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【SSR'99 レポート Vol.1】次世代ソフトのシンポジウム“SSR'99”開催

1999年02月25日 00時00分更新

文● 報道局 原武士

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 (財)情報科学国際交流財団/産業戦略的研究フォーラム(SSR:Strategic Software Research Forum)は本日、次世代にビジネスで利用される産業戦略的ソフトウェア分野の調査・研究について報告する“SSR'99産業ソフトウェア研究開発シンポジウム”を開催した。ここではそのシンポジウムの講演の中から一部を紹介する。

ソフトもハードと同様にパーツで組みたてるようになる

 次世代コンポーネントウェア調査研究グループ(*1)より、新潟工業大学情報電子工学科の青山幹雄(あおやまみきお)氏が“次世代コンポーネントウェアと今後のソフトウェア開発戦略”という題目で、アプリケーションの分散コンポーネント設計について講演を行なった。

新潟工業大学情報電子工学科、青山幹雄氏 新潟工業大学情報電子工学科、青山幹雄氏



「今までのオブジェクト指向は部品だけしかなく、本当の意味での再利用ができていなかった。分散化の概念を考え直す必要が出てきた。そこで登場した、複数のオブジェクトをパッケージ化したコンポーネント開発技術に期待が高まっている。代表的な例としては、Windows DNA(Distributed interNet applications Architecture)、CORBA(Common Object Request Broker Architecture)、EJB(Enterprise JavaBeans)などがあげられる」

「現在のコンポーネントはクライアントを中心とした環境で利用されているが、次世代のコンポーネントはサーバーを中心として利用されるようになる。アーキテクチャーを一からすべて考えたり、ひとつのベンダーのためだけに作るのは困難。今後は、単一アーキテクチャー環境から複合アーキテクチャー環境へ移行するといえる」

「複合アーキテクチャー環境では、ソフトウェアの設計はハードウェアの設計と同じように部品と部品を組みあわせて作られるようになる。そのための環境を提供するソフトウェアは既に開発・発売されている。しかし、現段階のコンポーネントインターフェースにはまだ、進化の余地が多くある。開発プロセス・開発支援環境・開発管理などのあらゆる面でさらなる研究開発が必要である」

 次世代のコンポーネントウェア開発に向けてはまだ問題が残っている。基盤技術、設計技術、開発技術がまだ未成熟であるうえ、分散コンポーメント開発技術が複数あり、それらの間でのGUIや通信プロコトルの統一が図られていないなどである。現在はこれらの技術の地盤固めをしている段階といえる。

*1 次世代コンポーネントウェア調査研究グループ:青山氏のほか、東京大学、(株)富士通研究所、(株)日立製作所、日本電気(株)などの有志により構成される産学共同の研究団体

ユーザーインターフェースは文化

 筑波大学電子・情報工学系の田中二郎(たなかじろう)氏は“次世代インタラクティブコンピューティング”という題目で、ユーザーインターフェースとインタラクティブコンピューティングについて講演を行なった。

田中氏「日本人はカメラがついたPDAが得意」 田中氏「日本人はカメラがついたPDAが得意」



「従来、ユーザーインターフェースは、認知科学や心理学、医学、人間工学などから解釈される向きが多かった。しかし、最近はこの分野においてソフトウェアの占める重要性が増している。いまやユーザーインターフェースはソフトウェアであるといえる」

「日本ではユーザーインターフェースの認知度は低く、良い教科書が少ない。しかし英語の教科書は次々とユーザーインターフェースについて詳細な説明のある教科書が出版されている。次世代のユーザーインターフェースとなるインタラクティブコンピューティング研究における世界動向を見てみると、ウェブへの着目、アートへの接近、3次元GUIの現実化などの傾向がある。もはや、ヒューマンインターフェース(ユーザーインターフェース)は文化であるといえる」

「今後は、携帯端末やペン入力、ウェブへの着目が確実に伸びるだろう。GUIはもはやあたりまえになっている。ポストGUIとなる実世界指向のインターフェース(てざわりや、形など)が登場すると考えられる」

 なお、次世代インタラクティブコンピューティングに関して田中氏らが調査した報告書は、ウェブサイト“次世代 Interactive Computingワークショップ”にすべて掲載されている。

産業界と大学の連係を進めるべき

 通商産業省産業政策局大学等連係推進室長、喜多見純一(きたみじゅんいち)氏は“産学連係によるイノベーションへの期待”という題目で、日米の研究開発に対する姿勢の違いを紹介し、研究・開発に拍車をかけるために産業界と大学の連係を強化すべきと提案した。

喜多見氏、「大学の教育は就職のためにしか使われていない」という厳しい言葉も 喜多見氏、「大学の教育は就職のためにしか使われていない」という厳しい言葉も



「日本は今まで、研究・開発に費用と人材をかけてきた。しかし、その成果を普及させる努力が足りなかったのではないだろうか。アメリカでは、日本で数万円で売られているようなソフトウェアが、無料でソース公開されている。日本にはこういった、開発の公開に対する姿勢が足りないのではないだろうか」

「我が国の研究者の3分の1は大学在籍社である。また、我が国で使われる研究資金の2割強にあたる約3兆円が大学の研究界発で使われている。金銭的にも人材的にも大学には多くの研究リソースが集中しているといえる。しかし、これらのリソースが社会に十分に活用されているとは言い難い」

「今までの産学連係は本当に連係しているのだろうかと考えた。日本における大学への産業界からの奨学金はアメリカに比べると10分の1以下だ。与えられる対象も、卒業生など特定人物に対して行なわれている感がある。今後は、個人ではなく組織としての大学と産業界との付きあいが必要になってくる」

「現在の学生は教授から頼まれた事をただ研究しているのがほとんど。産業界と連係が強化する事で、自分の研究が外部から認定されるために研究に対する意欲が向上し、結果的に教育自体の質の向上につながっていくと考えられる」

 ネットワークと言う分野において、日本はアメリカに及ぶ以前に、意識的な問題をかかえているようだ。

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