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【『共生する/進化するロボット』展】人形(マリオネット)の心----シンポジウム『ペットとしてのロボットの現在と近未来』より

1999年02月04日 00時00分更新

文● 報道局 原武士

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 (株)NTTインターコミュニケーション・センター(NTT ICC)が東京・初台の東京オペラシティーで3月22日まで開催中の“『共生する/進化するロボット』展”で、『ペットとしてのロボットの現在と近未来』と題したシンポジウムが開かれた。

 講師は、通商産業省工業技術院機械技術研究所、柴田崇徳(しばたたかのり)氏とオムロン(株)、新事業開発センタファジィ推進室第3開発科の田島年浩(たしまとしひろ)氏。

ペットロボットに必要なのは意志

 通商産業省工業技術院機械技術研究所、柴田崇徳(しばたたかのり)氏は、ペットロボットの概要と、実際に同氏が行なってきたペットロボットの開発について説明した。

柴田氏「ペットに必要なのは愛らしさ」柴田氏「ペットに必要なのは愛らしさ」



 同氏は「ここでは自動化のためのロボットではなく、もっと生き物として人の主観に訴え、人の暮らしを豊かにするペットロボットについて説明したいと思います」と切り出した。

「現代ある産業用ロボットは人間の補助として作られました。その結果、いかに正確に効率よく仕事をするかでのみ評価されています。産業用ロボットは、人間が与えた目標を達成するために動作しています。それに対して、ペットロボットは、人間が目標を与えることはありません。自分で何をすべきかを判断して動くものです。自分のモチベーションで動く――楽しいとか美しい、心地よいといった主観的評価のできるロボットが求められています。産業用ロボットは客観的評価で動いているといえます」

人と愛玩動物との関係

「ここで、ペット・愛玩動物が人に与える影響を考えてみました。例えば、精神科への通院者の統計を取った場合、ペットを飼っている人の比率はそうでない人よりはるかに少ないのです。これは、ペットが精神的な安定をもたらすからだと考えられます。また、一人暮らしの老人には、コミュニケーションの相手としての役割を果たすこともできます。ロボットが人に与える影響は大きいいえます。そして、実際にペットを飼う場合は、アレルギーや噛まれる、病気の感染などさまざまな問題が発生します。この1つの解答としてペットロボットがあるといえます」

ロボットに感情を持たせるには

「人の感情を観察し、感情をモデル化して分析を行なう研究が進んでいます。しかし、そのモデル化した感情をロボットに埋め込むことで、埋め込まれたロボットが感情を持つように見えるかというと、それはまだ解らない。ペットロボットの研究のなかでは非常に面白い分野です。人間とロボットの間では、一方的な感情のフィードバックではなく、感情の共有(カップリング)という概念が重要になってきます。ペットロボットは、アシモフの提唱したロボット3原則(*1)の縛りをあえて無視するコンセプトを持っています。人間に服従するのではなく、人間と対等に付きあうのが目的です」

(*1)SF作家アイザック・アシモフが著書『われはロボット』の中で提唱したもの。今日のロボット工学を語るうえで必ず出てくる単語でもある。内容は以下のとおり。

  • 第一条
    ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。
  • 第二条
    ロボットは人間に与えられた命令に服従しなければならない。 ただし、与えられた命令が、第一条に反する場合は、この限りでない。
  • 第三条
    ロボットは、前掲第一条および第二条に反するおそれのないかぎり、自己を守らなければならない。


必要なのは手触り

 柴田氏は同氏が実験で使用していたあざらしのぬいぐるみを取り出して説明した。あざらしのぬいぐるみにたどりつくまでには、アルミでできたものや、紙でできた犬などさまざまな物体で“人が得る心地よさ”を実験したという。

ぬいぐるみの中には無骨な機械が詰まっている。しかし人間も似たようなもの
ぬいぐるみの中には無骨な機械が詰まっている。しかし人間も似たようなもの



「人間の予測できないような行動が生物的な要素となります。また、ロボットの形状や、触った感じも重要です。触ってただの冷たいアルミだった場合、可愛いと感じない人のほうが多いのが現状です。人間が可愛い・気持ちいいと思うためには、触り心地や形状も考慮すべきです。例えば猫型ロボットなどです。この点については次に説明する田島さんに託します」

猫の名前はタマ

 オムロン(株)、新事業開発センタファジィ推進室第3開発科の田島年浩(たしまとしひろ)氏は猫型ペットロボット“タマ”を連れ登場した。

 柴田氏に続いて田島氏は「猫型ロボットを中心とした猫型ロボットの現在と近未来について説明します」とタマをなでながら話し始めた。

田島氏「おもちゃは飽きるけどペットは飽きない。その理由は愛情を感じられるかどうかではないだろうか」
田島氏「おもちゃは飽きるけどペットは飽きない。その理由は愛情を感じられるかどうかではないだろうか」



「開発コンセプトは、“存在そのものに価値がある”です。産業ロボットは行動に価値があるが、“タマ”は存在することに価値があります。その価値とは、1つは生き物らしく振る舞うこと、もう1つは人とインタラクション(相互作用)できることです。開発にあたって追求したことは、人が愛着を感じられるような身体的接触と魅力的な振る舞い、そして感情や欲求の感情モデルの追求。非言語コミュニケーションの実現。いかに柔らかくスムーズに動けるか。反射的に動く部分と、感情的に動く部分を階層的に構築するということです」

タマ。顔は恐いが動きは猫らしい
タマ。顔は恐いが動きは猫らしい



「タマの内部には、触られていることを認識する“触覚センター”、音がどこででしたかを認識する“聴覚センサー”、抱かれているなどの状態を識別する“姿勢センサー”があります。そして、それらからの入力をに対して、まぶた、前足、尻尾を動かす8個のモーターで自分の感情を表すようにしています。重さは1.5kg。大人の猫より少し軽い程度です」

中には、ぬいぐるみを着ていない機械のままのほうが可愛いという声も
中には、ぬいぐるみを着ていない機械のままのほうが可愛いという声も



「タマには生理的なリズムを持っています。人でいうバイオリズムにあたり、その時のリズムで、主人に抱いてもらいたいと思ったり、機嫌が悪かったりするのです。まだ実現していませんが、“この音はご主人様のものだ、嬉しい”といった音と触覚の関連性学習もしていくつもりです」

ペットロボット開発に踏みきった理由

「なぜ開発したのかと良く聞かれます。私どもでは新事業ということで、機械の知能化技術を作ってきました。21世紀には誰もが簡単に扱える、人にやさしい機械によって豊かな社会を実現できると考えました」

「今までのロボットは、“一般大衆向け”で、“生産性重視”でしたが、その逆の位置にある“個人向け”で“人間性重視”のための機械が重要になるのではないかと考えました。人間と機械が共に進化し、心を持った機械が社会を作るようにしたいと思います。正確には機械が心を持っているのではなく、機械が心を持っているように見えるのですが」

田島氏にとってタマは家族のような存在のようだ
田島氏にとってタマは家族のような存在のようだ



「ペットロボットは、現在の社会を背景に持っています。高齢化、精神主義、都会中心。精神的に病んでいる生活環境などです。誰かとつながりたい、自分と共感してくれる人が欲しい、ストレスを解消したい、こういった要求をペットロボットが解消してくれるのではないかと考えます」

もっと、生き物らしく

「ペットロボットで実現するインタラクションとは、触る・たたく・話しかけるなどの人の行動を理解して、ペットが自分の感情を表現し、人はその感情を読みとり、さらに行動をとるという一連の流れをいいます。そういった人とロボットの“共感”が生まれるようなものを開発していきたいと思い増す。愛着、非言語での対話、自律性といった人とロボットのインタラクションが図れるようになれば、我々の実験も成功かなと思います」

まだ、売る予定はない

「近未来のペットロボットは、エンターテインメント・インテリジェント玩具、リラクゼーション向けなど、いろんなコンセプトの物が出てくるでしょう。今後はますます多くの企業や研究基幹から新しいコンセプトで新しい機能を持ったロボットが出てくるでしょう。“タマ”は、オムロンとしてはまだ商品化は考えていません。エレクトロニクス技術で人の心にインパクトを与えることが出来るかどうかの壮大な実験といったところでしょうか」

講壇終了後“タマ”を触らんと押しかけた観客たち
講壇終了後“タマ”を触らんと押しかけた観客たち



失礼してお腹を開いてみた。この後怒られた
失礼してお腹を開いてみた。この後怒られた



 ペットロボットは、バッテリーの短さや、動作ボキャブラリーの少なさといった問題を抱えている。今後、世の中に浸透してきた場合、命の定義や、心の存在といった問題も出てくるだろう。ロボットと人間の共存はどのような形で実現されるのだろうか。

 マイクロソフト(株)の対話人形『ActiMates』やレゴジャパン(株)の『LEGO MINDSTORMS』といったロボットが一般向けに発売されるようになった今、その答えの一部が出される日もあまり遠くないのかもしれない。

【関連記事】世界のロボットが大集合--NTT ICCが“『共生する/進化するロボット』展”を開催
http://www.ascii.co.jp/ascii24/call.cgi?file=issue/990128/topi04.html

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