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JPNIC、危機管理をテーマに“JPNIC Summer Forum 2000”を開催

2000年09月01日 11時06分更新

文● 若菜麻里

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(社)日本ネットワークインフォメーションセンター(JPNIC)は8月25日、セミナー“JPNIC Summer Forum 2000”を都内で開催した。テーマは、“人とインターネットの関わりにおける新課題~危機に備える~”。

JPNICは、インターネットのIPアドレスやドメイン名の割り当て業務のほか、インターネットの普及と啓発のための活動を行なう団体だ。インターネットの利用者が2000万人を超える中で、まだまだ意識が低いとされている危機管理の話題を取り上げたという。

基調講演では、郵政省通信総合研究所の通信システム部非常時通信研究室室長の大野浩之氏が危機管理の全般的な動向を紹介した。また明治大学法学部教授で弁護士の夏井高人氏は、ネットワーク社会における法や倫理について語った。以下、2者の講演の要旨をまとめて報告する。

今後の課題はサマータイム制度と2038年問題

大野氏は、“危機管理のフレームワークについて”と題して講演。日本政府の危機管理としては、今年1月末に起こった省庁のホームページ改ざん事件以降、各省庁ともネットワークセキュリティーを大幅に改善したことを報告した。

大野浩之氏。「本来的には、危機は突発するものであり、管理できるものではない。また文書主義や先例尊重、形式重視の社会は、危機への対応が難しい。日本の場合、縦割りの行政機構が問題だ」

また、あらかじめ予測される危機の例として、西暦2000年(Y2K)問題のほか、サマータイム制度が実施された場合に伴うコンピューターシステムの時間プログラム、UNIXシステムの2038年問題の3つを挙げた。

Y2Kでは、「非常に多くの人がバグ修正にあたり、また'99年の年末から年始にかけて万一に備えて社内にスタンバイするなどしたため、大きな問題は起こらなかった」と評価した。その一方で、「Y2Kは世界規模の問題だったので国際協力も可能だったが、サマータイム制度の方は日本だけの問題なので、今度こそコンピューターによる混乱があるかもしれない」と話した。

サマータイム制度は、日の出時刻が早まる夏の時期に、時計の針を1時間進めるというもの。夏時間から冬時間へ、また冬時間から夏時間への移行日は、都合上、1日が23時間や25時間になる。

「サマータイムを導入済みの諸外国ではそれを考慮して、コンピューター内部 の計算処理にはすべて世界標準時を使い、最終的に表示や印刷をするときに現 地時間に変更するようになっている。ところが日本国内向けのアプリケーションは、内部の計算処理に日本標準時を使い、これは世界標準時に9時間足したものという前提で動いているのが現状。これを修正しないと、1日に1時間あたり何件の処理をしたかというようなプログラムに影響する」として、「来年からサマータイム制を導入すると、いきなり国会で決まったりすると、コンピューター業界は対応に大変だ」と説明した。

「2038年問題というのは、UNIX系OSのY2Kのようなものだ。現在一般的な32ビッ トベースのUNIXでは、表現できる日付が1971年1月1日から2038年1月19日まで という、システム的な制限があるため問題が発生する(※1)」

※1 これは、UNIXが内部時間を1971年1月1日0:00からの経過秒数で表現しており、これを32ビットの符号付整数でカウントすると2038年1月19日でオーバーフローするため。64ビットベースのUNIXになると64ビットの符号なし整数でカウ ントするだろうから、この場合は概算で584542046090年カウントできることになる

「今日ここにいる皆さんの中には、その頃にはもうプログラマーを引退しているから関係ないと思っている人がいるかもしれない。しかし、Y2K対応では、スキルや人手不足により、引退したCOBOLプログラマーを臨時で雇った。同じように、2038年問題では、皆さんが年老いた頃に修正プログラム作成依頼が来るかもしれない。システムの開発に携わる人は、将来の危機をなるべく回避するための行動を今からとるべき」とアドバイスした。

一方、米政府は、ネットワークセキュリティーは今後の重要な問題と認識し、ネットワークにおける危機を次の4つに分類しているという。

(1)単独のクラッカーによるネットワークへの攻撃
(2)組織によるネットワークへの攻撃
(3)外国の反米組織によるネットワークへの攻撃
(4)複数の国家がインターネットで攻撃を仕掛けてくる“情報戦争”

米国では、ハリケーンや地震など、非軍事的な不測の事態に対応するため、FEMA(Federal Emergency Management Agency)という組織がある。しかしサイバーテロなどインターネットにおける危機管理は、FEMAの範囲外という考えが強いため、新たに組織を設立する動きがあることも紹介した。

最後に大野氏は、「インターネットで音楽配信はできても、110番する仕組みは今のところない。既存のメディアを乗り越えてインターネットが発展するためには、緊急通信の枠組みについて今後考えていく必要があるのではないか」として、講演を締めくくった。

ネット社会の倫理問題は実社会のそれと本質的に同じ

夏井氏は、“ネットワーク社会と法とルール”というタイトルで講演。夏井氏は、インターネットにおける知的財産権やコンピューター犯罪、電子商取引、プライバシーなどを対象としたサイバー法の研究で有名だが、今回は、サイバー法に関しては、「ホームページを参照してほしい」と述べるにとどまった。

夏井高人氏。「日本が昔、数百の藩という国家に分かれていたことが現代の感覚では妙なのと同様、ネット社会の将来は、国の存在自体がヘンな時代になるのかもしれない」

インターネット上では、顧客名簿など個人のプライバシー流出や、不正コピーなどの問題に加えて、国境を意識せずに電子商取引が行なわれるため、どのエリアのルールが適用されるのかという課題がある。

「自分が正しいと考える価値観やルールだけをそれぞれが主張していたら、戦争が引き起こされ、強い国のルールが適用されることになる。21世紀は和睦のための努力が必要だ」と夏井氏は訴えた。

またインターネットの普及により、「特別な技術を持たない人でも、ネット上で商売や詐欺ができるようになった。ネットではすべての種類の欲望が渦巻いている」としながらも、「欲望は人間の本質。ネットは人間社会を反映するため、現実社会で解決できない問題は、ネット上にも持ち込まれている」と、ネット社会が実社会の延長線上にあることを強調した。

ネットストーカーへの法的な処罰に関する会場からの質問については、「ネットにおける表現行為をストーカー行為と判断し処罰するのは難しい」と回答。また、「小説家やジャーナリストのように、(不特定多数に対する表現方法を)訓練されているわけでない、一般の人が、ネット上に表現物を公開するというのは、それだけたいへんなことだという認識が必要だ。場合によっては、何万通の抗議のメールが来ることも覚悟しなければならない」と語った。「例えば、満員の通勤電車に乗らなければ、痴漢に会うことはない。ネットもそれと同じで、そういう場所に身をおいているんだ、という心構えを持つこと。悪い人もいるが、いい人の方が多いのだから」。

「人間は現実社会でどのように和睦するのか。それがネット上での和睦にもつながるだろう。問題を解決したと思って“ドア”を開けたら、その先にもドアがずっと続いていた、という状況だが、未来に向けて今ある問題を片付けていく姿勢が大切だ」と、夏井氏はまとめた。

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