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【Interview】スラムの子どもたちにパソコンを学ぶ機会を与えたい--ブラジルのNGO、CDI代表のRodrigo Baggio氏

1999年04月06日 00時00分更新

文● 報道局 鹿毛正之

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 来る4月7日、情報化の推進に関連する団体、CDIの創立者であるRodrigo Baggio(ロドリーゴ・バッジオ)氏の講演が東京・千代田区のシニアワーク東京で開催される。CDIとはブラジル・リオデジャネイロで活動する非営利団体として知られ、ユネスコなどの国際機関も注目しているという。

 ASCII24では講演を前に、バッジオ氏にCDIについてインタビューした。

CDI代表のロドリーゴ・バッジオ氏
CDI代表のロドリーゴ・バッジオ氏



スラムの中にコンピューター学校を

----CDIとはどんな組織なのでしょうか?

「CDIは“コンピューター技術民主化委員会”の略称で、ポルトガル語では“Comite para Democratizacao da Informatica”と呼ばれています。CDIの使命は、所得の低いコミュニティー、つまりスラムの中にコンピューター技術を教える学校を作ることです」

----その学校ではどんなことを教えるのですか?

「具体的にはWordやExcel、PowerPointといったアプリケーションの利用法とコンピューター保守についてです。また、子供たちに向けたコンピューター教育も行なっています。
それらと並行して、市民の権利についても教えていきたいと考えています」

「ブラジルの子どもたちは、コンピューターに強いあこがれを持っています。その子どもたちに、コンピューターを通じて、自分たちのコミュニティーにおける問題についての意識を持ってもらいたいのです」

----具体的なカリキュラムについて教えてください

「まず始めの3ヵ月でWindowsとWordについて学びます。次の3ヵ月はExcelとPowerPointについて学びます。これでパソコンの使用法をひと通りマスターしますので、次の2ヵ月はパソコンのメインテナンス法をマスターします。最後の2ヵ月は、ホームページの作り方を習得するのに費やしています」

----CDIの活動はいつ始まったのでしょうか?

「CDIが発足したのは'95年の3月です。それ以前から、中古のパソコンを集めてスラム内のコミュニティーセンターや住民組合事務所に送るという活動を進めてきました」

「ですが、ただパソコンを送るだけでは、それらのパソコンが十分に活用されないということがわかってきました。そこで、スラムの中に学校を作るというアイデアを思いつき、最初の学校をリオデジャネイロ・サンタマリア地区のスラムに設立したのです」

コンピューターより食べ物か

----学校を設立した当初の反響はどうだったのでしょうか?

「学校の落成式には新聞社11社やテレビ局4社など、数多くのマスコミが取材に来てくれました。おかげで翌日から、ボランティア志望の人や、パソコンを寄付したいという人がたくさん集まってくれたのです」

「同じ3月の末には賛同者70人を集めて会合を開き、その後の9ヵ月で15ヵ所のスラムに学校を作ることができました」

----では、最初から周囲の理解を得られたのですね

「実はそうでもありません。当初は私たちのことを“バカ者たち”と呼ぶ人たちもいたのです。その人たちは、“貧しい人に必要なのは食べものであって、コンピューターではない”と主張していました。でも私たちは、人間には文化や技術が必要であり、コンピューターもその1つだと考えていたのです」

----実際に理解が得られるようになったキッカケは何なのでしょうか?

「新聞やテレビで取り上げられたことも理由の1つですが、スラムに住む子どもたち自身が学校に通いたいと列を作ったことが一番大きな理由でしょう」

「子どもたちはコンピューターに大きなあこがれを抱いています。リオ市の社会開発局がストリートチルドレンに“お金があったら何に使いたいか?”という質問をしたところ、一番多かった答えは“テレビゲームが欲しい”だったそうです。テレビすら持っていない家庭が多いのにも関わらずです。テレビゲームで遊びたいのは決して中流・上流の家庭だけではないということがわかりました」

CDIの活動についてエネルギッシュに語るバッジオ氏
CDIの活動についてエネルギッシュに語るバッジオ氏



3年半で80もの学校を設立

----これまでの活動実績を教えてください

「3年半の間に、リオデジャネイロに46の学校を作ることができました。また、リオデジャネイロ州以外の8つの州に32の学校を作りました。今年はさらに3つの学校を開設する予定です」

「それらの学校では、これまでの合計で1万2000人の子どもたちが勉強しています。彼らの多くが、プロフェッショナルとしての職を得ることができるようになると期待しているのです」

----子どもたちは他の学校には通っていないのですか?

「もちろん、ブラジルにも小中学校がたくさんあります。しかし、豊かな私立学校にくらべ、公立の学校は施設も貧弱で、先生になりたがる人も多くはありません。それもあって、スラムに住んでいるような子どもは、学校がつまらないとドロップアウトしてしまうのです」

----CDIの学校に通う子どもたちの年齢層は?

「私たちの学校では、12歳から18歳くらいまでの子どもを対象にしています。またシニア層向けのクラスも用意しており、そこでは50~60台の人たちが学んでいます」

マイクロソフトもCDIを支援

----学校を設立する以外に、CDIはどんな活動をしているのでしょうか?

「学校には先生が必要ですので、先生を育成することも重要な活動の1つです。1つの学校には先生が2、3人いますので、リオデジャネイロ全体では100人以上の先生がいることになります。もうひとつの大事な活動は、パソコンの寄付やボランティアを募るためにキャンペーンを行なうことです」

----CDIの専従スタッフは何人くらいいるのですか?

「リオには私を含め7人のスタッフがいます。また専従ではありませんが、ボランティアのスタッフが100人以上います。リオ以外の地域はすべてボランティアで運営しており、専従のスタッフはいません」

----CDIの活動や学校の運営はすべて無償なのですか?

「実は、学校ではわずかながらも月謝を取っています。これは2つの原則を徹底するためです。その2つの原則とは“自立できること”と“自主管理”です」

「大切なのは、コミュニティーの人たちが自分たちのお金と自分たちの手で学校を運営することなのです。この学校はCDIの学校ではありません。コミュニティーの学校なのです。学校の先生はコミュニティーの中の若者たちが担当します。CDIは、その先生にコンピューターについて教えるだけです」

「学校の事務を担当するのもコミュニティーの人たちです。そして、生徒たちから月額500円でもいいから月謝を取ることで、先生に給料を払ったりフロッピーディスクを買ったりと自立できるようにするのです」

----CDIに寄付や援助を行なっている企業や団体について教えてください

「マイクロソフトは、これまでの3年間に450万米ドル相当のソフトを寄付してくれました。そのおかげで、私たちはWordやWindowsといったソフトを買う必要がないのです(笑)。またUNISYSやIBMといった大企業もパソコンを寄付してくれました。ブラジルの企業ではIpirangaという石油会社や、TV GLOBOというネットワーク企業が援助してくれています」

「ですが、CDIにとって最大の寄付は、中小企業からの寄付なのです。これまで100社以上の企業が600台以上のパソコンを寄付してくれました。これまでCDIに寄付されたパソコンは、2000台以上にも及びます」

ときには持参したノートパソコンで資料を参照しながら、CDIを取り巻く状況について説明をしていた
ときには持参したノートパソコンで資料を参照しながら、CDIを取り巻く状況について説明をしていた



国連機関も認めたオープンモデル

----政府などの公的団体からの援助についてはいかがでしょうか?

「もちろん、ブラジル連邦政府とも関係を保っています。ただ、あまり政府に擦り寄り過ぎると、特定の政党と結びついていると受け取られかねません。ですから、政府とはある程度の距離を保っています」

「ユネスコ(UNESCO)は、私たちの活動に大きな関心を持っています。実は、私たちと同様の活動を、モザンビークやメキシコなどでも実現しようという動きがあるのです。来週にはフィリピンに行き、CDIの活動について説明をする予定になっています」

----ユネスコはCDIのどんな点に関心を持っているのでしょう?

「スラムのような貧困地域は、ブラジルのみならず多くの国に存在します。それらのスラムに学校を設立するための方法論として、CDIのケースが格好のオープンモデルになり得ると、ユネスコが認めてくれたことに他なりません」

「ユネスコは国連の組織ですから、とても力強い組織的な支援をしてくれます。また、CDIにとっては、ユネスコが支援してくれているということが一種のお墨付きになるのです。“ユネスコが支援している団体なら、安心して寄付や援助をできる”と、企業の人たちが考えてくれるのですから」

----ユネスコのほかに、CDIの活動を支援している海外の団体はありますか?

「米国には、私たちの活動を他の国に適用することに関心を持っている財団が2つあります。また、CNNを含む300以上のマスコミがCDIの活動を取材してくれました。'97年にはブラジルを訪問したクリントン大統領が、マンゲイラ地区の学校に来てくれました。'98年にはホワイトハウスが、その学校に10台のPentiumパソコンを寄付してくれたのです」

386マシンでもマシンガンより強い

----学校ではどんな子供でも受けいれるのでしょうか?

「はい。たとえば麻薬取引に関わっている子どもが学校に入りたがっていたら、スラムの学校は彼らを受け入れます。そうすることで子どもたちが“職を得られる未来がある”と感じるようになり、麻薬取引から抜け出せるようになるのです」

「麻薬マフィアはAR15というマシンガンを使いますが、私は“スラムにおけるコンピューターは、本当のAR15だ”と言う言葉を使います。つまり、コンピューターは“15歳にとっての革命武器(Arma Revolutionaria de 15 anos)”だというわけです。スラムの子どもたちは15歳くらいで犯罪組織に身を投じたりしますが、その現実をコンピューターによって変えることができるというのが私たちの主張です」

「CDIの目標は、スラムに住む子どもたちの人生を変えること、“Change Life”がテーマなのです。仕事を得ることができる未来がある。子どもたちにそう信じてもらい、そのための技能を身に付けてもらうことが、CDIの使命だと考えます」

----今回、来日された目的について教えてください

「JCA-NETの招きで、日本で講演する機会を得ました。ぜひ、日本の皆さんにCDIの活動について理解していただきたいのです。CDIでは386以上のCPUを積んだパソコンの寄付を募っていますが、日本では486パソコンも捨てられていると聞いています。それらのパソコンを、貧しい国々の学校に寄付してもらえることを期待しています」

「たとえ壊れているパソコンでも、私たちにとっては大事なのです。壊れたパソコンから部品を集めて、1台のパソコンを作ることだってできます。まずはCDIの活動を理解してもらい、日本の皆さんに協力してもらえると助かります」

 現在30歳のバッジオ氏によると、12歳のときに父親がプレゼントしてくれた日本製コンピューターキット『TK-82』が、コンピューターの道に目覚めるきっかけになったという。

 ブラジルの裕福な私立高校でコンピューターを教えていたバッジオ氏が、CDIにつながる活動を始めたのは'94年のこと。それから5年後、故あって日本を訪れることになったことは、決して偶然ではないのかもしれない。

 CDIとパートナーシップを結んでいるJCA-NETでは、コンピューターのリサイクルやボランティアの交流を通じ、CDIを支援する企業や個人を募っている。JCA-NET事務局では、CDIに関する問い合わせを電話や電子メールで受けつけているとのこと。また、7日はJCA-NETの主催で、バッジオ氏の講演が東京・千代田区のシニアワーク東京で開催される。

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