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GPSで捉えたヨットレースを、3D映像でリアルタイムに再現--ニュージーランドVirtual Spectator社

1999年11月29日 00時00分更新

文● アイティーズNZ 磯村敏郎

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GPSを利用したヨットレース観戦ソフト

第30回目を迎えた今回のアメリカズカップ参加艇数は12艇。各国とも世界最新鋭のハイテクヨットと、高度なセーリングスキルを持つセイラー達を引っ提げてレースに挑む。そして、世界中のファンが注目し、数々のドラマを生み出す。それが現在ニュージーランドのオークランドで開催されているヨットレース、ルイヴィトンカップ、そしてアメリカズカップである。

※第30回アメリカズカップは、10月18日から2000年2月13日までの日程で(予備日含む)、オークランド沖のハウラキ湾で開催されている。


今大会の開催地となっているオークランドは、愛称“CITY OF SAILS”(帆の街)の名の通り非常にヨットが盛んな街。また“マリンテクノロジーのシリコンバレー”とも呼ばれるように、造船・ヨットデザイン・防水ウェアなどの開発技術力とノウハウは世界のマリン業界を常にリードしている。

そんな環境の中で各シンジケートのメンバーが絶賛し、ヨットファンを歓喜させているソフトが、ニュージーランドで産まれた。それが『Virtual Spectator』(バーチャルスペクテイター)である。開発元は、ソフト名と同じ名前のVirtual Spectator社。対応OSはWindows 95/98/NTで、価格は69.95米ドル(約7300円)となっている。

『Virtual Spectator』
『Virtual Spectator』



ワンクリックで広がるアメリカズカップの楽しみ方

このソフトをインストールしてインターネットに接続すると、GPSによって得られた情報により、レース中の2艇の様子が3Dアニメーションで画面中央に表示される。刻々と変化するレース状況を知るには、画面左サイドで風の方向(コンパスによって表示)や強さ、それにボートスピードや進行方向を確認できる。また、画面の右サイドでは2艇の位置関係を確認することができたり、実況解説がテキストとなって流れるようになっている。

レース中にある2艇の位置関係を、上空からの視点で確認することができる。航跡も表示されるところに、単なるテレビ中継との違いがある
レース中にある2艇の位置関係を、上空からの視点で確認することができる。航跡も表示されるところに、単なるテレビ中継との違いがある



嬉しい機能として、6つのカメラアングルから好みのアングルを選択できたりもする。その他、現在の天候情報や今見たシーンをもう一度、という要望にも再生機能が答えてくれる。また、レース中にリアルタイムでの情報を得ながら楽しめる以外に、ルールを解説した3Dアニメーションがあったり、各シンジケートの情報や過去のルイヴィトンカップの映像まで見ることができるので、レースのない時でも十分に楽しむことができる。



カメラ位置を横にしたり(上)、風上側にする(下)ことがリアルタイムで可能。カメラ位置もいきなり切り替わるのではなく、カメラが移動していくかのように滑らかに切り替わる。マシンパワーがあればヨットのディテールを細かく表示でき、セールに印刷されているロゴまで見分けられる
カメラ位置を横にしたり(上)、風上側にする(下)ことがリアルタイムで可能。カメラ位置もいきなり切り替わるのではなく、カメラが移動していくかのように滑らかに切り替わる。マシンパワーがあればヨットのディテールを細かく表示でき、セールに印刷されているロゴまで見分けられる



ここまで多くの機能を搭載した“Virtual Spectator”では、これら一連の情報がマウスボタンのワンクリックで瞬時に呼び出せる、まさしくライブ・インターネット・チャンネルと呼べるものである。

接続環境の充実で一般ユーザーも利用可能に

この“Virtual Spectator”の開発経緯や現在進行中のプロジェクトプランなどを、同社の会長であるLindsay Fergusson(リンゼー・ファーガソン)氏に伺った。同氏はまた、アメリカズカップビレッジの管理委員長、ニュージーランド中央銀行総裁でもある。

--『Virtual Spectator』開発の経緯と、Virtual Spectator社についてお聞かせください。

ファーガソン氏 「まず、“Virtual Spectator”は、世界最先端の技術力と知識、ノウハウを結集して開発されたものであるといえるでしょう。なぜなら、このシステム開発に不可欠な要素として、GPS利用のインターネットアプリケーション開発、デジタルディスクの制作、3Dデジタルアニメーション映像、などがありますが、これら各分野でのエキスパートの能力と情熱を最大限に表現したものであるからです。社内各分野の代表7名はそれぞれの役割をひとりで10人分に値する能力を持ち合わせていると確信できます」

Virtual Spectator社会長 Lindsay Fergusson(リンゼー・ファーガソン)氏Virtual Spectator社会長 Lindsay Fergusson(リンゼー・ファーガソン)氏



「特に、Virtual Spectatorの心臓部であるオンタイムで3Dアニメーション化させるアプリケーションの開発には、3Dアニメーション制作会社であるAnimation Research社と、インターネットアプリケーション開発ではパイオニアのTerabyte Interactive社が共同で開発し、これらの革新的な技術力には自信を持っています」。

--今回のアメリカズカップ(ルイヴィトンカップ)で、このソフトが世界中で認められ、注目を受けているわけですが、Virtual Spectatorが受け入れられた最大の要因は何であるとお考えでしょうか?

「今までのTV中継ではできなかった、ある意味では誰もがレースに参加できるという感覚を持てることが大きな魅力でしょう。これまでのように一方的に情報を得るのではなく、インターネット接続とパソコンを通して、オンタイムでレース状況や様々な情報を3Dアニメーション化された映像で確認でき、思うままに引き出すことができるのですから」

「その上、見る角度まで選択できる。Virtual Spectatorは前々回のアメリカズカップ、そしてニュージーランドの人には記念すべき勝利に酔った前回の時には既に存在し、主にテレビ局・放送局では利用されていました。今回は一般の方にCD-ROMとインターネット利用を前提として利用していただけるようになったわけですが、これも4年前と比べてインターネットユーザー数が飛躍的に増加したことや回線接続環境が整備されてきたことがが大きな要因となっています」。

--2000年3月、アメリカズカップ終了以降のVirtual Spectatorは、どうなるのでしょうか?

「現在、有り難いことに世界中の企業、投資家などから、これらの技術活用を考えた様々なビジネスプランの提案を受けています。ヨットレースではこれから開催されるメジャーレースでの使用が決定していますが、Virtual Spectatorはヨットレースだけでなく、あらゆるスポーツイベントに利用可能です。具体案としては、モーターレーシング、ラリー、ゴルフなどがあります」

「またスポーツ以外にも様々な活用方法が考えられます。すでに、大手宅配会社であるFedEx社(米フェデラルエクスプレス社)との共同開発による配送物の追跡システムが活躍しています。日本でも独自の利用方法がある筈です。是非提案していただければと思います。国内を除くCD-ROM出荷数でみるとアメリカが80パーセントと抜き出ていますが、第2位は日本なんですよ」--。

--最後にVirtual Spectator社の今後についてお聞かせください。

「通信業界やCG技術など、2000年以降はこれまで以上のスピードで進歩していくと考えられます。我々が開発したこのVirtual Spectatorもその時代に適合した、あるいは一歩先を行くものとして開発を続けていかねばなりません。考えられうる様々な分野への進出により、新たな開発が行なわれ、よりよいシステムを構築していきます」

(インタビュー収録/11月26日(現地時間)、オークランドVirtual Spectator社にて)

インターネットを使ったスポーツ観戦の新しい形

Virtual Spectatorを実際に使用してみると、1枚のCD-ROMに収められたデータ量の多さにまず驚く。そして、まさしくこれまでテレビ中継を観ているとき、“こんなことができればいいのに”と考えていたことを具体化したシステムであることに気付く。

アメリカズカップに出場する各国シンジケートのスタッフは、Virtual Spectatorを使って情報を得ているという。レース後に、自分達の動きを再現したものを見て確認できるということは、次のレースに向けての準備に非常に効果的であるという。

ゴルフ中継向けのシステム開発も進められているということだ。お気に入りの選手をワンクリック、選択してその選手を中心に見るといった使い方もきっと可能となるのであろう。

活用のやり方次第、または異なる分野でのノウハウや技術をプラスすることで、様々な可能性を秘めたVirtual Spectator。今後も目が離せない。

まずはこの情報が一杯詰った引き出しをクリックひとつで開けてみて、アメリカズカップを楽しみたいと思う。

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