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伝統・商売・国際性を生かした連携を!“ベンチャー2000 KANSAI”(その3)

2000年09月07日 16時57分更新

文● 服部貴美子 kimiko@oct.zaq.ne.jp

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ベンチャー企業の育成と振興を目的にしたイベント“ベンチャー2000 KANSAI”が9月4日、5日の2日間にわたり、大阪国際会議場にて開催された。ITなどをテーマにした各種シンポジウムとセミナーが行なわれ、2日間の参加者は延べ約2万6000人に達した。

本稿では、プログラム2日目に開催されたシンポジウム“京・阪・神の企業モデルはこれだ”と題したシンポジウムについてレポートする。司会は、日本経済新聞社大阪編集局担当部長の下舞浩氏。

官主導の産業構造には、オリジナリティーで対抗

関西のGDPは、いまや2割を切り約16%。特に工業製品においては名古屋にも抜かれるという深刻な状況にまで落ち込んでしまった。なぜ関西はこのような辛い状態になったのか?

堀場製作所の堀場雅夫会長は、「分析の必要もない。東京一極集中だから」とバッサリ断言し、「つまりは官主導で動いているということ。だから、政治・行政とかかわりのもてる東京へと、本社を移していく企業が多い」と分析した。

さらに「ビルの高さや大きさをみても、東京に予算が落ちているのが分かる。政治力の強いところに資金がまわっているだけ」という、エンゼル証券・細川信義社長の意見に対しても「京都は高い建物などないが元気だ。それは、日本的かつ世界的に誇れる文化やテクノロジーをもっているから。人まねは恥だと感じる気持ち、本物か偽物かを見極める能力がある、そうした価値観が京都の強さ」と自信たっぷり。

著書“イヤならやめろ!”の勢いそのままに、「ベンチャーを知らんヤツが法律を作るな!」など、支援策への批判を述べた堀場氏。'24年生まれという年齢を感じさせない論客ぶりに、場内からも思わず拍手がわきあがる場面もしばしば

産学連携やTLOへの取り組みを活発にせよ!

たしかに、京都には清水焼の技巧がセラミックに、写真転写の技術がICに、カルタの文化がゲームへと、昔からの伝統技術・文化をベースに、リスクの少ない状態で発展してきた産業が多い。一方で、大阪大学副学長の城野政弘氏が語るように「大阪工業大学など、もともとは国が作ったというよりも、地元の求めでできた、地域とつながりの深い学校があるにもかかわらず、いわゆる産学連携による知的集積の利用が十分に機能していない」という現実も否めない。

神戸では、震災復興の動きも重なって、さまざまなプロジェクトが行なわれている。財団法人新産業創造研究機構(NIRO)の松井繁朋氏は、神戸市内の経常利益上位10社のうち、4社が海外からの進出企業であることを紹介し、「港町神戸のもつ国際感覚を生かしつつ、地域特有の産業――酒・シューズ・ファッションなどの分野を生かすべき。海・空港・ハイウェイといった発達した交通網も活用できるだろう」と述べた。

また、特許取得(とくにバイオサイエンス分野)に大学の論文が数多く参照されている点を指摘した上で、「現在、米国の景気がいいのは、20年ほど前に大学に政府に投資したことも原因になっている」と分析。NIROが2000年春からスタートさせたTLOでも、この5月~7月のわずか3ヵ月間で40件の特許案が出され、すでに7件が申請にこぎつけたという実績を紹介した。

松井氏(左)が専務理事を務める“NIRO”には、昨年だけで県内外の企業、500社近くから問い合わせがあった。右は細川氏

城野氏も、“ソシオ大阪”など、大学のシーズをわかりやすく見せるためのネットワーク作りへの努力や、大阪版TLOの構想について図表を使って説明したところ、堀場氏が「絵を描くのはうまいが、心から産学連携に取り組もうと思っている人は2割程度。国立大学は、学問や経済、産業の創出を目的とした大学だが、税金の使い方を間違っている」と一喝。

官が行なう支援策についても、「ITとか創業3年までだとか、間違っている。関西のいいところは、マーケットオリエンティッド。人まねでは2流にしかなれない」と批判し、伝統文化や第一次産業に対する施策の遅れが、ベンチャーを“七転八起”ではなく、“一転アウト”という状況に追い込んだと指摘。「いわゆる“タニマチ”のいた関西だからこそ、ベンチャーを応援するシステムができるのでは……」と期待を寄せた。

TLOへ取り組みは、大学の教官にとって仕事の本業ではないだけに「窓口やコーディネーターの人選、運営が問題点だ」と城野氏は語った

伝統・商売・国際性――3都市の特徴を生かした連携を!

子供の頃から、商売の難しさや面白さを体得できる大阪、国際色豊かでハイカラなイメージがブランドにもなっている神戸、数々の伝統文化がいきづく京都――3つの都市が、それぞれの得意分野を伸ばすような役割分担をしてタッグを組めば、関西の復興も夢ではない。

「そのキッカケとなるのは、やはり大学。社会で役にたつ人間を育てるという信念を忘れることなく、自由競争にさらさらるべき」と堀場氏が語ると、細川氏は「支援策は出揃ってきたが、プレーヤーは誰かが問題。インキュベーションセンターを使いやすい立地に、使いやすい時間に機能するように作るよう努力してもらいたい」と付け加えた。

城野氏は「知的資産を生かすこと」、松井氏は「成功のシナリオをかくために、いろいろな人と会って交流すること」を強調し、堀場氏が「マスコミや金融に踊らされて、金儲けのためにベンチャーを目指すのではなく、自己実現のために頑張れる人であってほしい」と、ベンチャースピリッツについて語って、討論を締めくくった。

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