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携帯電話の電磁波は安全か--名古屋大学の藤原修教授が講演

1999年03月01日 00時00分更新

文● 報道局 佐藤和彦

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 携帯電話の発する電磁波は人体に有害なのか--携帯電話の普及に伴い、こうした疑問を抱くユーザーも増えつつある。日本においても、郵政省の電気通信技術審議会(電技審)が定める“電波防護指針”の中に携帯電話を想定した“局所吸収指針”が'97年に制定された。こうした携帯電話の電磁波の安全性をめぐる議論や最新の研究について、(株)リアライズ社が主催する“電波の生体影響と安全性--携帯電話のSAR評価を考える--”(主催:(株)リアライズ社)というセミナーにおいて、名古屋大学工学部の藤原修教授が講演を行なった。

藤原修名古屋大学工学部教授
藤原修名古屋大学工学部教授



●電磁波を評価する“SAR”とは

 '97年に電技審が定めた“局所吸収指針”は、許容される電磁波の基準として、“全身平均SAR”と“局所SAR”という2つの基準を定めている(表参照)。

●局所吸収指針の内容(一部抜粋)
 

管理環境


一般環境


全身平均SAR


0.4 W/kg


0.08 W/kg


局所SAR


任意の組織10gあたり:10 W/kg、四肢は20 W/kg


任意の組織10gあたり:2 W/kg、四肢は4 W/kg
任意の6分間の平均値。対象は周波数100kHzから3GHzの電磁波。身体に近接して使用する小型無線機等に適用する


 “SAR(Specific Absorption Rate:比吸収率)”は、体重1kgあたりの電磁波による発熱作用の評価基準として使用されている(単位はW/kg、値が大きいほど人体への影響が大きい)。

 表中の“管理環境”とは、仕事で電磁波を扱う人を対象にした基準で、“全身平均SAR”は、体の各部位のSAR値を全身で平均した値である。0.4W/kgという値は、ねずみなどの小動物に電磁波を当てた場合に異常が発生したSAR値を、10分の1にしたものを採用している。また、“一般環境”とは、普通の人を対象にした基準で、“管理環境”の5分の1の0.08W/kgが、“全身平均SAR”の上限と定められている。

 藤原教授は、「“全身平均SAR”については、小動物に電磁波をあてる実験から得られたデータをもとにして、小動物で異常が発生する値の10分の1を、“管理環境”にある人間の安全基準として採用した。また、さらにその5分の1の値を“一般環境”の基準として用いている。この点で、科学的にも妥当性のあるものだと考えている。しかし、携帯電話を想定している“局所SAR”の値は、科学的根拠に欠けているのではないか思う」と、“局所SAR”を定めた根拠について疑問を呈した。

 “局所SAR”とは、SAR値を全身で平均した“全身平均SAR値”では、携帯電話などの電磁波発生源が密着した状態には適さないという考えから定められたもので、一定量の人体組織のうちでもっとも高いSAR値の上限を定めたものである。“局所SAR”は、“管理環境”は10W/kg(四肢は20/kg)、“一般環境”は2W/kg(四肢は4/kg)と定められている。藤原教授は、「この値が決まった背景についてはいくら調べても、科学的根拠もなく、なんとなく決まってしまった値であること以外はよくわからない」とコメントしている。

●ヨーロッパでは携帯電話のSAR値をテレビで報道

 藤原教授は、「この“局所SAR”が一人歩きをしてしまうことが、一番困った問題である」という見解を示している。

 すでにヨーロッパでは、'97年から携帯電話の“局所SAR”の値をメーカーが公表することを義務づけている。そして、テレビの報道番組において、メーカー名、製品名とともに“局所SAR”値を公表したこともあったという。このとき、すべての製品がヨーロッパの“局所SAR”の基準を下回っていたにもかかわらず、その報道後は、もっとも“局所SAR”が小さい携帯電話が爆発的に売れてしまったという。日本でも、今後“局所SAR”のデータ公開が義務づけられる可能性が高いという。

 また、日本とヨーロッパの“一般環境”の“局所SAR”は、人体組織10gあたり2W/kgと同じであるのに対し、アメリカのそれは人体組織1gあたり1.6W/kgと異なる基準を採用している。

 「同じ携帯電話で測定しても、人体組織1gあたりの“局所SAR”は、人体組織10gあたりのそれよりも、大きな値を示す。そのうえアメリカの上限値は1.6W/kgと、日欧よりも厳しい数値を定めている。日本で基準以下の携帯電話が、アメリカでは基準を超える可能性は高い。一般ユーザーからすると、より厳しい基準にあわせろ、と要求するのは当然のなりゆきだが、そうなるとメーカーにとっては大きな問題となってくるだろう」(藤原教授)という。


●“局所SAR”の妥当性


 また、藤原教授は、複数の携帯電話で測定した場合、“局所SAR”が2.0W/kgを超えている携帯電話でも、脳の視床下部の温度上昇は、摂氏0.05度以下にとどまっているというデータを示した。

 藤原教授は、「脳の視床下部でプラスマイナス0.3度以上の温度変化があれば、血管の拡張・収縮などの体温調節行動が誘発される。また、電磁波が人体に与える影響は、いまのところ発熱作用以外は論証されていない。電磁波で癌になるという人もいるが、それは科学的には立証されていない。つまり、人体の温度上昇をベースに基準を定めればよい」と指摘。

 そして、「人体の局所における電磁波の影響に関して、科学的な根拠のある基準値としては、温度上昇に比例するものを採用すべきである。それには、人体組織の質量で値が変わる“局所SAR”ではなく、どこか1点の加熱性を示す“ポイントSAR”を採用すべきだと考える」と締めくくった。

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