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瞳孔の大きさや動きで欲求を探る研究も--プロップ・ステーション社会福祉法人化記念シンポジウム(前編)

1999年04月30日 00時00分更新

文● 樋口由紀子 

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コンピューターネットワークを使って、challenged (チャレンジド:障害を持つ人)の就労促進活動を行っているプロップ・ステーション。そのプロップ・ステーションの社会福祉法人化を記念したシンポジウムが、2日間にわたり神戸市の六甲アイランドにある神戸ファッションマートで開催された。4月17日には、ジャーナリスト櫻井よしこ氏の基調講演、ドキュメンタリー映画の放映、シンポジウム“チャレンジドが誇りを持って働くために”が行なわれた。

開会の挨拶をするプロップ・ステーションの竹中代表。“チャレンジドを納税者に!”をキャッチフレーズに活動を始めたきっかけを語る
開会の挨拶をするプロップ・ステーションの竹中代表。“チャレンジドを納税者に!”をキャッチフレーズに活動を始めたきっかけを語る



守られる立場から、自己責任を持つ立場へ

記念シンポジウムの幕開けとなる基調講演“チャレンジドが社会を変える”で櫻井氏は、従来の日本の福祉では“恵んであげますよ”とでも呼ぶべき考え方によって、チャレンジドにチャンスが与えらず、能力が眠ったままになっているという現状認識を語った。また、国に守られることで、競争原理が働かなくなった銀行業界を例にとり、社会の片隅で守られていた障害者たちにとって、競争の原理が働く中で、自己責任を持つことがいかに重要であるかを強調した。

次に、プロップ・ステーションのドキュメンタリー映画『challenged』が放映され、続いて、“チャレンジドが誇りを持って働くために”と題した座談会形式のシンポジウムが行なわれた。ナビゲーターは、プロップ・ステーション理事長の竹中ナミ氏とチャレンジド・アーティストの吉田幾俊氏。座談会は、第1部、第2部にわたり多彩な顔ぶれで展開された。

次代のコンピューターと環境バリアフリー

第1部のテーマは“テクノロジーの活用”。パネリストは、マイクロソフト(株)の成毛真社長、マクロメディア(株)の手嶋雅夫社長、住友電気工業(株)の川上哲郎会長、慶応義塾大学院の金子郁容教授、東京大学社会情報研究所の須藤修助教授、大阪市立大学の中野秀男教授、マイクロソフトで在宅勤務をするチャレンジドの森正氏、SOHOで活躍するチャレンジドの伊藤和彦氏らの8人。また、高知県の橋本大二郎知事もビデオで出演した。

実際に大型店舗で進められているバリアフリーの計画について報告する東大の須藤助教授
実際に大型店舗で進められているバリアフリーの計画について報告する東大の須藤助教授



「人それぞれ、どの部分をコンピューターに任せるかをコントロールすることが必要」と大阪市大の中野教授
「人それぞれ、どの部分をコンピューターに任せるかをコントロールすることが必要」と大阪市大の中野教授



“チャレンジド・ワーキング・フォーラム”ニュースレターのコーディネーターである伊藤氏は、ベッドの上にいながら容易に編集会議ができるメールの便利さを実感している
“チャレンジド・ワーキング・フォーラム”ニュースレターのコーディネーターである伊藤氏は、ベッドの上にいながら容易に編集会議ができるメールの便利さを実感している



コンピューター業界が今度どう発展していくかという話題では、マイクロソフトの成毛社長が、音声認識や、目の瞳孔の大きさや動きなどから、何をしたいかを探る商品の研究開発を行なっていると語った。このような研究は、同社に限らず、コンピューター業界で競争的に行なわれているもののようだ。成毛社長は、時代はインターネットの次の産業に急速に移りつつあるとし、それらの産業が、チャレンジドにとって大きなメリットになり得ると語った。

テクノロジーで距離と時間を超えられることから、今後は世界規模での競争社会になっていくと予想する成毛社長。これに対し、マクロメディアの手嶋社長も、コンピューターの発展がヒエラルキーの崩壊に繋がり、世界規模の競争社会は平等で公平な結果をもたらすと語る。

「インターネットはこれまでの階級や流通形態も崩壊させるもの」と位置付けるマクロメディアの手嶋氏
「インターネットはこれまでの階級や流通形態も崩壊させるもの」と位置付けるマクロメディアの手嶋氏



チャレンジドの森氏は、車椅子で通勤をする必要がないこと、トイレに行くだけに他人の手を借りる負担がないことを、在宅のメリットと話す
チャレンジドの森氏は、車椅子で通勤をする必要がないこと、トイレに行くだけに他人の手を借りる負担がないことを、在宅のメリットと話す



関係を変え、社会を変えるネットワーク

一方、東大の須藤助教授は、環境のバリアフリーにおいて、チャレンジドが主体的に企画立案できる可能性を主張。「バリアフリーは、今後の高齢化社会においても重要な課題であり、チャレンジドが、実生活の不自由な体験を生かして提案から企画、プランニングまでを行なうことは非常に有効であり、また報酬も期待できるはずである」と述べた。

同様に、慶応大学の金子教授は、チャレンジドが持つノウハウやニーズは、教育、相談、コンサルティングなどのヒューマンサービスにおいて非常に有効だと語る。「情報化は、チャレンジドと企業との関係を根本的に変えるものになる。企業が戦略的に、チャレンジドを雇用の枠に入れることもあり得、またそれによって企業の収益アップが考えられる」と述べた。

慶応の金子教授は、インターネットが距離だけでなく関係を変える役割を果たすと主張
慶応の金子教授は、インターネットが距離だけでなく関係を変える役割を果たすと主張



たとえば、ビデオで登場した橋本知事は、今後の取り組みとして、“県庁職員への障害者の採用”を挙げた。障害者雇用の枠を具体的にパーセンテージで定め、パソコンを使った在宅勤務も含めて考えたいと話す。そのための準備としては、相談窓口やスキルを身に付ける制度が挙げられた。

官庁関係者が“多様性”と“官民協力”を強調

第2部“新しい社会システムの創造”に参加したのは、厚生省障害福祉課の仁木壮課長、労働省障害者雇用対策課の村木厚子課長、通産省電子政策課の鈴木寛課長補佐、日経連労務法制部の西嶋美那子次長、日本放送協会(NHK)の村田幸子解説委員、ジャパンマーケットセンターの森井章二社長、そして慶応大の金子教授の7名。加えて宮城県の浅野史郎知事がビデオで出演した。ここでは、チャレンジドの就労のためにそれぞれが取り組む政策や今後の課題が報告された。

「労働行政は多様で柔軟な対応に弱い」と話す労働省の村木課長。いろいろな立場の人と一緒に悩んでシステム作りをしていきたいとの意欲も見せる
「労働行政は多様で柔軟な対応に弱い」と話す労働省の村木課長。いろいろな立場の人と一緒に悩んでシステム作りをしていきたいとの意欲も見せる



通産省の鈴木課長補佐は「これから多様な方法で異質な人が実験的なことを行なうような『コラボレーション』的産業が評価されるのではないか」と語った
通産省の鈴木課長補佐は「これから多様な方法で異質な人が実験的なことを行なうような『コラボレーション』的産業が評価されるのではないか」と語った



日経連の西嶋次長は「雇用者ができること、できないことを見据えて、行政機関や地域住民と協力し合い支援の仕組や共同作業の場を作ることが求められる」と考える
日経連の西嶋次長は「雇用者ができること、できないことを見据えて、行政機関や地域住民と協力し合い支援の仕組や共同作業の場を作ることが求められる」と考える



マスメディアの役割は障害者のロールモデルをより多く取り上げていくことだと語るNHKの村田解説委員
マスメディアの役割は障害者のロールモデルをより多く取り上げていくことだと語るNHKの村田解説委員



産・官・学・メディアの連携

チャレンジドの就労を実現していくためには、順に解決していくべき問題がある。それらを解決するにも、柔軟な“産・官・学・民、すべてのメディアの連携”が課題になる。金子教授は「多様な分野の人達が一緒に面白い動きを起こしている」と、今後の社会の動きに対する期待感を語った。

プロップ・ステーションによるチャレンジドたちの就労に向けた活動と成果。この活動に賛同し、支援する者の多様さからも、参加者は日本の福祉が大きく変わる可能性を強く感じただろう。

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