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【NAB99 レポート Vol.3】ディスクカメラ登場にみるデジタルメディアの浸透

1999年04月22日 00時00分更新

文● 浅野純也

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欧米ではすでに地上波のデジタル放送が始まっているのに対し、日本ではまだSkyPerfecTV!とDIRECTVの2局がCSデジタル放送を行っているだけで、BSデジタル放送が来年、地上波のデジタル放送が2003年(あくまで予定。おそらく遅れると見込まれている)に始まることになっている。こうした放送のデジタル化に先行して、送り出し・製作側のテレビ局内部の製作体制自体のデジタル化も進んでいる。撮影するためのカメラはほとんどがデジタル化されているし、編集や効果の処理もデジタル化された専用卓やワークステーションやPCベースのシステムが使われている。米アビッド社の編集システムはよく知られたところだ。今回のNAB99でも、ソニー(株)や松下電器(株)、日本ビクター(株)、池上通信機(株)などの日本の大手放送機器メーカーやフィリップスが、カメラ、編集機、調整卓などのデジタルシステムをさかんに売り込んでいた。新しいところでは、こうして作成したデジタルコンテンツ資産を管理・活用するデジタルアセットマネージングシステムが登場、先日もソニーとIBMが提携を発表したのは耳に新しい。このように放送のデジタル化とは、素材撮影から視聴者のテレビ、局側の資産活用にいたるまで、すべてが変わることを意味する。
そんなデジタル化の動きの中で、新しいタイプのカメラが登場した。日本電気(株)が展示したDiskCamと池上通信機が展示したEditcamだ。

相変化光ディスクを使ったNECのDiskCam


NECのDiskCam。ディスクの取り出し口が開いている。メディア部分が非常にコンパクト。従来のカメラ部分と容易に合体させることができる
NECのDiskCam。ディスクの取り出し口が開いている。メディア部分が非常にコンパクト。従来のカメラ部分と容易に合体させることができる



後ろから見たところ。ディスク自体はPDやDVD-RAMのパッケージと同じサイズ。持ち運びには便利
後ろから見たところ。ディスク自体はPDやDVD-RAMのパッケージと同じサイズ。持ち運びには便利



NECのDiskCamは以前からその存在は知られていたものだが、一般に公開されるのはこれが初めて。テープの代わりにDVD-RAMと同じ相変化光ディスクを記録メディアに使う。相変化光ディスクとは、照射するレーザー光線の波長を変えることでデータを書き換えられるディスクのことで、現在実用化されているDVD-RAMも同じ原理のメディアを使っている。録画フォーマットはMPEG-2で、ビットレートは25MbpsとDVD-VIDEOの約5倍というリッチさ。

DiskCamで使う相変化光ディスク。現在は最大20分まで録画が可能。ビットレートは25Mbps
DiskCamで使う相変化光ディスク。現在は最大20分まで録画が可能。ビットレートは25Mbps



DiskCamの編集装置。中央のシルバーのデバイスが相変化光ディスクの読み取り装置
DiskCamの編集装置。中央のシルバーのデバイスが相変化光ディスクの読み取り装置



テープの代わりにディスクを使うメリットは、ランダムアクセスが可能なことで編集のスピードアップが図れること、カメラ側のメカやメディアの小型化が可能なことなどがあげられる。ただし、展示されていたディスクは録画時間が20分と少なく、今後長時間録画に対応したディスクが開発される模様だ。NECブースでは同時にこのディスク専用の読み取り装置を組み合わせた編集システムも展示していた。DiskCam単体でのインカメラ編集もサポートしている。

ハードディスクを使うEditcam

一方、テレビカメラメーカーの池上通信機のEditcamは、ハードディスクパックを録画メディアに使うディスクカメラだ。4GBのディスクパックを使うことで最大30~40分の録画できる。インターフェースはSCSIを採用している。ディスク自体を堅牢なパッケージで包み込むことで、ハードディスクゆえに心配される対衝撃性に十分配慮している。

池上通信機のEditcam。後ろ上部にハードディスクパックを入れる
池上通信機のEditcam。後ろ上部にハードディスクパックを入れる



パック部分を空けたところ。パック自体はかなり大きい
パック部分を空けたところ。パック自体はかなり大きい



4GBのハードディスクパック。これで40分程度の録画ができる
4GBのハードディスクパック。これで40分程度の録画ができる



ハードディスクをメディアに使う最大のメリットが迅速な編集処理にあるのはNECと同じだが、実際の様子はちょっと異なる。通常、撮影した素材はアビッドに代表されるノンリニア編集システムに取り込むとき、テープからハードディスクにデータ変換される。この変換時間を稼ぐために倍速や4倍速のデータ変換装置が使われているほどだ。Editcamでは最初からハードディスクを使うことで、こうした編集システムと非常に相性がいい。

Editcamで撮影した素材は変換処理することなく、そのまま編集素材として使えるためだ。また、編集ソフトウェアをインストールしたノートパソコンをEditcamにダイレクトに接続することで、その場での編集もできてしまう。機動性が求められるカメラらしい特徴と言えるだろう。

ディスクパックを専用のアダプタに装着して中央のEditcamStationと呼ばれる読み取り・書き込みデバイスに装着。ノートパソコンでも編集作業ができる
ディスクパックを専用のアダプタに装着して中央のEditcamStationと呼ばれる読み取り・書き込みデバイスに装着。ノートパソコンでも編集作業ができる



スタジオ用カメラはともかく、屋外に出るこうしたカムコーダーは、こうしたメディアの進化だけでなく、HD(高品位)化、プログレッシブ化などまだまだデジタル技術を呑み込んで進化していくと見られる。

ハードディスクというメディア

ランダムアクセス可能なデジタルメディアの例を2つピックアップしたが、ハードディスクを録画メディアに使う試みは各社で行なわれている。今回展示はなかったがソニーはAV機器やホームサーバ用のハードディスクをすでに開発しているし、ハードディスクベースの録画機器はTiVoやReplayなどの新興ベンチャー各社がタイムシフトテレビとして発売を予定している。

松下電器のハードディスクレコーダー。AV用のハードディスクを使用している。背面にはIEEE1394があり、デジタルSTBと接続されている
松下電器のハードディスクレコーダー。AV用のハードディスクを使用している。背面にはIEEE1394があり、デジタルSTBと接続されている



松下電器も昨年の日本のエレクトロニクスショウでハードディスクを使った録画装置を公開したが、このNAB99でもシンプルな録画装置を展示した。クアンタム社製のハードディスクを使い、同社のデジタルテレビ用セットトップボックスとIEEE1394で接続して、データを転送するもの。なお、同社のデジタルテレビ用STBはIEEE1394を標準で装備している。展示されたのは1つのストリーム、つまり1チャンネルだけに対応したものだが、将来的には複数チャンネルの録画再生が同時に行える仕様になる模様だ。

東芝のフラッシュメモリーデバイス。サイズ的には5インチのHDDと同じ。これで2.2GBの容量がある
東芝のフラッシュメモリーデバイス。サイズ的には5インチのHDDと同じ。これで2.2GBの容量がある



フィリップスのPCカードを使ったオーディオ・ビデオプレーヤ&レコーダ。MPEG-1ベースの映像をPCカードをメディアにしてやり取りできる
フィリップスのPCカードを使ったオーディオ・ビデオプレーヤ&レコーダ。MPEG-1ベースの映像をPCカードをメディアにしてやり取りできる



このほか、(株)東芝のブースではデジタルオーディオの編集作業に使う『フラッシュメモリドライブ』を、フィリップス社のブースにはPCカードメモリにMPEG-1ビデオのデータを入れて、専用デバイスで再生・録画する『ソリッドステートMPEGプレイヤー』を展示していた。ともにシリコンメディアを擬似的にハードディスクに見立てたもので、よりアクセス速度が速いというメリットがある。物理的接触がないシリコンメディアの普及は、パソコンの世界だけではないようだ。

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