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「現実と仮想間の光と影との整合性に、こだわる必要性は?」--第5回複合現実感研究会パネルディスカッションから

1999年04月19日 00時00分更新

文● 編集部 原武士

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16日から2日間、福島県・会津大学で、第5回複合現実感研究会が開催された。2日目は、“複合現実感技術のこれから~ISMR'99からのスタート”という題目でパネルディスカッションを実施した。コーディネーターは筑波大学教授の大田友一氏。パネリストは、3月に開催された複合現実感(MR=Mixed Reality)のシンポジウム“ISMR'99”にかかわった東京大学講師の佐藤洋一氏、東京大学講師の苗村健氏、(株)エム・アール・システム研究所(MR研)第一研究室室長の山本裕之氏の3氏。ここでは、佐藤氏と山本氏の講演およびディスカッションについて紹介する。

会場となった会津大学、情報工学の先端の機器をそろえている
会場となった会津大学、情報工学の先端の機器をそろえている



MRに光学的整合性は必要なのだろうか?

はじめに、MRにおける光学的整合性を研究する佐藤氏が、現在の研究状況を発表した。光学的整合性とは、ヘッドマウントディスプレイなどを用いて現実空間に仮想物体を配置して表現する場合(逆に、仮想空間に現実のオブジェクトを配置する場合もある)に、仮想物体の影の現れ方や反射を考慮して自然な表現を追求するもの。佐藤氏は現在、この研究の必要性に疑問を感じてきているという。

佐藤氏「光学的整合性はMRにとって本当に必要だろうか。光学的整合性は、情報の対応付けというよりは高品位な表示ではないだろうか。しかし、MRはリアリティーが高いということで光学的整合性は必要だろうと考えることにする」

佐藤氏「光学的整合性の難しさは、3次元に時間と反射とを加えた4+1次元の実光線空間にある。影の生成には実体が必要である。現実にある物体の反射特性をどうやって計測するか。今のところこれといった対処方法はない。また、グラフィックスの表示方法においても問題がある。コンピューターで3次元を表示する際に利用するOpenGLの光源サポートは、8個までしかないのだ。その結果、CGのダイレクトレンジが実世界のダイレクトレンジに合わないということも起こる」

佐藤氏「これからの光学的整合性研究には、よりよいSTHMD(シースルーHMD)、より正確な光源・反射モデルのハードウェアサポート(光線空間、ソフトシャドウ、相互反射など)、光源の時間変化モデルの作成などが必要になってくる」

佐藤氏の「光学的整合性は必要か?」との自問に会場はざわめいた
佐藤氏の「光学的整合性は必要か?」との自問に会場はざわめいた



MRはウェアラブル、アウトドアを目指す

山本氏は、MRの今後の発展について、MR研の目指す方向性を紹介した。

ウェアラブルの可能性について説明する山本氏
ウェアラブルの可能性について説明する山本氏



山本氏「MRには、バーチャルの世界にリアルを組み込むAV(Augment Virtuality、拡張仮想感)と、その逆のAR(Augment Reality、拡張現実感)が含まれている。MR研では、屋外で利用するARとして、アウトドアやウェアラブル、モバイルを目指そうと考えている」

山本氏「今までのシステム開発は基本的に屋内中心だった。屋内で街の中を歩いてみたり、ゲームをしたりである。メガネ型のHMDを着けて街の中を歩くことで、HMDにさまざまな情報が表示されるようなシステムを開発していく」

山本氏「今後の課題は、空間的ずれの解消(幾何学的整合性)、画質的ずれの解消(光学的整合性)、時間的ずれの軽減(時間的整合性)、3Dセンサーや通信方法の解決など。これからのMRは現実を基本とするARが主体になるだろう」

ゲームのインターフェースが参考になる

パネルディスカッションでは、光学的整合性の必要性に、話題が集中した。客席とパネリストとの質疑応答の一部を紹介する。

パネルディスカッションの様子
パネルディスカッションの様子



--コンピューターで作った物体と、実世界の物体の光の相互作用や相互反射との問題を解決する良い方法はあるのか?

佐藤氏「現状では、実世界の物体の形状、反射特性を計測する方法がないので難しい。現状では光学的整合性はハードルが高すぎる。クオリティーを追求するような映画などでは必要だろうが、MRに必要かどうかは難しい。しかし、ウェアラブルなどの難しい環境で、あえて考えていくのも面白い」

--リアルタイム性がMRに必要だという意見が多いが、光学的整合性はこれに対立していないか?

佐藤氏「必要なのはどこで妥協するかということ。妥協する場合も、系統的に考えて、妥協できるところをきちんと考える必要がある。光学的整合性は、場合場合に分けてアタッチしていく必要がある。光源環境に関してもケースバイケースで判断していくべきかなと感じている」

--ゲームの世界はインターフェースが練り込まれている。これを参考にして取り入れていっても良いのでは

藤代氏「ゲームのインターフェースは非常に参考になる。必要なのはデータの可視化、ビジュアライゼーションではない。ユーザーが初見でどのように操作すれば良いかを理解できるインターフェースである」

第5回複合現実感研究会を振り返った全体的な印象として、MRの実現の鍵は、高速処理のできるハードウェアと、計算モデルの構築にあると感じられたことがあげられる。これらの問題は技術の発展とともに確実に解消されていくだろう。そのとき、MRがどのように社会に入り込んでくるのか楽しみである。

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