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【岡部通信 特約】ブロードバンド大革命---ADSL 1.5Mpbsが月4500円

1999年02月08日 00時00分更新

文● 在米ライター 岡部一明

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ADSLは56Kモデムの27倍速い!

 なぜか最近、びっくりすることが多い。前回の“日本まで1分10円”の国際電話カードもそうだが、パシフィック・ベルがこの1月に発表した月39ドルの1.5Mbps ADSLにも驚愕した。これは細かく言うと、下りが1.5Mbpsで最低でも384Kbpsを保証。上りは128Kbps。料金は1年契約時の月毎料金で、別に電話基本料金11ドル25セント(約1300円)が必要。インターネットへの接続は月10ドル(約1150円)で、加入時に機器購入費として198ドル(約2万2770円)掛かるというもの。

 現在主流の56Kbpsモデムにくらべ、約27倍の速度。しかも常時接続で、住宅からの市内接続なら通常電話と同じく通信料金なし(常時テレホーダイ)。ついでにもう1本、通常電話回線が並行利用できる、とあってはこれはもうオーダーする以外ない。

※パシフィック・ベルは、米SBC社がカリフォルニア地域で運営する地域電話事業を指しており、独立した電話会社ではない。

 ADSL(非対称デジタル加入回線)とは、現在の電話線(銅線)だけで高速のデジタル通信を可能にする技術。パシフィック・ベルでは去年5月からサービスをはじめ、「まだISDNを使っているのか?」というコピーで大々的に宣伝していた。待たされることの多いウェブをもじって、「もはやワールドワイド・ウェイト(WWW=世界中待ちぼうけ)はない」とメディアも騒いでいる。ADSLはもともと電話回線を通じてビデオを送る“ビデオ・オン・デマンド”サービスのため、ベルコア社が'89年に開発した技術。1.5Mbpsあれば音はもちろん、映像もかなりスムーズに流せる。


全米で最大規模のADSLを導入

 下記にある表の通り、新サービスには2種類ある。“遅い”方のサービスの場合、下り(ダウンストリーム=受信方向)は1.5Mbps。ADSLは交換局からの距離で通信速度に差があり、遠いところの家では遅くなる。しかし、その場合でもパシフィック・ベルは最低384Kbpsを保証する。さらに、「ADSLに加入できる顧客の75パーセントで、1.5Mbpsの接続スピードが得られる」とも表明している。

 速い方は事業所用などで、下り6Mbpsまでの速度(1.5Mbps保証)、256人までのマルチユーザー・インターネット接続が合計で月328ドル(約3万7700円)。これも破格の料金だ。加入時には198ドルの接続機器を購入するが、1年契約を行なえば設置料、加入料などは免除される。ちなみに月ごとの契約だと、これらの加入時料金497ドル(約5万7000円)がとられる。

 パシフィック・ベルは'98年9月までに、90の交換局エリア(160万世帯・40万事業所対象)に配備を完了していた。これを'99年末までに255局エリア(500万世帯・90万事業所対象、全顧客の70パーセント相当)に拡大し、料金を大幅に引き下げることを1月13日に発表したのだ。同社は今年だけでADSLに1億ドルを投資するという。カリフォルニアではアメリカのインターネット・トラフィックの35パーセントが受発信される。ここで全米最大規模のADSL導入が行なわれることになる。

 1.5Mbpsが月39ドル(4500円)という料金がどういうものか、“品質重視から価格重視への大転換”と言われる日本のOCNが、1.5Mbpsで月30万円だということを考えればわかるだろう。思い切り安くしたと言われる128Kbpsの『OCNエコノミー』でも月3万8000円だ。アメリカでもこれまで1.5MbpsのT1回線(専用線)は月3000ドル(約34万5000円)くらいしていた。それが一挙に2桁の料金低下である。地元コンピューター誌の『コンピュータカレンツ』は、早くも昨年末の段階で「バイバイ、T1?」という特集を組み、T1の文字を大きな赤で消した表紙が街頭に踊った(Computer Currents, December 20, 1998-January 11, 1999)。



パシフィックベルADSLサービス料金(1年契約の場合)
 

下り1.5Mbps(384Kbps保証)
上り128Kbpsサービス


下り6Mbps(1.5Mbps保証)
上り384Kbpsサービス


接続機器


198ドル


198ドル


月当りADSL料金


39ドル


129ドル


インターネット接続料


10ドル


199ドル(256人まで接続可能)


※これ以外に、電話1回線の基本料金(住宅の場合月11.25ドル)がかかる。
※1年契約でなく月毎の契約をした場合は、上記の接続機器代以外に、月額ADSL料金がそれぞれ59ドルと149ドル、月額インターネット接続料金21.95ドルと299ドル、さらに加入料が共に497ドルかかる。


保守主義者のこの私が

 自慢じゃないが私は技術には極めて保守的で、最新の機械には絶対に飛びつかない。今でも、グラフィックのインターネットでは仕方がないのでペンティアム機を使っているが、仕事をやるためのワープロ、電子メール、文字のみのインターネット(Lynx)などでは、10年前の286、8086マシンを“主力機”として使っている。それが、料金を見るなりADSL導入を即決した。

 電話を2本引けば基本料金が計22ドル50セントかかる。インターネット・プロバイダーに入れば月20ドルかかる。計44ドル50セント。それがインターネット接続込みのADSL料金49ドル、プラス電話基本料金11ドル25セントで計60ドル25セントだ。わずか15ドル75セントの上積みで1.5Mbpsという私にとっては夢のような超高速が手に入る。これでは入らない手はない。入るように強制されてしまったとも言える。考えてもいなかったのに、こんな料金出されては誰だっていやでも入らざるを得ない。

 私も石頭ではない。1.5Mbpsで環境がどう変わるかわからないわけではない。電子メール、ウェブページ作りはもちろん、ほとんど本棚の常備本を参照するようにインターネットをどっぷり仕事に使っている。これが高速で常時接続になればで私の生活の質は確実に改善される。それだけではない。音も、映像も、テレビ電話もビデオレンタルもできるぞ……。ずっと先と思っていた諸々のことが急に頭に上ってきて一遍に興奮した。

 電話でオーダーしようとするが、もちろん、電話会社の担当番号は話し中でまったくつながらない。ウェブページでオーダーしようとして、何と、私の地域はまだサービス提供されていないのを発見。一挙に血の気が引く。「今年中に90から255交換局エリアに拡大」されるが、私の地域交換局はそっちの拡大地域側に入っているのだ。しかたなく予約注文に記入する。

何かが始まりつつある

 地域電話会社は本気だ。アメリカの地域電話会社はケーブル・モデムからの大きな競争に直面している。同じく月数10ドルで高速通信を可能にするケーブル・モデムは'98年1年間で300パーセント以上伸び、年末に加入者50万人を超えた。ADSL加入者はまだ5万人程度。2002年段階でもケーブル・モデム対ADSLは8対2との予測がある(Forrester Researchによる)。

 長距離電話会社AT&Tが、TCIタイムワーナーなど主要ケーブル会社を買収し、数年後に全米40パーセントの世帯をカバーするケーブル網通信サービスを目指していることも地域電話会社を焦らせている。パシフィック・ベル(SBC)の記者発表でも、「ケーブル・モデムに比して性能がいい」「帯域を他の人とシェアするようなことがない」など、ケーブルモデムとの競争を意識した言葉が目立った。地域電話会社としては所有する広大な銅線網が最大の資産だ。ドル箱T1サービスへの打撃も顧みず、なりふりかまわずADSL決戦に出たところだ。

 アメリカのケーブルテレビ普及率60パーセント以上に対して日本は10パーセント程度。そこでケーブル・モデムが今後どれくらいの競争勢力になれるかが日本での課題だ。NTTも、今年10月に下り最大500MpbsのADSL試験サービスを開始する。料金はOCNエコノミー(月3万8000円)とOCNスタンダード(月35万円)の間に設定とのことだが、既存のISDN・OCN料金体系に縛られない抜本的な新料金を打ち出す必要があろう。

 とにかく、何かが始まりそうだ、という予感がする。これは'93年頃の感覚と似ている。あの年、アメリカではインターネットが爆発的に普及し、ネットワークの世界が根本的に変わりだした。アメリカの本屋に行くとインターネットの本が雨後の竹の子のように出ていたが、日本の本屋に行くとマルチメディアの本ばかり、という時期がしばらく続いた。あれ以来の2度目の大きな変革がついに来たのか。ブロードバンドの大革命。技術はとっくの昔からあった。それが、今、市民の手の届くところに来た。いつだって革命は“民衆”に到達してはじめて始まるのだ。

    岡部一明氏プロフィール米サンフランシスコ在住のフリーライター。'50年栃木県生まれ。'79年カリフォルニア大学自然資源保全課卒業。各種の市民団体勤務を経て、独立。著書に『パソコン市民ネットワーク』(技術と人間)、『インターネット市民革命』(御茶の水書房)『社会が育てる市民運動 - アメリカのNPO制度』(社会新報ブックレット)、『多民族社会の到来』(お茶の水書房)、『日系アメリカ人:強制収容から戦後補償へ』(岩波ブックレット)などがある。【関連記事】

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