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デビットカードは障害者に受け入れられるか--“TEPS'99”が開催

1999年03月12日 00時00分更新

文● 報道局 清水久美子

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 誰もが使える電子機器やコンピューターのある社会の基盤作りを目指し、障害者への対応をテーマとして“TRONプロジェクト”が中心となって結成した“TRONイネーブルウェア研究会”は、“TRONイネーブルウェアシンポジウム(TEPS)”を開催した。TRON(The Real-time Operating system Nucleus)プロジェクトは、誰でも利用できる理想的なコンピューターアーキテクチャーの構築を目指し、東京大学の坂村健博士が提唱したもの。'87年からの活動以来、第9回目となる今回のTEPS'99では、“電子商取引時代のイネーブルウェア(注釈)”をテーマにパネルディスカッションが行なわれた。

【注釈】“イネーブルウェア:Enableware”--障害者や高齢者など、“何かが出来なくなっている人々:Disabled Persons”にとって、その何かを“可能にする:Enable”に基づく新語



 パネルディスカッションでは、コーディネーターにTRONイネーブルウェア研究会会長の坂村健氏を迎え、障害者、提供者のそれぞれの側の意見が交換された。具体的な討論のテーマは、今年の10月より本格運用が開始される“デビットカードシステム”。これは、金融機関が発行するキャッシュカードを利用して、百貨店やスーパー、コンビニなどの加盟店で代金支払いができるサービス。専用端末にキャッシュカードを挿入し、暗証番号を入力すると、代金が利用者の預金口座から即時に引き落とされる仕組みになっている。店頭で現金を取り扱わなくてよく、自筆のサインも不要なので、特に視覚障害者にとってメリットが大きいといわれている。

TRONイネーブルウェア研究会会長の坂村健氏 TRONイネーブルウェア研究会会長の坂村健氏



 社会福祉法人日本点字図書館の長谷川貞夫氏はまず、デビットカードの端末の使い勝手を指摘。店頭に設置されている端末の暗証番号の入力方法がこのままでは、障害者にとって大きなバリアになるとした。「端末には画面操作方法が“タッチパネル式”のものと“電卓式”(キーボードタイプ、ボタン式)のものの大きくわけて2種類がある。まず、タッチパネルの場合、視覚障害者は目が見えないのでまったく使うことができない。また、電卓式の場合、その端末ごとにボタン配列が異なるなどの問題がある。現在設置されている端末を実際に使用しながら調べた結果、約25パーセントがこのようなバリアを持つものであった。ボタン配列は、公衆電話などのように統一するべき」と述べた。

日本点字図書館 長谷川貞夫氏 日本点字図書館 長谷川貞夫氏



 実際に端末を導入している西武百貨店の広畑寿一郎顧客計画部長は、「数字以外の“確定”ボタンには、点字シールを貼って対応している。ただ、経済的な面から言えば端末の標準化が必要。そうすることで、各店舗が使いやすい端末を導入できるのでは」とした。

西武百貨店の広畑寿一郎顧客計画部長(左)、郵政省貯金局の高橋亨経営企画課長(右)
西武百貨店の広畑寿一郎顧客計画部長(左)、郵政省貯金局の高橋亨経営企画課長(右)



 これに対してデビットカード推進協議会の二ノ宮尊徳事務局長は、「入力端末のキーパッドの配列、凸版の付加、押しボタン式、表示機能のディスプレー部のコントラスト、金額の提示方法などについてはガイドラインを作成して協議会で提言していく。10月の本格開始に向けて、各端末機メーカーや加盟店が準拠できるようにしていきたい」と述べた。

 また、郵政省貯金局の高橋亨経営企画課長は、「標準化は確かに必要。また、ATMシステムでいえば、郵便局と銀行が相互に話し合える場が必要。ガイドラインを作成することで、障害者が使いやすい点をアピールし社会的にも広めていく必要があるだろう」とした。

 最後の質疑応答では、参加者からの「今日のような障害者の意見を直接聞ける場はあるのか」という問いに対して、コーディネーターの坂村氏が、「最近はインターネットが普及し、バリアフリーに関するメーリングリストの開設も多い。こうした場を利用してみては」と述べ、幕を閉じた。

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