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【Seybold San Francisco 2000 Vol.4】eBook、Web出版、印刷のリーダーを目指すアドビ社が強力な製品戦略を発表

2000年08月30日 06時29分更新

文● 林信行

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米時間8月28日、アドビ社は翌日から開催するSeybold Seminar会場の近くのホテルで記者会見を行なった。出版、広告、Webデザインに関わる多くのユーザーにとって最大の関心事は新発表の『Photoshop 6』だろうが、アドビにとってはこれはおまけの発表に過ぎなかったようだ。

新発表のPhotoshop 6の目玉は強化されたレイヤー機能、スライス機能、ベクターグラフィックス機能、そして先週バージョン5が発表されたばかりの『GoLive』との連係機能の強化だ。新Photoshopは米国では9月に発売予定で、パッケージ版とアップグレード版の双方にGoLive! 5のお試し版が付属し連係機能が試せるようになる予定だ。このお試し版はすべての機能が使えるフルスペック版で30日間の試用後、気に入れば99ドルで製品版にアップグレードできる。

Photoshop 6の新強化

Web関連のグラフィック機能を大幅に強化した新Photoshopは日本を含む米国以外の国での発売は今年第4四半期(10月~12月)に発売される予定だ。

さて、冒頭でも触れたが、アドビ社にとってはPhotoshopの発表はただのおまけに過ぎなかった。アドビ社が今回の記者会見で一番伝えたかったメッセージは、同社が今後もWeb、印刷、eBookという3つの分野でリーダーシップを保ち続けると言うことだ。アドビ社社長のブルース・チゼン氏はこのリーダーシップが同社の技術革新と他社との幅広く深いパートナーシップによって実現すると力説した。今回の会見では実に10社近くの会社との提携、投資、そして買収に関する発表があった。

アドビ社社長のブルース・チゼン氏

eBook:作成から流津、販売まで通した一貫した戦略

まず、アドビ社がこれから一番力を注ぐのがeBook戦略だ。アドビで“ePaper Solution Group”を率いる社長のJoe Schbach(ジョー・エシュバック)氏は、これまでの紙を使った本の世界では既に多くの本が絶版となってしまっていることや流通、在庫管理が難しいことなどを例にあげ、eBook市場の重要性を説いた。アドビ社のeBook戦略で中核をなすのは、もちろん、PDFフォーマットである。このPDFフォーマットを使ったeBook戦略には Microsoft Readerにはない、次のアドバンテージがある。

・著作権情報の管理を含むセキュリティー機能
・著作者が許せばPDFならではの非常に高い品質での印刷が可能なこと

今回はeBook関連技術(つまりPDF)に関する新発表は特に行なわれなかったが、eBookの流通や購入、閲覧を可能にする技術を持つ米Glassbook社の買収が発表された。Glassbook社はWindows用の電子書籍(e-book)用ソフトを開発する会社で、同社の製品は出版社、販売者、そして図書館の間でシームレスな連携を実現している点が大きな特徴となってった。オープンでプラットフォームを選ばない製品展開を狙うアドビ社は、このGlassbook社の製品にいずれMac版も提供する予定だ。

流通そのものの上でも重要なパートナーシップが発表された。全米に支店を持つ大手書店チェーンのBarnes & Noble(バーンズ&ノーブルズ)社、デジタルコンテンツサービスプロバイダーのiUniverse社との提携だ。Barnes & Nobles社は、新設の電子書店、eBookStoreでGlassbook Reader形式のeBookの発売を強化する。

一方のiUniverseは顧客や企業により安価で迅速なeBookの出版/流通手段を提供する。

提携した企業の一覧。今回の会見では実に10社近くの会社との提携、投資、買収に関する発表があった

Web出版:ワイヤレス通信と3Dが鍵を握る

一方のWeb出版の分野では、今回発表になったPhotoshop 6.0をはじめIllustrator、LiveMotion、Premiere、After EffectといったソフトがWebページを飾るさまざまなビジュアル情報の制作やデザインを可能にし、GoLiveがこれをWebページにまとめあげることを手助けする。

アドビ社はさらに、Web業界での新しいトレンドとしてワイヤレスWebと3Dをあげ、これらの新トレンドに対しても積極的に取り組んでいることをアピールした。

ワイヤレスWeb関係では、先週、GoLive 5でのiモード向けオーサリングへの対応を発表したばかりだったが、今回はワイヤレス機器用のWebページを制作するWAP/WML技術を策定する委員会への参加も正式に発表。またGoLiveでAvantGo社のサービスに対応したコンテンツを作成する機能を追加した。AvantGoは米国で無線通信機能搭載のPalm OS機器にコンテンツ配信サービスを行なっている会社だ。AvantGo対応は日本でのiモード対応同様にGoLiveのSDKを通して対応が実現する。

AvantGoとの提携。同社は無線通信機能搭載のPalm OS機器向けにコンテンツ配信サービスを行なう

一方、3D技術では、既に発表されていたMetaStream社への投資が最終段階を迎えたことを発表した。これに伴い、アドビ社は旧MetaCreations社が開発していた『Canoma』と『Carrara』の両製品と技術を手に入れることになる。CanomaはPhotoshopで作成された2Dのイメージを3D化する製品、一方のCarraraはモデリングからレンダリングまでの一連の3D制作の機能を持つ製品だ。

MetaStream社への投資が最終段階に

さらにアドビ社はW3C勧告の“Scalable Vector Graphics”(SVG)を積極的に採用し、表現力の高い3Dコンテンツの表示を可能にするMetaStreamの技術を今後の同社製品で積極的に採用していく方針だ。

会見ではMetaStreamの技術を使った3Dデモやアドビ社が開発中の未来の3D技術のデモンストレーションが行われた(内容は先週、日本の“Ride On Web”というイベントで行なわれたものとほぼ同じだった)。

MetaStreamの技術を使った3Dデモ
開発中の未来の3D技術のデモンストレーション(写真上下)

今回の会見でアドビ社はGoLiveを使ったeコマースサイトの実現を簡単にするためにAllaire、Blueworld、WebTrends、Manna、BeFreeといった会社とのパートナーシップも発表した。

Allarie(アレア)社はeコマースサイト用のコンテンツ管理を手助けするソリューションを提供している会社、一方、Blueworldはデータベース上の情報をWebページを使って出版する技術を提供している。WebTrendsはWebサイトへのアクセスを詳細に分析する製品を提供しており、Mannaは顧客の趣向にあわせてWebページをパーソナライズするための技術を提供している。そしてBeFreeはWebページを使った正確な製品マーケティングを可能にする技術を保有している。

これらのパートナーシップによって、GoLiveはWebページ利用者を徹底的に分析した上で顧客の趣向にあわせたページデザイン、広告、情報(データーベースからの)をあしらったページの提供が可能になり、これがeコマースサイト構築の上での大きなアドバンテージになるというのがアドビ社のいわんとするところである。

印刷:出版のワークフローを円滑にする『InScope』を発表

一方、印刷の分野に関しても新製品の発表があった。出版会社向けの製品で、より効率的なワークフローの構築とアセット(写真や記事などのさまざまなリソース)管理のための機能も備えた『Adobe InScope』という製品だ。出版業界の業務形態が大きく異なる日本での発売は今のところ未定だが、米国では既にTIME社が導入を発表している。

『Adobe InScope』。日本での発売は今のところ未定

アドビ社の印刷関連の戦略ではPhotoshop、Illustratorといった画像作成ソフトと、DTPソフトのInDesignの組み合わせが中核をなしており、InDesignの日本語版は予定通り来年早期にも発売される予定だ。

アドビ社の製品的は非常に多岐にわたっており、そのパートナーシップもかなり幅広いものとなった。だが、これらすべての製品とサービスが目指す目標はただ1つ。より優れたコミュニケーションの実現であり、アドビ社はそれを実現する上での最高の製品とサービスを提供していると自負している。今回の記者会見ではこうしたアドビ社の全製品とパートナー企業の製品、サービスで採用される新しいロゴマーク“Clearly Adobe Imaging”も発表された。

これは言って見ればアドビ技術を採用した製品を囲い込むためのものであり、このロゴマークをついた製品、サービスを利用すれば、(アドビ社が描く世界最高水準と考える)eBook、Web、印刷の出版技術が利用できると言うことをユーザーに示すためのものだ。

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