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【アルス・エレクトロニカ・フェスティバル2000 Vol.6】ミレニアムの夜を包んだ光のスペクタクル“ベクトリアル・エレベーション”

2000年09月22日 20時57分更新

文● 岡田智博 coolstates.com

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ゴールデン・ニカ(大賞)を受賞した“光のスペクタクル”

“ベクトリアル・エレベーション”の模様(その1)

メキシコシティーの中心部にある巨大なゾカロ広場。かつてそこは、古の帝国のピラミッドが聳え立っていた聖なる場所であった。しかし、そのピラミッドはスペインからの入植者の手によって崩され、今は巨大なカトリックの教会と、市役所、そしてホテルで取り囲まれている。最近では、デモの集会に頻繁に使われるなど、メキシコの首都を象徴する場所となっている。

'99年大晦日、巨大なサーチライトによって、広場の天空に古のピラミッドの姿が光によって蘇った。メキシコシティーの千年紀を超える記念プロジェクトのひとつ“ベクトリアル・エレベーション”の幕開けである。程無くして、光の群れは新しいパターンを刻み始めた――ある子供がつぶやく。

「この光、誰かがコントロールしているってパパから聞いたよ。えーと、インターネットとか使って……」

“ベクトリアル・エレベーション”の模様(その2)

'99年12月26日から年明けの1月6日まで毎晩催された光のスペクタクル。このイベントは、メキシコシティーの人々を奮い立たせたばかりでなく、同時にインターネットを通じて誰もが光の群れのパターンを設計できる参加型プロジェクトの一例としても有名になった。

そして、この“ベクトリアル・エレベーション”の成功が、今年のプリ・アルス・エレクトロニカでインタラクティブ・アート部門ゴールデン・ニカ(大賞)という授与をもたらしたのだ。サイバーアート展の会期中、この壮大なスペクタクルを演出したラファエル・ロザノ-ヘマー氏の手によって、その舞台裏が明らかにされた。

サイバーアート展ではライティングプラン案や、実際に投稿され投影されたパターンの写真が展示された

89ヵ国、メキシコの全地方より、70万以上のビジターがアクセス

建築と電子メディアを用いたアートプロジェクトを展開し続けてきた、メキシコシティー生まれのヘマー氏のもとに、メキシコ政府の1000年紀終了記念イベントの依頼が舞い込んできたのは'98年のこと。それがこのプロジェクトのきっかけであった。

複雑な歴史的背景を抱えるメキシコのアイデンティティーを“ゾカロ広場”に反映させようと考えたヘマー氏。彼はサーチライトの光を使って、葬り去られたピラミッドを蘇らせようとした。

15キロの遠方より見ることのできる光のスペクタクル構想。それは今まで多くあった、光のスペクタクルが放つ“エンターテインメントの陶酔感”を誘うだけのものではない。メキシコに在る誰もが共有できるような、光のデザインメソッドを考案したのだ。3DJavaを利用したクリッカブルなシミュレーション。多数のスポットライトを自由にデザインできるコントロールパネルだ。

多数のスポットライトを自由にデザインできるコントロールパネル

6秒間ごとに持ち場が巡るパターンを設計できるサイト。ここに、89ヵ国、メキシコの全地方より、70万以上のビジターがアクセスした。パターン設計に成功した場合には、設計案の3Dイメージとともに、実際の点燈の模様を撮影したカメラ画像や、設計者のメッセージが添えられた独自のWebページが生成される。それは、その場に居なくても見届けることができる。また、今でもプロジェクトのサイトにアクセスすれば、それぞれのイメージとメッセージを楽しめるようになっている(下記urlを参照)。

このために、各地の美術館や図書館などにインターネットを結び、アクセスできる無料端末も設置した。メキシコ国内からのアクセスは70%を示した。その中には独立運動を展開するサバティスタの関係者も数多く含まれていたという。そして、残された多くのコメント(ほとんどがポジティブなもの、ネガティブなものはその出費への疑問に集中したのみ)に、このプロジェクトのもたらした成果が現われている。

受賞記念ファーラムで、投稿を読み上げるラファエル・ロザノ-ヘマー氏(右)

「わが国からのテクノロジーについて誇れるようになりました」、「政府もやっと気の利いたお金の使い方ができるようになりましたね」、「美しい2000年の幕開けをありがとう」などなど、現実に見て美しく、仮想空間でも楽しめ、あらゆるかたちで参加できる、あらゆる存在を包み込むインタラクティブアートのかたちが誕生したのだ。

筆者の手によるヨーロッパのパブリックなサイバースペースとメディア・アートに関するレポートがここでも読めます

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