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NHK技術研究所が恒例の一般公開を実施、来年に迫ったBSデジタル放送の可能性を公開

1999年05月31日 00時00分更新

文● 浅野純一

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28日から30日にかけて、東京世田谷にあるNHK放送技術研究所が平成11年度の一般公開を行なった。これは同研究所の研究成果を広く公開する目的で、毎年5月末のこの時期に行 なわれる恒例の行事。今年のテーマは“『テレビ』にできないことを”。来年に迫ったBSデジタル放送とその関連技術に注目が集まった。

BSデジタル放送は、現在のアナログBS放送に変わる次世代の放送方式。今年打ち上げられる次期放送衛星を使って、NHKと民放各社がMPEG-2技術をベースにして行なうデジタル放送のことだ。来年早々に試験放送を開始し、12月1日の放送開始が予定されている。画質は標準画質のSDTVからハイビジョン並みのHDTVまでの数種類、アスペクト比は16:9と高画質・高音質のフォーマットが決められている。

シンポジウムではBSデジタル放送に対する民放各社の戦略も

公開にあわせて関連シンポジウムが開催された。テーマは“新しい放送の可能性を求めてからBSデジタル放送の魅力を探る~”というもので、BSデジタル放送のメディアとしての可能性、その内容、普及戦略、経営方針などが話し合われた。出席者は(株)ビーエス日本社長の漆戸靖治氏、(株)ジャパン・デジタル・コミュニケーションズ(BS-i)社長の引田惣氏、(株)ビーエスフジ社長の白川文造氏、(株)BS朝日社長の小田久栄門氏、(株)ビー・エス・ジャパン社長の木元舜造氏ら民放BSデジタル放送会社の各社長とNHK理事の山田勝美氏の6名。ちなみにBSデジタル放送を行なう事業者は、NHKを除き地上波と切り分けるという郵政省の方針により、それぞれ地上波民放局、紹介順に日本テレビ、TBS、フジテレビ、テレビ朝日、テレビ東京の関連会社となっている。

BSデジタル放送会社の社長が揃ったシンポジウムが開催された。なおBSデジタル放送はこの民放系5社のほか、WOWOWとスターチャンネルが行なうことになっている。左から山田氏(NHK)、木元氏(ビー・エス・ジャパン)、小田氏(BS朝日)、白川氏(ビーエスフジ)、引田氏(ジャパン・デジタル・コミュニケーションズ)、漆戸氏(ビーエス日本)の各氏
BSデジタル放送会社の社長が揃ったシンポジウムが開催された。なおBSデジタル放送はこの民放系5社のほか、WOWOWとスターチャンネルが行なうことになっている。左から山田氏(NHK)、木元氏(ビー・エス・ジャパン)、小田氏(BS朝日)、白川氏(ビーエスフジ)、引田氏(ジャパン・デジタル・コミュニケーションズ)、漆戸氏(ビーエス日本)の各氏



この中で各氏ともBSデジタル放送に対する意気込みとその戦略の一部を語った。ビーエス日本の漆戸氏は「既存民放業者として(BSデジタル放送を)新規事業者にまかせてはおけない」と話し、全国一斉に低コストで発信できるメリットを強調した。BS-iの引田氏は、これまで行なわれたスポーツ中継が時間が足りなかったことを例にあげ、長年の願いだった「モアチャンネル」が手に入ったことへの意欲を見せた。ビーエスフジの白川氏も「テレビは20世紀で最大の発明のひとつ」とし、テレビ文化が今後も栄えるのか滅ぶのか、BSデジタル放送がその分岐点になると語った。BS朝日の小田氏は16:9のアスペクト比が人の目にフィットしているとし、データ放送などの可能性に注目していると話した。BSジャパンの木元氏もテレビ東京が現在カバーしていない地域も低コストでカバーできるとそのメリットを強調した。NHKの山田氏はBSデジタル放送を、見るテレビから使うテレビへの変化と定義、技研がリサーチしているISDB(統合データ放送)の存在をアピールした。

キラーコンテンツとしてビーエス日本ではプロ野球の巨人戦を挙げ、試合開始前の14時から終了までの完全中継を検討中であると話し、会場を沸かせた。また、インタラクティブな視聴者参加型番組、クイズやショッピング、地上波コンテンツの流用、災害時の安否情報などの意見もあった。放送形態ほぼHDTV一本だが、BS朝日とビー・エス・ジャパンがHDTVを軸にしつつもSDTVもあるとにおわせた。また各局とも当面は無料放送を行なうことも確認された。普及についてはNHKがメインになって来年のシドニー五輪をHDTVで試験放送を行なうこと、来年5月17日をBS祭りとしてイベントを行なうことなども確認された。また各社ともテレビメーカーに対し、低価格でのSTB(セット・トップ・ボックス)や対応テレビの発売を期待、ハードとソフト両面での普及を誓った。

なおこの模様は6月5日のBS1「BSフォーラム」で放送される。

展示の目玉はBSデジタル関連サービスとホームサーバー

展示の目玉はBSデジタル放送のさまざまなサービスだ。BSデジタル放送では、絵や音のほかにデータ専用のチャネルが設けられており、常時、電子番組表(EPG)やニュースや天気予報を見ることができる。また、番組関連情報として、トピックや関連話題をテキストで見せることも可能だ。たとえばサッカーの試合を見ている途中で、好きなタイミングで他ゲームの経過を呼び出したり、音楽番組でアーチストの履歴やディスコグラフィーを見ることができる。このほか会場では、フジテレビが子供向けの疑似インタラクティブ番組を紹介。データでじゃんけんのアニメーションプログラムを送っておき、ユーザーがじゃんけんをすると受信済みデータの中からリアクションを選択するというもの。またTBSは視聴者参加型のクイズ番組やテレビショッピングの例を紹介した。ちなみに民放局の展示は技研公開では非常に珍しい。

電子番組表(EPG)は絶えず電波に載せて配信される。出演者や番組ジャンルでの検索やソート、視聴予約なども可能。野球中継で予定が変わったときにも対応できる
電子番組表(EPG)は絶えず電波に載せて配信される。出演者や番組ジャンルでの検索やソート、視聴予約なども可能。野球中継で予定が変わったときにも対応できる



BSデジタル放送でのテレビ番組のイメージ。さまざまな情報にアクセスできる
BSデジタル放送でのテレビ番組のイメージ。さまざまな情報にアクセスできる



フジテレビが行なった子供番組のデモ。じゃんけんアニメーションのデータを受信して疑似的なインタラクティブ操作ができる
フジテレビが行なった子供番組のデモ。じゃんけんアニメーションのデータを受信して疑似的なインタラクティブ操作ができる



ホームサーバー技術にも注目だ。放送のデジタル化にともない、さまざまなソースをデジタルデータとして扱えるサーバーが新しい商品として期待されている。ホームサーバーは基本的にHDDを内蔵し、MPEG-2ベースでテレビ番組やデータの記録再生を行なうもの。HDDの特性を活かして再生と記録あわせて同時に3チャンネルを扱うことができる。たとえば録画しながら別チャンネルを再生するといった芸当もできる。会場では、パソコンベースのホームサーバーのプロトタイプを展示。サーバーを経由したさまざまなサービスや放送データに付けられたインデックスを元に番組内容の要約再生を行なうシステムが展示されていた。

パソコンをベースにしたホームサーバーの試作機とその画面。こうした画面構成はXMLベースで記述される。さまざまなメニューを用意することができる
パソコンをベースにしたホームサーバーの試作機とその画面。こうした画面構成はXMLベースで記述される。さまざまなメニューを用意することができる



IEEE1394を使ったホームネットワーク内に接続するタイプのホームサーバー。家庭内のすべてのテレビをつなぐ
IEEE1394を使ったホームネットワーク内に接続するタイプのホームサーバー。家庭内のすべてのテレビをつなぐ



このほか、BSデジタル放送関連では、EPGやデータ放送を最適に操作できるリモコンに関する研究や、複数の衛星からの電波を同時にキャッチする平面アンテナ、テキストデータを作り出すためのリアルタイム音声->テキスト変換技術、ハイビジョンによるニュース番組製作の様子などが展示された。

BSデジタル受信機のプロトタイプ。JAVA仮想マシンを搭載し、受信機を制御する。データをダウンロードして自らを更新することも可能
BSデジタル受信機のプロトタイプ。JAVA仮想マシンを搭載し、受信機を制御する。データをダウンロードして自らを更新することも可能



BSデジタル放送の音声のみを受信するデジタルラジオ。日本のデジタル放送ではDOLBY DIGITALではなくAACと呼ばれるコーデックが採用されている。ソニー製のプロトタイプが展示されていた
BSデジタル放送の音声のみを受信するデジタルラジオ。日本のデジタル放送ではDOLBY DIGITALではなくAACと呼ばれるコーデックが採用されている。ソニー製のプロトタイプが展示されていた



BSデジタル放送では番組にインデックスを付けることができる。そのインデックスをサーバーが認識して、インデックスに従った要約再生や好きな場面だけを繰り返し見ることができる
BSデジタル放送では番組にインデックスを付けることができる。そのインデックスをサーバーが認識して、インデックスに従った要約再生や好きな場面だけを繰り返し見ることができる



 



 

BSデジタル放送を快適に視聴するために最適なリモコンの研究が行なわれている。多ボタン型やオンスクリーンのトラックボール型、音声認識コマンド型などが展示されたBSデジタル放送を快適に視聴するために最適なリモコンの研究が行なわれている。多ボタン型やオンスクリーンのトラックボール型、音声認識コマンド型などが展示された



アナウンサーが話すニュース原稿をリアルタイムで認識してテキスト化する音声認識システム。ニュース原稿に特化した言い回しの認識がポイント。昨年よりも認識率と認識速度が改善されていた
アナウンサーが話すニュース原稿をリアルタイムで認識してテキスト化する音声認識システム。ニュース原稿に特化した言い回しの認識がポイント。昨年よりも認識率と認識速度が改善されていた



平面に並べたたくさんの素子で複数衛星からの電波をキャッチする複数衛星共用平面アンテナ。いわゆるフェイズドアレイアンテナのパッシブ版。どの衛星を受信するかはPCカード大のカード基板で指定できる。今後複数の衛星が使われる可能性があることから、期待される技術だ
平面に並べたたくさんの素子で複数衛星からの電波をキャッチする複数衛星共用平面アンテナ。いわゆるフェイズドアレイアンテナのパッシブ版。どの衛星を受信するかはPCカード大のカード基板で指定できる。今後複数の衛星が使われる可能性があることから、期待される技術だ



ケーブルテレビ(CATV)にデジタル放送を配信するための研究。現在アナログのCATVには多くの視聴者がいるが、これをデジタル化してBSデジタル放送を配信すれば普及に弾みがつくため、積極的な研究が行なわれている
ケーブルテレビ(CATV)にデジタル放送を配信するための研究。現在アナログのCATVには多くの視聴者がいるが、これをデジタル化してBSデジタル放送を配信すれば普及に弾みがつくため、積極的な研究が行なわれている



オブジェクトのカタチと色を認識して自動的に追尾させられる知的ロボットカメラ。人間のカメラマンのテクニックを反映させることもできる
オブジェクトのカタチと色を認識して自動的に追尾させられる知的ロボットカメラ。人間のカメラマンのテクニックを反映させることもできる



200万画素CCDを4枚貼り合わせた800万画素のイメージセンサを持つ超多画素カメラ。撮影したフィールドから任意の部分を切り出しても十分な解像度を残すことが可能。このほか暗闇での撮影も可能な高感度撮像素子を使ったカメラも展示された。
200万画素CCDを4枚貼り合わせた800万画素のイメージセンサを持つ超多画素カメラ。撮影したフィールドから任意の部分を切り出しても十分な解像度を残すことが可能。このほか暗闇での撮影も可能な高感度撮像素子を使ったカメラも展示された。



今回はBSデジタル放送一色に染まった感のある技研公開だったが、この分野の情報はまだまだ少ないようで、係員は一般見学者からたくさんの質問を受けていた。テレビときいてやはり身近に感じる人が多いためか、来場者はお年寄り夫婦から若者まで幅広い層にわたっており、あらためてデジタル化がもたらすインパクトの大きさを感じた。

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