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【エデュテイメントフォーラム'99京都 Vol.1】情報化の影の教育やゲーム型教材を学校教育にも導入?

1999年03月29日 00時00分更新

文● 樋口 由紀子、yukiko@kb3.so-net.or.jp、服部 貴美子、hattori@ixicorp.com

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25日から3日間に渡って、“エデュテイメントフォーラム'99京都”が、京都リサーチパークで開催された。この会合は、教育と娯楽とを融合させた“エデュテイメント”産業の育成を見据えて開くもの。学校教育や情報技術産業の関係者、子供たちが多数参加した。模擬授業や教材用のコンテンツの展示、教育セミナーなどが実施された。初日、25日のセミナーは、情報教育に携わる4人の講演で構成されていた。

京都教育大学の林助教授の講演で幕を開けた京都教育大学の林助教授の講演で幕を開けた



京都教育大学教育学部の林徳治助教授による“『総合的な学習の時間』と『情報教育』の融合を求めて”、文部省初等中級教育局情報教育室長の亀田意統氏による“21世紀へ向けた情報教育のあり方”、通商産業省機械情報局情報処理処理振興課課長補佐の萩原崇弘氏による“教育の情報化とエデュテイメント産業”、郵政省通信政策局政策課課長補佐の若林成嘉氏による“情報社会のデザイン”--の4つである。いずれのセミナーにも、多くの参加者があった。

「子供たち自身による自己評価を導入したら」

まず、京都教育大学の林助教授が、“『総合的な学習の時間』と『情報教育』の融合を求めて”というテーマで講演した。教員の役割は、子供たちに問題を投げ掛けることではなく、子供たちが情報を収集する仕掛けを作ることにあると、林氏は強調する。その仕掛けをきっかけとして、子供たちが、みずから情報活用能力を養うようになるという。また、従来の評価に加えて、子供たち自身による自己評価を導入することを提案した。

情報の収集、選択・判断、処理、発信といった手順について力説
情報の収集、選択・判断、処理、発信といった手順について力説



“総合的な学習の時間”における情報関連教育など、学習指導要領の問題については、下記の記事で紹介している。
【関連記事】「日本は米国に6~7年遅れている」--“米国コンピュータ教育団体との交流プログラム”
http://www.ascii.co.jp/ascii24/issue/981119/topi01.html


次に、“21世紀へ向けた情報教育のあり方”と題し、文部省の亀田氏が講演した。学校におけるインターネット利用の基盤整備と、'99年度の情報教育施策について語った。亀田氏は、情報教育の目標とは、多様な形で流通する情報を、的確に活用する“情報活用能力”を育てることだと力説する。コンピューターは、いろいろな道具に変身し、従来バラバラだった情報を統合する役割を持つ。この特徴のゆえに、情報教育にとって非常に有効だとした。また、双方向メディアとして利用されるインターネットの上で、情報がぶつかり合い、変化して、社会を変えていく。情報化に対応した教育のあり方は、当然、その流れの中で定まっていくという。

情報化の影の部分への対応も情報教育の役割

亀田氏は、教育の流れを大きく変えるものとして、'96年7月の中教審第1次答申の『21世紀に向けた教育の在り方』を挙げた。この中には、“情報活用能力の育成”、“情報機器等の活用による教育の高度化”、“高度な機能を備えた‘新しい学校’の実現”、“情報化の影の面への対応”--の4本の柱が掲げられている。これらを軸として、2002年に大幅に改革される予定の学習指導要領には、大きな関心が寄せられている。

京都リサーチパークのプレゼンテーション機器は充実している
京都リサーチパークのプレゼンテーション機器は充実している



新指導要領に従う具体的な試みとして、学校教育のカリキュラムの簡素化と厳選とを実施し、削減した時間を“総合的な学習”の時間に充当することが考えられている。教科の枠で教えることが難しい課題、例えば環境問題や自然科学、国際交流や世界各国との連携についてなどをここで扱う。コンピューターやインターネットにより、情報を収集、分析、加工、処理、発信する過程を通して、生徒の情報活用能力を養う。

しかし、亀田氏は、情報化の影の部分への適応も、情報教育の課題だと続けた。例えば、インターネットで薬物入手や商売が可能であったり、現実感が希薄になったりという情報化の弊害にも注目しなければならない。それら影の部分に対しての、子供たちの対応能力、態度、情報を見分ける判断能力を培うのが必要であると強く主張した。

 亀田氏は、また、通信料金の問題に言及した。コンピュター教育が進んだ米国と比較して、日本では、通信料金の高さなどからなかなかコンピュターが普及しないという現実がある。学校割引や学校向けのプロバイダーの導入について、郵政大臣が通信事業者に申し入れるなど、ネットワークの整備に向けて具体的な検討を進めていることをアピールした。

文部省の亀田氏文部省の亀田氏



一方、会場からの質問により、官の主導で進めやすい制度面はさておき、情報教育に貢献する民間活力への期待が大きいことも示された。「ネットワーク整備など技術面の普及に比べ、教育センターの設置や人作りが、追い付いていないのでは?」との質疑がこれである。

「ゲーム性のある教材で興味を引くことも」

 引き続き、通産省の萩原課長補佐が登壇した。タイトルは、“教育の情報化とエデュテイメント産業”である。冒頭、日本の情報技術活用が、長引く不況の影響で、米国に比べて大きく遅れている状況をデータで示した。例えば、学校におけるパソコン普及率は、米国の9人に1台('5年12月)に対して日本では約20人に1台('97年3月)に1台と、年々格差が広がっている。

 この現状を踏まえ、通産省では3つの柱を立てて、情報化施策を考えている。需要サイドの施策、供給サイドの施策、環境整備--の3つである。その具体的取組みの1つに“ラーニングウェブプロジェクト”がある。これは、人々の超・学校的、自立的かつ共同体的な営みの中での学習の場を作ろうというもの。萩原氏は、“学び”とは必要や義務に迫られて知識を詰め込むことではないと説いた。自発的、自立的に世の中の文化実践に参加し、湧き出してくる知の喜びを他者とともに分かち合う(共愉)ことであると示唆する。これからの情報技術は、“学び”の支援を主目的とするツールとなるべきだと主張した。

出席者の熱心な聴講ぶりが目立った
出席者の熱心な聴講ぶりが目立った



具体的な方策としては、まず、前提として、コミュニケーションツールとしての共愉型のネットワークを構築する。その上で、ゲーム性のある教材を使って、子供たちにネットワークの楽しさを教えれば、学習のきっかけとなる。一方で、例えば生物の解剖実験では体験学習を重視して命の尊さを実感させる--といった、バーチャルとリアルとのバランスへの留意が肝要である。ホワイトリストやブラックリストの整備、システム管理や技術サポートのためのヘルプデスクの設置など、新たな施策が必要になる可能性についても触れた。

ポスト100校プロジェクトが5月10日に始動

従来、'94年度から文部省との協力の下で実施された“100校プロジェクト”、その実践活動をベースに、海外や地域組織との連携やカリキュラムへの適応を研究してきた“新100校プロジェクト”が存在した。5月10日からスタートする“ポスト100校プロジェクト(仮称)”は、この2つの後を受けた試み。学校や教育センターを接続したネットワーク上に、教育関係者が誰でもアクセスできて、情報提供、コミュニケーション、共同研究ができる場を作ろうとするものである。過去のプロジェクトで得たノウハウを有効活用するとともに、情報技術を用いたパイロットプランも実証していく。「インターネットを通じてプロジェクトの名称や活動に対する意見を募集している」と萩原氏。

・ポスト100校プロジェクト(仮称)
 http://www.cec.or.jp/net98/shin100.html

 この日最後の講演となった“情報社会のデザイン”では、郵政省の若林課長補佐が発表した。情報化により社会がどのように変革されているのか、その可能性と社会的課題について述べた。

 国の緊急景気対策の一環として、デジタル革命に寄せる期待は大きい。郵政省でも825億円の予算(98年度の第3次補正予算)のうち、300億円を、学校におけるインターネット利用の促進に充当している。

郵政省の若林氏郵政省の若林氏



インフラ整備が進んでいけば、コンテンツビジネスの振興、ベンチャー育成といった次世代産業への期待は膨らむ。若林氏は、その一方で、今後検討すべき課題も多いと指摘した。情報リテラシー(国際化に対応できる語学力を含む)の向上やセキュリティーおよびプライバシーの保護といった、迫り来るテーマを提示して、この日のセミナーを締めくくった。

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