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「地上波放送は20Mbpsの高速通信回線」と米FCC委員長--NAB'99から

1999年05月06日 00時00分更新

文● 寺本昌作

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4月に米ラスベガスで開催されたNAB(全米放送事業者大会)の展示会および会議の“NAB'99”について、業界をウォッチしてきた寺本昌作氏の寄稿でお伝えする。全3回の予定。第1回の本稿では、講演会を中心に紹介する。

NAB(全米放送事業者大会)は、毎年4月、ラスベガスで開催される放送事業者のためのイベントである。全米とはいっても、さすがに世界の放送先進地域の米国だけに、海外からの参加者も多い。今年は125か国、10万人を超す人の参加で大いに賑わった。

安ホテルの宿泊費が3倍に跳ね上がる

ラスベガスにとっては、コンシューマー・エレクトロニクス・ショウ、COMDEXと並んで、“3大イベント”。まあ、町にとっては悪いほうの“3大”であるが、要するにいつもやってくる金持ちの観光客と違って、金を使わないビジネスマンばっかりが集まる(中には、金をうなるほど持ってくる人もいるかもしれないが)イベントなので、ホテルは一気に高くなる。

今回、記者(寺本)が泊ったのは、“エクスカリバー”という“安い”はずのホテルだったが、インターネットで見てみると、通常49ドルで泊れるのが、今週は何と149ドル! むむむ・・・となりますね。部屋にチェックインして、「さあ、お仕事」と見渡すと、何と、電話機にデータポートがない。いやー、参ったな。安ホテルチェーンのベストウェスタンでも、データポートくらいあるのになあ、と考え込んでしまったが、考えて見ると、このホテルはお子様向けで、家族連れで仕事を忘れるために来るところなのですねえ。ビジネスセンター(共用のOAサポート室)もないようだ。

教訓:仕事でラスベガスに来るときには、名の通ったホテルチェーンに泊ろう。

放送とコンピューターとの融合は混沌から分化へ

本来、NABは放送事業者つまり放送局と、ここに売り込みを図るメーカーのための展示会であったが、数年前からコンピューター業界が割り込んだ。当初は“NABマルチメディアワールド”として一部のコーナーでひっそりしていた。しかし、2年前、FCC(連邦通信委員会)が地上波放送のデジタル化のプランを発表して以来、デジタル機器とともにコンピューターのハード、ソフトの発表の場と化したようだ。NABの開催に合わせて重要な発表を行なう企業も増えており、マイクロソフトのWebTV買収が伝えられたのも、2年前のNABのタイミングだった。

開会のスピーチをするNAB会長、エディー・フリッツ氏
開会のスピーチをするNAB会長、エディー・フリッツ氏



今回のNABは、昨年秋に米国の地上波テレビ放送のデジタル波が発信されて以来、初めての大会であり、デジタル放送実用化を受けて、地に足がついた展示会となった。一方、放送のデジタル化をテーマに放送業界に殴り込みをかけた形になったコンピューター系も、放送機器と一体となったソリューション提供型と、直近のインターネット技術を中心としたものに2極分化してきたようである。ここ1~2年の混沌とした様相から、“すみわけ”が進んできたように考えられる。

“インタラクティブTV”に毎月10万軒の新規加入

NABの基調講演は、ソニー・アメリカのハワード・ストリンガー会長だったが、注目を集めたのは、オラクルのラリー・エリソン会長の話である。

NAB'99の基調講演は、ソニー・アメリカのハワード・ストリンガー会長
NAB'99の基調講演は、ソニー・アメリカのハワード・ストリンガー会長



エリソン会長の話は、NABの1部門“NABマルチメディア・ワールド”の基調講演として行なわれた。テレビを通じたインタラクティブサービス“インタラクティブTV”の今後の可能性を説くものである。これを実現したブリティッシュ・インタラクティブ・ブロードキャスティング(BIB)のエッカーマン会長を伴い、デモンストレーションを交えて講演して、会場の話題をさらった。

BIBのサービスに「毎月10万軒の新規加入がある」とオラクルのエリソン会長
BIBのサービスに「毎月10万軒の新規加入がある」とオラクルのエリソン会長



BIBでは、衛星経由のショッピング、ゲーム、バンキング、教育といったデジタルサービスを提供し、これを200チャンネルにわたる放送サービスの中で実現している。これを支えているのが、オラクルのビデオサーバー技術で、エリソン会長は「毎月10万軒の新規加入がある」と胸を張っている。

WebTVとNCTVの経営者が“激突”

講演会には、行政、技術、ビジネスなど多岐にわたった150ものセッションがある。大変な賑わいだが、その中でも“スーパーセッション”と銘打った目玉商品がある。特に話題を呼んだのは、WebTVの創業者であるスティーブ・パールマン会長と、NCIのミッチェル・カーツマン会長の“激突”。WebTVは、非常に有名だが、NCIは、これを追い上げるNCTVの開発企業で、オラクルとネットスケープが主体となって設立した企業である。

パールマン氏が“エレクトロニックコマースとインタラクティブTV”と題して、プレゼンテーション主体の講演を行なったのに対し、カーツマン会長はデモンストレーション主体を徹底して対抗。理論のパールマン対実戦のカーツマンといった対決で、場内を沸かせていた。

ただ、市場の開拓はまだまだこれから--といった感がある。パールマン会長の話でも、「日常利用しているホームユーザーは80万世帯くらい。1世帯あたり2.2人の視聴者がいる。家庭市場でのシェアは、すでにAOLについで第2位だ」と述べていた。業界トップのAOLが買収、提携でシェアを伸ばし、1000万のホームユーザーを持っているといわれるだけに、1位と2位との間には、まだ大きな差があることになる。

「利用者の71パーセントはパソコンを持っていないし、58パーセントはインターネットに触れるのが初めて、という人たち。平均年齢は、43歳」という発言が示すように、パソコンを持たざる人々への浸透は徐々に進んでいるようである。追い上げを図るNCTVとともに、この対決、裏に控えている企業の動きとあわせて、しばらくウォッチする価値がありそうだ。

「YAHOO!はすでに放送事業者」

さて、NABの講演会では、FCCの委員長がやってきて、朝食会を兼ねた講演会をすることも目玉の1つである。対象は主として米国の地上波放送事業者(テレビ局、ラジオ局)の人々である。日本では郵政大臣に相当するFCC委員長の率直な話が聞ける--とあって、外国の放送事業者やらプレスやら総勢600名ほどが参加している。

FCCのウィリアム・ケナード委員長は、多くのジョークをとばしながら、先日発表されたYAHOO!とBroadcast.comの合併話に言及した。「この合併によって両者は400億ドルの資金調達が可能になり、すでにこれだけでCBSより3割も大きいのだ。彼らは、すでに放送事業者なのだ」と強調する。

「地上波放送は20Mbpsの高速通信回線」とウィリアム・ケナードFCC委員長
「地上波放送は20Mbpsの高速通信回線」とウィリアム・ケナードFCC委員長



さらに、「放送と、通信、コンピューターとの融合の時代を迎えて、大きなビジネス機会が発生する。あなた方、地上波放送事業者は、米国のほとんどの家庭に20Mbpsという高速のパイプを持ち、しかも物理的な回線を引く必要がないという、圧倒的な強みを持っているのだ」と説いた。

FCCが本来デジタル化で狙った2つの側面、HDTVの高画質放送と、データ放送等の新サービスの開発が遅々として進まない放送業界への苛立ちがあるのかもしれない。放送産業というものは、世界中どこでも政府の規制と許認可の固まりで、もともと保守的な傾向がある。その上、上位の会社は儲かっているが、中位以下の会社には経営が苦しいところが多く、大規模な技術革新に対して一層保守的になりがちである。

アイデア1つで一攫千金を狙う人々が集まるインターネットの世界との競争に、ケナード氏が内面で苛立っているだろうことを感じる講演内容だった。

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