既報のとおり、世界最大級の情報・通信テクノロジー見本市“CeBIT
99”が、3月18日から24日まで開かれていた。開催地はドイツ北部、ニーダ-ザクセン州のハノーバー。この期間、会場内ではドイツのお国柄を随所でみることができた。布の袋と、交通システムについて、ドイツ在住のジャーナリスト、高松平藏氏が紹介する。
ビニールも、紙もゴミだと布袋
見本市会場を歩くと自然に増えるのが各社のカタログ、資料類である。それを見込んで紙袋やビニール袋を無料配布する会社が多数ある。ここまでは、一般の見本市でもよく見られる風景だ。CeBITでも多くの企業が紙やビニールの袋をサービス品として出していた。そんな中、現地法人の富士通コンピューターは、布製の袋を配布していた。風呂敷感覚の布袋。あっという間になくなった |
ドイツは、環境対策が進んだ国として有名だ。同社が配っていた布袋は、それを象徴するものだといえる。ドイツでは、'86年に廃棄物処理法を制定して以降、ごみ分別とリサイクルを義務化。'91年には、包装廃棄物規制令を施行した。使用済み包装材の回収と再利用をすべての企業に義務付けた。実際の生活では、ビン類を色別に廃棄するほか、紙、生ごみ、プラスティック、その他分類不可能なものといった分別をしなければならない。さらに、回収費用は消費者と企業の負担となる。
その結果、「ごみを出さないようにしよう」という発想が、人々に当然生まれる。簡易包装が一般的になり、スーパーのビニール袋は有料になった。結果に対する対策よりも、原因から見直す考え方だ。ゆえに、人々は買い物のときに布袋やバスケットをよく持ち歩く。布袋は、ちょっとした手荷物を運ぶときにも重宝されている。日本でいえば風呂敷感覚であろうか。その結果、リサイクルするためのごみそのものが数年前から少なくなり、リサイクル専門会社の経営に影響が及んでいる。
こういった事情を反映してか、見本市など会社が景品を用意する場面では、布袋を出す企業が必ずある。デジタル化によるペーパーレス社会の到来が言われて久しいが、実際に紙の資料をなくすことは難しいだろう。せめて、布製の袋で“使い捨て”を減らしたいものだ。
電気バス、路面電車でガス出さず
千葉の幕張メッセの十数倍の規模を誇るCeBit。総床面積は40万平方メートルにも及ぶ。出展ブースの数は7341。来場者は、昨年の約68万人を上回る約70万人を記録した。これだけの来場者を迎えるだけに、会場周辺の交通機関との連携、敷地内での移動手段は重要事項だ。実際、会場へのアクセスは充実している。ハノーバー空港から見本市会場まで直接電車が走り、場合によってはヘリコプターをチャーターすることもできる。見本市の入場券が、市内を走るバスや電車のチケットにもなっているほか、会場周辺には4万5000台を収容できる駐車場がある。広大な見本市敷地内では、移動のための電気バスまで運行されている。ハノーバーメッセ(見本市会場)を支える交通インフラというわけだ。3月25日付の『エアランガー新聞』によると、ニーダーザクセン州の交通大臣、Peter Fischer氏も、来年同会場で開かれるエキスポ2000の「いい予行演習になった」と評価した。
一方、ブースの出展者からは、「交通システムはいま一つ」という声もあがっている。3月22日付の『フランクフルター・アルゲマイネ新聞』によると、ハノーバー駅から会場まで通常20分で走る路面電車が、会期中には45分掛かることもあったという。
しかし、通常の列車運行において、遅れることは、ドイツ国内ではしばしば。会場内で運行される電気バスは、環境に配慮した乗り物という点で実にドイツらしい。“遅れる路面電車”にも同国の特徴がよく出ている、とするのは酷であろうか。
自家用車、都市間高速移動のみ
一方、ドイツ国内の都市計画の一環でよく作られる仕組み、“パーク&ライド”が自動車対策にうまく取り入れられていた。このシステムでは、まず、自動車での来場者を幹線道路から広大な駐車場へ導く。そこでシャトルバスに乗り換えて会場へ向かうというものだ。見本市まで10分程度で移動できる。もっとも同メッセには、前述の駐車場と別に、会場をとり囲むように駐車場がある。そこへ至るまでの道は日本と同様、込んでおり、さばききれない自動車をパーク&ライドで収容しているというふうでもある。会期中、自動車での来場者数が昨年より2万台多い28万台にも及んだという(25日付『エアランガー新聞』)。駐車場から会場へのシャトルバスが出ている。 |
本来、パーク&ライドは、街の周辺に広大な駐車場を設置し、自動車が市街へ入らないようにするという仕組みだ。市街では公共交通機関や徒歩による移動が中心になり、環境保全に役立っている。ヒトが主役の賑わいにつながっている。
パーク&ライドの採用が示すように、都市と都市とを結ぶ幹線道路は、あくまでも都市間をスムーズに移動するためのインフラ--という位置付けが確固としてある。各都市同士が高速道路でネットワーク化されているイメージだ。渋滞がほとんどなく、無制限の高速走行が可能なアウトバーンは、ISDNのようなものだろう。通信インフラという点では、ドイツテレコムも苦戦しているが、オフラインのネットワークインフラは充実している。