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【HCDP2000展Vol.5】デジタルとアナログを結ぶ“結節点”としての地域社会

2000年09月13日 17時32分更新

文● 若菜麻里

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本稿では、(財)世田谷区コミュニティ振興交流財団が主催する“HCDP2000展”のテーマシンポジウム2“地域コミュニティにおける協働のデザイン”の模様について報告する。地域活動を行なっている、片桐常雄氏(建築士)、岸祐司氏(秋津コミュニティ会長)、西部忠氏(北海道大学助教授)、森川千鶴氏(月刊『多摩ガイド』編集長)の4氏をスピーカーに迎え、コミュニティーの観点から様々な議論が交わされた。モデレーターは、前日のテーマシンポジウムと同様、ジャーナリストの渡辺保史氏。

ディスカッションの模様

地域活性の主役はITでなくてやはり“人”

渡辺「地域社会は、それぞれが等身大のサイズで暮らす生活圏。コミュニティーの崩壊や変質が叫ばれているが、その一方で、新しくコミュニティーを再生する試みも増えている。コミュニティーをデザインすることは、人間を中心としたデザインをするためには欠かせない視点だ。では、皆さんの活動紹介からどうぞ」

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ジャーナリストの渡辺保史氏。前日に引き続き、司会進行を務めた

片桐「藤沢市、大和市、世田谷区それぞれを対象に、ホームページの電子会議室などを通して、まちづくりの活動を行なっている。電子会議室の特徴は、今晩のおかずのレシピや、自然環境、バリアフリーなどについて、そんなに構えずに、気軽に書き込めること。電子会議室の内容を紙媒体にして、レシピなどを配ったりしている。藤沢市を流れる引地川がダイオキシンで汚染されているという新聞報道があったときは、朝から昼までに近所に住む人たちから約60件の書き込みがあった」

「電子掲示板は、意見を集めるときは協働作業だが、その意見をまとめる段になると、ひとりが最初から最後まで発言を全部チェックして、切り張りしてまとめていくという作業になる。このまとめの作業は従来と変わらない。ぜひ誰か、電子掲示板の意見を集約するプログラムみたいなものを開発してほしい」

建築士でもある片桐常雄氏

森川「多摩ニュータウンの開発は約30年前。したがって住民の高齢化が進んでいる。また“多摩そごう”の撤退により、センター機能が落ちている。そんな中で、団地の住民が中心となってNPOを組織し、住宅管理支援などの活動を行なっている。三宅島から一時非難してきた人たちを多摩エリアの公営住宅が受け入れているので、この人たちに何か支援ができないかというのが、最近のメーリングリストでの話題だ」

月刊『多摩ガイド』編集長の森川千鶴氏

岸「千葉県習志野市で、市立秋津小学校を拠点に、地域コミュニティーや生涯学習の充実ために活動している。秋津は、今年で出来上がってから20年という新しい町で、人口は7500人、2400戸だ。少子化で子供が減ったこともあり、小学校の使っていない教室を地域のサークル活動に利用している。小学生と、地域の親たち、おじいちゃん、おばあちゃんが交流する場として、小学校がうまく機能しており、この3年間、不登校児はゼロだ」

千葉県習志野市で地域活動を展開する、秋津コミュニティ会長の岸祐司氏

地域貨幣でコミュニティーの活性化を

西部「エコノミストとして、地域通貨“LETS”(Local Exchange Trading System)の可能性を研究している。'80年から'97年まで、経済企画庁が発表した新国民生活指標(豊かさ指標)を見ると、'90年代のバブル崩壊による経済活動の低下は、コミュニティーの衰退に大きく関わっていることが分かる。資本のグローバリゼーションの結果、コミュニティーが衰退した。それならば、グローバルマネーに対し、特定の地域でしか通用しないお金、“コミュニティーマネー”を作れば、地域の人をつなげていく媒体としてお金が機能するのではないか、というのが地域通貨の発想だ。そのようにしてLETSは'80年代にカナダで始まった試みだ。地域通貨は、日本でも最近、雨後の筍のように増えてきて、おそらく50ヵ所くらいで実験中だと思う」

北海道大学助教授の西部忠氏。今後、地域通貨は雨後の筍のように増える

森川「私達は“COMO(コモ)”という地域通貨を約60人の間で試験中だ。まずはお金と交換に、COMOを入手する。そして、例えば誰かにビデオ録画をお願いしたいとき、ビデオ代は実費で払い、手間賃はCOMOで払う。また留守中にペットを預かってもらい、えさ代は実費で、お礼はCOMOで払うといった利用をしている。三宅島の人たちにもCOMOを利用してもらい、COMOと交換に車のピックアップサービスを提供できないか、といった話が仲間内で出ている。これなら施しではなく、対等のコミュニケーションが成り立つ」

西部「地域通貨には、(COMOのような)紙幣式と、LETSのような通帳式がある。紙幣型は、どれだけの紙幣を発行するか決める必要がある。通帳式はバーチャルなものなので、ゼロから出発、買い物をすれば赤字になる。参加者全員の残高、その赤字と黒字を合計するとゼロになる仕組みだ。通帳式は今後望ましい方式と考えられるが、人間はどこかで手に触れるものを求めているのか、それとも進化する途上なのか、完全に地域社会に落とし込めない部分がある。地域というものは、泥臭さを残すものなのだろうか」

岸「利便性と非利便性は置き換えられるかもしれない。おばあちゃんたちの大正琴のサークルでは、クーラーのない教室で窓を開けて練習をしていた。その音色が授業中の子供たちの耳に届く。今日はコミュニティールームで何をやっているのだろうと、子供たちは不思議がって、休み時間に覗きに来る。そうやって子供たちの相手をしているうちに、血圧が安定して薬を飲まなくてよくなったというお年寄りもいる。これが、冷房が効いた公民館で練習をしていたら、そんなことは起こらない」

渡辺「皆さんのお話をまとめると、地域社会において、デジタルとフィジカル(あるいはアナログ)には、つなぎ目というか、結節点が存在するようだ。それは、学校だったり、電子会議室だったり、あるいは新たに作る必要もあるかもしれない。全てデジタル化するのか、アナログ部分を残すのかという問題はあるが、デジタル化されたコミュニティーの知識の集積を編集するためには、ツールがあれば便利で、それ以上に人が大切であると言えそうだ」

21世紀は障害に配慮したデザインが当たり前に

11日には、テーマシンポジウム3“情報環境からみた福祉・介護”がディスカッション形式で行なわれた。情報テクノロジーに限らず、福祉や介護のあり方について幅広く議論が交わされた。以下に各パネリストの発言をかいつまんで紹介する。

立教大学教授の高橋紘士氏は、「21世紀、日本は未踏の高齢化社会を経験する。厚生省の調べでは、人は死ぬまでの間に平均で約8ヵ月間、誰かにケアしてもらう期間がある。これまで福祉とは、“恵まれない人に手を差し伸べる”という発想だった。新しく施行した社会福祉法では、福祉サービスを必要とする人は“地域社会を構成する一員として”、それを受けられるように、としており、今後は、あらゆる人たちがハンディキャップを共有する世の中になるだろう」と説明した。

立教大学教授の高橋紘士。あらゆる人たちがハンディキャップを共有する時代に

バリアフリーなどに関する事業を進める(株)ユーディットの代表取締役、関根千佳氏は、「統計的に、インターネットやiモードのユーザーは20~30代が中心とされているが、インターネットの株式売買では、40代、50代のユーザーが中心だ。つまり、関心のあるサービスがあれば、インターネットを利用したいというユーザーは年代に関わらず多い。パソコンは、高齢者や障害者にも使いやすくなることが必須。高齢化社会を迎えるにあたり、メーカーはその人たちをターゲットに物作りをしなければ生き延びられないだろう」と、ユニバーサルデザインやバリアフリーが当たり前の時代になると主張した。

ユーディットの代表取締役、関根千佳氏。ユニバーサルデザインやバリアフリーが当たり前になるという

World Wide Web Consortium(W3C)の中根雅文氏は、「障害者が支障なく利用できるWebページについて、その仕様の検討やガイドラインの策定、啓蒙活動、ツールの開発などを行なっている。例えば、パソコンで音声読み上げを利用する視覚障害者にとって、ホームページで画像が不用意に利用されていると、そこに何の情報が入っているのか理解できない。そのへんをよく配慮しているのが、Yahoo!のトップページなどだ(ただし、アメリカの方は問題が少ないが、Yahoo! Japanは非常に利用しにくい)。悪い例はたくさんあるが、IBMが運営しているシドニーオリンピックの公式サイトも、障害者への配慮がなされていない。オーストラリアでは障害者のアクセシビリティーを保護する法律があるので、それの違反ということで、裁判ざたになっている。長野オリンピックのときも、ページの作りは似たようなものだったが、日本ではアクセシビリティーに関する法整備がされてないので、IBMにお願いはしたものの、強制力はなかった」と、コンテンツ面での課題を示した。

World Wide Web Consortium(W3C)の中根雅文氏

世田谷区政策経営部情報政策課長の西澤和夫氏は、「ここ2~3年、ユニバーサルデザインやバリアフリーに関する活動をしてきた。いろいろな業者が、居間やトイレや寝室で利用する様々な情報機器をそれぞれ提案してきた。それら全部をお年寄りの家に入れたら、機器だらけになってしまう。こうした情報機器は、高齢者の生活をトータルにとらえた視点で考えることが大切だ」と語った。

世田谷区政策経営部情報政策課長の西澤和夫氏。高齢者の生活をトータルにとらえた情報機器を

龍谷大学教授の生田正幸氏は、「8月に京都で起こったことだが、脳梗塞で倒れ、言葉が不自由になったひとり暮らしの男性から119番通報があったにも関わらず、いたずら電話と判断して3日間放置したという事件があった。介護福祉では、情報を提供するという面でもまだまだ解決するべき課題が多いが、そのほかに介護を受ける側の情報を共有するということも重要だ」としている。

龍谷大学教授の生田正幸氏。介護を受ける側の情報共有も重要

この一連のテーマシンポジウムは、知恵の流通、地域コミュニティー、福祉・介護をテーマに3回連続で開催された。共通のテーマは、情報、そして人間中心のデザインという、21世紀に向けた2大キーワードだ。のべ15人のスピーカーおよび、参加者にとって、今後新しい価値を創造するための有意義な出会いの場が3日間を通して形成された。

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