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インターネットとエスニックメディア――第15回コミュニケーション・フォーラムが開催

1999年11月19日 00時00分更新

文● 若菜麻里

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18日から19日にかけ、横浜市のパシフィコ横浜にて、“メディアの融合:我が国の進むべき方向と課題”というメーンテーマを冠した“第15回コミュニケーション・フォーラム”が開催されている。主催は郵政省郵政研究所および(財)情報通信学会。通信や放送、コンピューターといったメディアが高度化し、それぞれのメディアが融合することで、日本の経済や社会にどのような影響を与えるのか? その方向性を明らかにするのが本イベントの主旨である。

1日目は3つのセッションが行なわれた。メディアの融合が、パブリックリレーション(選挙活動や白書、広告など、“公共的な関係づくり”)やエスニックメディア、教育文野のそれぞれに、どういった影響を及ぼしているか、パネル形式で討議された。

本稿では、その中で“エスニックメディアとしての融合メディア”のセッション内容をレポートする。

このセッションは、コーディネーターに駒沢大学文学部教授(文化社会学)の川崎賢一氏、パネリストに(株)エー・アイ・ピー(AIP)代表取締役社長の陸楽(Le Ricky Lu)氏、武蔵大学社会学部教授の白水繁彦氏、インターナショナルプレスジャパン社長の村永Leonard(レオナルド)卓也氏、慶應義塾大学メディアコミュニケーション研究所、所長の関根政美氏、NPOの多文化共生センター代表の田村太郎氏という多彩な顔ぶれ。2時間弱という短い時間の中で、パネリスト5名が日頃の活動や研究を紹介、それを受けてエスニックメディア研究の第一人者である白水氏がコメントを最後にまとめる構成となった。

自律分散型のインターネットメディアの発信を目指すAIP

陸氏は、'71年に中国上海市で生まれた。'93年から慶応義塾大学藤沢キャンパスの総合政策学部に学び、'97年に日本を拠点にインターネット関連のベンチャー企業『AIP』を発足、日本語や韓国語、中国語、英語で、アジア関連のコンテンツを発信している。

陸氏は、「いわゆるエスニックメディアというのは、日本に住む外国人向けに発行されている新聞、雑誌、ラジオ、テレビなどを指すようだ。自分自身はインターネットのメディア関連ビジネスや、メーリングリストの運営をやっているが、“エスニックメディア”というものを意識したことがない」という。

「自分のおじいさんの時代の華僑は、逆境の中で助け合うという文化があった。しかし今は豊かな時代なので、枠にはまらず自分の生き方を追求するという新しい華僑の文化が形成されているように思う」

陸氏のインターネットビジネスの原点は、まず、生活者本位ということ。さらに原点として、インターネットは、世界中の人々がそれぞれ発信することで成り立つ自律分散型のもので、中央集権的なものでないという点を挙げた。

「サイトのあり方としては、現時点ではポータルが1番いいとされているが、ポータルは(ユーザーの)通過点にすぎない。とりあえず人を集めることで、ビジネスが成立しているが、これは非常におそまつだ。YahooもAOLもMSNも、ユーザーを囲い込んで自己完結する方向に向かっているが、自分は自律分散型のメディアを作っていきたい」と抱負を語り、「地球上の人が自律分散してインターネットに関わっていくことで、それぞれが“エスニックメディア”化していくのではないか」と予測した。

左から、川崎氏、白水氏、陸氏
左から、川崎氏、白水氏、陸氏



長期滞在の在日外国人の増加で、エスニックメディアの市場が拡大

村永氏が社長を務めるインターナショナルプレスジャパンでは、日本に滞在する約22万人2000人のブラジル人向けに、ポルトガル語の新聞を発行している。

「全国の駅の売店を中心に5万8000部を販売している。また'96年からスカイパーフェクTVで、それぞれブラジル関連、ラテンアメリカ関連、スペイン国営放送の番組を3チャンネルに渡り提供中だ。これは加入者向けの限定放送で、3チャンネル合わせた加入者は、'96年に505人、'99年10月現在で3万5929人に上った。特にポルトガル語放送の333は着実に加入者が増えている。また、'99年10月からウェブサイトをオープンした。新聞のオンライン版などを提供し、日本在住のラテンアメリカ人のポータルサイトとして、日本に関する情報を提供したい」という。

同社のビジネスの背景には、'96年に入国管理法が改正され、日系ブラジル人を対象に、就労において制限がないビザが給付されるようになり、日系ブラジル人が急増したことが挙げられる。

そこにコミュニティーが形成され、流通やマーケットが急速にできあがったのだという。「出稼ぎ者の当初の目的は、半年または1年間わき目もふらずに働き、お金を貯めて、国に戻るというものだった。しかし、ブラジルは経済状況がよくないので、そのまま数年日本に住んでいるという人が多い。すると、貯めたお金で、テレビやオーディオを購入する対象としてメディアビジネスが成り立つ」としている。

多文化共生の実現には、エスニックメディアが重要

田村氏が所属する多文化共生センターの前身は、ボランティア団体の外国人地震情報センターだ。'95年の阪神淡路大震災直後には、同センターで被災した約8万人の外国人向けに、13ヵ国語で相談窓口やニュースレターを発行するなど、日本語の分からない外国人に対しサポートを行なった。

田村氏は、「今は台中に事務所を構えて、台湾地震で被災したタイ人やインドネシア人などを支援している。世界で災害が起こると、そこには必ず言葉が通じない住民がいる。日本では入国管理法の改定、また世界的にはベルリンの壁が崩壊し、人の移動が激しくなった。従って地球規模での多文化共生が必要だ」という。

普段からエスニックメディアに接していれば、現状に見られるような災害時の情報過疎から脱出できる。

そのため、「外国人に情報を伝えるためのエスニックメディアを行政は注目しているが、それ以上に自己表現としてのエスニックメディアが重要であると考えている。例えば、ポルトガル語の新聞に、ポルトガル語で文章を書く。自分のアイデンティティー獲得のために、そういうメディアの存在は心強い。また、いろいろな言語が氾濫することで、身近に外国人がいることを日本人が実感できることも大切だ」と話している。

最後に、「日本では、多文化社会の衝突部分ばかりクローズアップする傾向があるが、プラスの部分も多いはず。多文化との共存のためには、行政とNPO、外国人のコミュニティーが連携していくことが重要」として、「エスニックメディアにより、共生が促進されることを期待する」と語った。

左から、関根氏、田村氏、村永氏
左から、関根氏、田村氏、村永氏



インターネットによりエスニックメディアの情報発信力は強化される

関根政美氏は、「エスニックメディアは、移民や難民、マイノリティーのメディアではあるが、インターネットと結びつくことでエンパワーメントするのではないか。情報のグローバリゼーションは、グローバルスタンダードよりも、多文化社会を促進するのではないか。そしてそれを加速させるのがエスニックメディアだ」として、「情報の発信地は欧米だけではなくなってきており、日本のファッションやアニメがアジアに受け入れられるなど、多極発信型になってきている」と語った。

エスニックメディアの機能には、対内機能と対外機能の2つの機能があるという。対内機能は、自分達の結束を強めたり、ホスト社会(在日日本人にとっては日本社会)の情報を得たり、次の移民を呼び寄せたりするための機能だ。対外機能は、ホスト社会への主張や要求を伝達したり、文化交流をしたり、故国に一般的な情報を伝えたりする機能を指す。

「特に対外機能は在来メディア(新聞・雑誌など)では限界がある。言葉が読めなければ、ホスト社会の人はその存在すら気づかない。しかし、インターネットでマルチメディアを利用すれば、マイノリティーの情報発信力を強化できる」

「NHKの放送が外国で流され、在外日本人がそれを見れば、NHKもエスニックメディアということになる。そのため、エスニックメディアは難民やマイノリティーのためのメディアというよりは、遠隔地にいる人のためのメディアということになるのではないか」として、エスニックメディアについて再考が必要だとも語った。

インターネットにアクセスできる公共の場が必要

白水氏は、それぞれのパネリストの発言のまとめた上で、「アメリカでは19世紀の終わりから移民の増加に伴いエスニックメディアが発達した。また歴史的にみて、エスニックメディアに活用する技術は、“こんにゃく”を利用したこんにゃく版、謄写版、リトグラフ、活版印刷と推移し、今では、インターネットも主流になってきている」と説明した。

「日本に住む外国人による日本語のホームページは、200から300ほど存在する。日系の2世、3世は、パソコンを活用することもできるが、日本に来て日が浅い外国人はインターネットにアクセスする機会がない。アメリカでは公共の場所で無料でインターネットにアクセスできるので、日本でもそういったサービスが今後必要だろう」とコメントした。

最後に司会の川崎氏は、「セッションを通して、我々の社会には外国人が暮らしているというのに、まず気がつき、それを受け入れることが必要だと感じられた。これはイベントのテーマ“今後のわが国が進むべき方向と課題”の中の課題部分である」と語り、セッションを締めくくった。

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