、当時150億円市場と言われていたと記憶しています。僕もその世代ですが、郷愁と言いますか、今手元にないものをもう一回確認したいという思いはあります」
[加納氏] 「丸山(SME代表取締役の丸山茂雄氏)がよく言っているのですが、(その人にとって)青春時代に吸収した音楽を超えるものは、それ以降ないと。多感な時代に聞いていた音楽を、大事に、良い形でとって置きたいという気持ちはあるでしょう」
会員番号36、渡辺満里奈。CBS・ソニーやポニーキャニオンなどと契約したメンバーが多い中、EPIC・ソニーと契約。「彼女をEPICでやるということは、彼女にEPICの“匂い”があるわけです」(山下氏)。今回配信する『深呼吸して』は、当時の人気バンド“LOOK”の山本はるきち氏が作曲している。名作と名高い『大好きなシャツ』は、フリッパーズギターの小山田圭悟と小沢健二が「レノン&マッカートニー状態で」(同)作ったもの

“時流の音”に再マスタリング

[編集部] “おニャン子”に限らず、昔だったら日本中歩き回って探していたような楽曲を、インターネットを使って自宅で簡単に手に入るというのは、ファンにとって嬉しいことです
[加納氏] 「現在“bitmusic”全体で約300曲を用意していますが、これが数千曲になれば楽しいでしょうね」

「配信用にファイルを作るのは、大変な作業です。CDから落としても音質に問題がないのかもしれませんが、レコーディングスタジオで作業をしているので、どうしても時間がかかります。そのぶん手間が掛かるのですが、“bitmusic”の価格はCDの価格から割り出したものですから、CDに近い品質でユーザーに届けたいというのが、我々のスタンスです」
[編集部] 多くの旧譜は、既にデジタル化されているのですか
[山下氏] 「いえ、デジタル化されていない楽曲のほうが多いです」

「レコード会社のビジネスは、大きく別けて2つです。新譜と旧譜。旧譜という括りでは、10年前の曲も、20年前の曲も、30年前の曲もみなそうですから、膨大な数になります。世に出た曲もあれば、なかには、アーティストが残していったそうでない曲もあります」
[加納氏] 「アナログテープを30年ぶりにかけたら、テープとテープがひっ付いていたりとか、カビが生えていたりとか、そういうのを全部きれいにするところから、デジタル化の作業が始まります。SMEの場合、マスターテープがないということは、まず、ありません」
[編集部] ちなみに、もし、そのマスターがない場合はどうするのですか
[山下氏] 「そういう場合は“レコードおこし”という作業を行ないます。レコードを持っている人を探して、レコードをかけて、コンピューターでマスタリングします」
[編集部] では逆に、マスターがデジタルで残っているものはそのまま使うのですか
[山下氏] 「そういう場合は、デジタルtoデジタルで、再マスタリングします。マスタリング専門のエンジニアが、“ロー”とか“キック”とか“ハイ”とか、再度調節を行ないます」
[編集部] 同じ曲でも、昔より音が良くなっているのですか
[加納氏] 「いや、良いとか悪いとかではなく、時流の音にするということです」
[山下氏] 「これは、センス的な要素です。ハイファイがもてはやされた時代もあれば、ローファイがもてはやされた時期もある。そういったことによって、エンジニアやディレクターの意思が反映されます」
会員番号12、河合その子。作曲家の後藤次利氏と、'94年4月に結婚

ユーザーリクエストで実現する企画も

[編集部] 今回配信される曲以外で、聞いてみたい“おニャン子”の曲もたくさんあるのですが
[加納氏] 「“bitmusic”は、1人のアーティストを深追いしないという方針で運営しています。それよりも今は、薄く広く、様々なジャンルを配信したいと思います。ロック特集とか、冬になると出てくるアーティスト特集とか――。またこの秋から、旧譜に関してユーザーリクエストの受け付けを開始しました。こういう企画によって、マニアックな音楽ファンを引き寄せればと思います」
[編集部] リクエストどのくらい集まったら実現させますか
[加納氏] 「数もそうですが、ユーザーアンケートに書き込まれた“思い”と、我々の企画の方向性が一致した時ですね。これだけ書いてくれたら実現しないわけにはいかないな――ということもあるでしょう」
[編集部] パソコンを持っていないファンに対するサービスは考えていますか
[加納氏] 「今回配信する曲は、'97年7月発売の『CD選書』シリーズからピックアップしました。パソコンを持っていない人はそちらをよろしくお願いします」
[編集部] “おニャン子”の目標ダウンロード数を教えてください
[加納氏] 「我々の予想があたったら、公表します」

「本当は今頃、全体で1日1000ダウンロードとか、目指していたんですけど。当初、“bitmusic”は新人アーティストの販促に良いシステムかなと思ったのですが、いざ蓋をあけてみると、ベストテンはCDの人気と連動したヒット曲で、11位から以下は旧譜ものでした。当初狙った新人アーティストは、微動だにせずという状態です」

「我々の品揃えにも問題があるとは思うのですが、“bitmusic”の利用ユーザーというのは、パソコンユーザーというかCDショップに足をあまり運ばない層が大半で、いわゆる“音楽ファン”はまだ少ないです。音楽にあまり関心がない層にとって、楽曲データは一種のデスクトップアクセサリーみたいなもので、1台のパソコンにそう多くの曲はいらないようです」

「音楽を購入してくださる方の受け皿が広がることは、非常に嬉しいことです。しかし、そういった層だけだと、商売に限界があることも確かです。幸い、ケーブルテレビを使ったインターネットユーザーが急激に増えていたりとか、年内にADSLが東京都と大阪でほぼ完備されるという状況があります。ダウンロード時間が早くなるということ売りにして、今年秋からは“今は音楽と言うのはこういった形態でやるのがカッコいいんですよ”といった部分を前面に出していきます」
最後に、今回インタビューに応じてくれた加納氏(左)と山下氏(右)。手前にズラっと並ぶのはSMEから発売中の“おニャン子”クラブのアルバムだ

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