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【2000年問題シンポジウム】日米で民間企業の対応に大きな差、認識の甘い日本企業

1999年03月23日 00時00分更新

文● 報道局 原武士

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 23日、東京・労働スクエア東京ホールにて、企業や学校の有志が参加する任意団体、ソフトウェア・メインテナンス研究会(SMSG)が主催の“2000年問題シンポジウム”が開催された。西暦2000年問題について考えるもので、副題は“もう後がない2000年問題の最後の対策は”。西暦2000年までは、後10ヵ月を切った。さらに2000年問題が関わってくる'99年度へは既に10日もない。このシンポジウムには、2000年問題が発生する直前の最後のチャンスとして、この問題に焦点をあて、多くの人に知ってもらいたいという主催側の思いが込められている。

 午前中の講演では、マルチビジネス コンサルタンツ インターナショナル(株)の越智洋之(おちひろゆき)氏が講師となり「日米の民間企業の対応の差について」という題目で、アメリカと日本の西暦2000年問題に対する対策の差と、日本全体における問題に対する認識の甘さを実例を挙げて指摘した。

越智氏、2000年問題でもっとも重要視しなければならないのは組み込みチップ問題という
越智氏、2000年問題でもっとも重要視しなければならないのは組み込みチップ問題という



 越智氏は「ここでは、日米の民間企業の対応の差について話そうと思う。その前に、日米民間企業の話をする場合、環境の違いを把握し、なぜ差が発生したのか分析する必要があると思う」と述べ、1枚の新聞のコピーを取り出した。

「この記事は、日本の報道関係が2000年問題において何が重要かを理解していないことを表している。例えば、この新聞記事では米大統領の2000年問題に対する措置が大きく写真入りで紹介されている。しかし、国内でもっとも問題となるだろう埋め込みチップの2000年問題は小さくしか扱われていない。日本のメディアに、しっかりしてもらいたい。日本のジャーナリストが2000年問題について危機感を抱いていないのは、責任がないから」

西暦2000年問題のなすりつけ

 まず越智氏は、ユーザーがマスコミやメーカーからの情報を信じすぎているところに問題があると指摘した。

「ユーザーがメーカーに対し、購入した商品が2000年問題に対応しているかと質問した場合を想定する。ほとんどの企業は対応してませんとはいわない。ユーザーはそれを真に受けて信じ込んでしまっている。メーカー側は対応している言うだけで、ユーザーはメーカーがを頼り切っている。誰も自分が責任をとることは考えていない。

 皆さんの企業で、2000年問題に対し、誰が責任を持つかということを考えてもらいたい。情報部門にまかせっきりで、自分たちには関係ないと思っている。残念ながら日本では、経営陣が2000年問題の重大さをほとんど知らない。後10ヵ月しかないのに日本ではそういう状態である。

 2000年問題対策のために別部署を作っている企業もある。しかし、それも器だけの存在がほとんど。問題が発生した場合に責任をどこまで追及して良いのかわかっていない」

西暦2000年問題に対する企業の認識

 同氏は、米国でベンチャー企業が育ち、日本では育たない理由を、仕事に対する境遇の違いという。

「日本でもアメリカでも、コンピュータのメーカーは2000年問題への対応情報をホームページや広報資料で流している。しかし、日本の企業は情報を流すだけですべてのユーザーをサポートする気概はない。

 また、日本での中小企業は、専門のシステム管理者を持たない。大手メーカーにシステム関係を依存しきっているのである。それに対してアメリカの中小企業では、システムプログラマーを自社で持っている。メーカーの専門家と対抗して議論できるような人が存在するのだ。アメリカでは、企業の大きさにかかわらずメーカーと対等の立場で情報交換をしている。しかし、日本の中小企業はメーカーのいいなりになっているのだ」

人材に対する考え方も問題

 また、企業が社員に対する考え方や、人材育成に力をつぎ込む姿勢にも大きな違いがあるという。

「日本のソフトウェア会社やSI企業は、残念ながらメーカーの下請けで、メーカーから言われたことだけをやっている。専門業としての社員の成長には、まるで力を注いでいない。それに対してアメリカでは、ごく数人の企業でも大プロジェクトを打ちたてたりする。日本の中小企業はソフトウェアの開発にしてもメーカーに頼っている。また、自社でできることまでをメーカーに任してしまう。もう少し、自己の会社の業務に責任を持ってほしい。

 そういったことで、日本とアメリカの企業には大きな差がある。アメリカの企業のほうが次から次に新しいものを発表していくのは、こういった業務に対する姿勢の違いがあるからだ」

 越智氏は、企業における2000年問題に対する取り組みも、日本は体面的なものばかりで、自己の会社を実際に検証して数字を出しているのかどうか疑わしいと述べた。

日米では社会に対する考え方も違う

「アメリカでは、大学を卒業した若い人は大企業には行かない。中小企業に就職して自分の実力を試そうとする。だから、優秀な人が次から次に中小企業に入っていく。ここでも日米の大きな差がある。

 日本は、保険や法律への考え方についても遅れている。例えばアメリカでは、2000年問題への対応の話をするときにははじめから、保険会社の人や監査役などが出てくる。対応が失敗した場合の損害まで考えているのだ。逆にそうしないとアメリカでは仕事ができない。

 やがて2000年問題が世界中で問題になったとき、日本の企業が海外に輸出した製品が2000年問題を引き起こし責任を追求される可能性が十分にある。そうなったとき、海外のユーザーは容赦なく日本企業を攻撃してくるだろう」

国民文化的な違い

「アメリカ政府は国民の税金で仕事させてもらっていると考えている。情報はすべて国民に対して公開している。先日も、2000年問題に対し90パーセント対応していると公表していた会社が、審査した結果30パーセントも対応していなかったと公開した。しかし、日本では審査以前に情報の公開すらない。

 なぜか? 日本では役所は“お上”。昔から国民の上にいる。だから、国民が大切、情報は国民に知らせて当然という姿勢がまったくない。日本では国民の税金をどう使っているか隠してばっかり。隠す理由はばれたらまずいからだ。国規模でなく地域的に見ても日米の差がよく見える。アメリカでは2000年問題に限らず、各市・各地域間で毎月のように情報交換したり意見交換している。日本はどうか?」

「役所は国民を大切にしていない」
「役所は国民を大切にしていない」



「日米にかかわらず、通常は競争相手企業と情報交換すると独占禁止法に触れる可能性がある。しかし、アメリカでは西暦2000年問題に関してのみ競争相手と情報交換しても良いという法律まである。国として、世界中でパニックが起こる可能性のある2000年問題にたいして、その重大さを認識しているからである。

 一般の国民内での2000年問題の浸透も大きな差がある。アメリカでは一般の主婦でさえ2000年問題のことを知っている。ラジオ、テレビなどでも2000年問題に関わる宣伝が流れているのだ。一般の人たちがすでに2000年問題について、意見交換しているのだ」

 ここで、同氏は聴衆に向かい「社長、常務、専務を含む経営者の人たちが2000年問題に関して自分で取り仕切っている企業の方、この中にいれば手を上げてください」と呼び掛けたが、手をあげた人は一人もいなかった。

2000年問題には自分で対応するしかない

 2000年問題は、必ず身の回りでも発生する。そして、その問題が自分の企業が原因の場合、裁判沙汰に発展してもおかしくない。2000年問題は事前の対策だけでなく、後処理についても考えていかなければならないのである。

「2000年問題で訴訟が起きたという設定でシミュレーションしてみよう。会社の信用を失わないためには、問題が起きたときに経営者がしっかりと対応をしていかなければならない。アメリカではプロジェクト単位でプログラムを発注する場合、そのソフトウェアが原因で問題が生じても、責任を取ってもらうよう金をかけている。経済状況も関係するが、日本ではシステム開発にほとんどお金をかけない。当然、責任問題については触れないのがほとんどだ。

 今までは、ソフトウェアにおける日本語の問題があったから、ソフトウェア産業は生き延びてきた。しかし、これからは日本語の問題がなくなってくる。そうなった場合に、世界と競争するだけの準備が日本のソフト産業にはない。人材がいないのだ。きっちりした契約関係で、責任のはっきりした商売をしていかないと生きていけなくなるだろう」

 しかし、アメリカの企業にはまったく問題がないわけではない。

「2000年問題に対応できていない企業はアメリカでもいっぱいある。そういった企業の情報管理者は確実に責任を取らされる。そのため責任が重過ぎて、誰も情報管理者になりたがらないのだ。また、アメリカでは地位が上になればなるほど、多くを知らなければならない。部長や課長は自分の専門の仕事を持っていなければ勤まらない。そのため、個人個人で努力している。皆さんも自分で責任を持って、自分の将来を考えていただきたい」

同じ機械でもテスト結果が同じとは限らない

 ここで同氏は、組み込みチップ問題(自動改札機などの機械類に組み込まれるソフトウェアの問題)を紹介し、2000年問題が一筋縄ではいかないとアピールした。

「2000年問題に対応しているかどうかというテストは実証させなければいけない。以前、組み込み型で同じモデルの機械を2機種用意し、実証したことがあった。まったく同じモデルでソフトウェアのバージョンも同じはずなのにもかかわらず、片方では2000年問題に対応していたが、もう片方では対応していなかった。実は、その理由はチップにあった。

 実は片方の機種ではマイナーバージョンアップされたチップが搭載されていたのだ。組み込みチップ問題のもっとも恐ろしいところはそこにある。マイナーバージョンが大量にあるのだ。しかも、企業ごとにオリジナルで作られるため、ひとつが対応したからといって他のものも対応しているとはいえないのである。埋め込みチップ問題は本当に大変な問題できりがない。

 紙に書かれている仕様と実際に使われているものの違いを把握していないと大変なことになるだろう。ほとんどの企業では2000年対応へ紙面上の仕様を確認しただけで実証していない」

2000年問題、カウントダウン

 日本とアメリカでは環境が違いすぎる。これは、2000年までには解決できない問題である。今の環境で十分やれることを会社に提案し、会社に責任を持たすことができるかが今後の課題となっていくだろう。

 また同氏は、2000年問題への対応を細かく記録していく必要があるという。どれだけ会社として努力しているかという情報は、完全に残していかなければならない。その情報がない場合、客から訴えられた時に不利な立場に立つ可能性が強い。

 最後に同氏は「2000年問題には、弁護士を含め、監査役などが話し合って対応することをお勧めする」と締めくくった。

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