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【アルス・エレクトロニカ・フェスティバル2000 Vol.5】ペインティングロボット“グラフィティーライター”

2000年09月18日 18時50分更新

文● 岡田智博 coolstates.com

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世界最大の電子メディアアートの総合コンテスト“プリ・アスル・エレクトロニカ”。そこに集った作品の中で、佳作から大賞まで選りすぐりの作品が“サイバーアート展”というかたちで17日まで展示された。その中から注目を集めていた作品やプロジェクトを紹介していきたい。

虐げられた運動家にはロボットが必要だ!

場所は米国の東海岸、理工系が強いことで知られる某学園都市。その近隣にある酒場のテーブルでは、いつも学生や研究者たちが集まり、テクノロジーの可能性について熱い議論が交わされている。その議論の中に「ハイテクノロジーは国家や大企業、エンタテインメント産業だけに独占されていていいのか!」と、ひときわ盛り上がっているグループがあった。

「そんなことは無い、ハイテクは誰もに開放されるべきものだ」

「じゃあ、どうする」

「テクロノジーをアクティビズムに使おう」

「!!!」

こんな盛り上がりの勢いで、'98年に彼らは応用自律研究所(The Institute for Applied Autonomy)を秘密結社として設立した。そして、彼らが開発したアクティビズム用のロボティックマシーンの第二弾“グラフィティーライター”が、今回のサイバーアート展において、インタラクティブ部門のディスティンクションを受賞したのだ。

リモートコントロールでセーフゾーンで回収できる(応用自律研究所のビデオプレゼンテーションより)

応用自律研究所の“秘密”会議――「アクティビストをするのも大変なんだよね。デモをしてもみんなフレンドリーじゃなくなってきたし……」、「じゃあ、大衆にコミュニケーションをとってもらえるようなロボットを作ろう、ロボットは子供も好きだし」

そこで生まれたのが第一弾の“リトルブラザー”だった。

どうやったらビラをもらってくれるのか? その解決策を徹底的に調査した。その結果、キュートなものに人は弱いという結論を導き出した。そして、キュートなロボットを作ろうという結論に辿り着いて、製作に着手。“一体、何がキュートなロボットなのか?”という研究を、今までのSFのイメージや日本のアニメーションなどから分析して、その結果として生まれたのが“リトルブラザー”だという。

キュートな仕草でビラを配る“リトルブラザー”(応用自律研究所のビデオプレゼンテーションより)

大きくて真ん丸な目が特徴の、“ロボコン”を髣髴させる“キュート”なロボット。声と電子音で道行く者にビラを取ってくれるようにせがむ姿は、“野暮ったい風貌”の活動家が配るそれよりも絶大な成功をもたらした。

「今まで取り込むことができなかった子供やお年寄りからの関心を得られるようになった」。メンバーのひとりはその成果を誇る。「よく働くのに数時間にわたって自律的に動作を続けてくれる。キュートなので排除もされず、我々の予想以上の成功を収めた」

アクティビストの代わりにスローガンを描くロボット

次なるマシーンの開発に向けて目をつけたのは、アクティビズムの活動リスクの軽減。デモンストレーションの基礎であるスローガンのペインティング。実はこういった活動は公共物を破損する行為とみなされてしまい、逮捕や暴力を被るリスクと隣り合わせにある。こういったリスクを軽減するためのロボットを開発しようということで生まれたのが“グラフィティーライター”だ。

“グラフィティーライター”はラジコンカーほどの大きさに5本のスプレーを充填、時速15キロで事前に登録した文章を瞬く間にペインティングするというもの。製作には6ヵ月かけたという。'98年以来、アメリカ、そしてヨーロッパ各地で200回のデモンストレーションを実施したが、一度も捕まったことがないとの話。

「犯罪者だから顔を出さないように……」。“グラフィティーライター”の実演を見せてくれた応用自律研究所のメンバー
“グラフィティーライター”のメッセージを分析。インスピレーション49% パーソナル11% ポリティカル38%(サイバーアートの展示より)

この“グラフィティーライター”、“リトルブラザー”同様に、ロボットの持つコミュニケーション機能が、ある種の効果を果たすケースもあるという。それは、ロボットそのものの関心から観衆が積極的にこういった“遠隔軽犯罪体験”を楽しんで参加するようになるという効果である。過去のデモンストレーションの多くの回で、関心を持った観衆が実際に“グラフィティーライター”を自発的に操縦してしまうというのだ。

「誰も不法ではない」。“グラフィティーライター”によって書かれた不法移民擁護のスローガンが突如プリ・アルス・エレクトロニカ賞のセレモニー会場であるオーストリア公営放送リンツ放送局の玄関にも登場

「今まで、道路作業員に、ホームレス、それに警察官に、ガールスカウトたちまで、男女問わず5歳から74歳までの人がこの行為に参加したのさ。こんなこと、普通の運動系のデモンストレーションにはないだろう」と同メンバー。

これらのマシーンは応用自律研究所自身の運動のために使われるのではなく、研究所に支援を求めるアクティビストからの要請に基づいて派遣されている。

今回のプリ・アルス・エレクトロニカの応募に対しては「研究所の秘密会議の際に、こんなのもあるけど、という話になって、じゃあ応募してみるか」という気軽なものであったという。

現在、応用自律研究所が手掛けているプロジェクトは、第3弾になる“ストリートライター”の開発。“ストリートライター”は、クルマにスプレー装置を設置し、高速ドライブで巨大スローガンを書き込むもの。“グラフィティーライター”の巨大版である。“ストリートライター”によって、スキャニングしたイメージの書き込みすら実現しようとしており、「これで漢字が書けるようになるから日本でも中国でも効果的なものができそうだ。ぜひやってみたいものだね」と、これからの抱負を同メンバーは語るのであった。

 

筆者の手によるヨーロッパのパブリックなサイバースペースとメディアアートに関するレポートがここでも読めます

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