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【岡部通信 特約】日本の市内電話とほぼ同額の米日国際電話を発見(上)

1999年01月26日 00時00分更新

文● 在米ライター 岡部一明

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米日国際通話がたったの1分10円!?

この1月23日、サンフランシスコの場末の飲食店でテレフォンカードの料金表が出ているので、習性としてすぐのぞいたところ、“日本まで1分9セント”。思わず目を疑いました。

 すぐ店に入り10ドル分のカードを買いました。10ドルで88分話せるとあります(1通話に付き2ドルの手数料がかかる)。

 「おまえ、どこに掛けるんだ?」
 メキシコ系の店のおじさんが聞いてきました。
 「日本まで……」
 「そうか、日本までならエーと(と店内の料金表を見る)、1分9セントだ。安いだろう」
 そ、そうだ、ホントに安い。
 「こ、これ、いつから売り出したの?」
 震える声で聞くと、
 「きのうからだ」
 おじさんもけっこう有頂天になっているようです。

 このカードはRSL PrimeCall社(RSLCOM)の『All World Prepaid Card』。同社はウェブページも持っていますが、こちらにはまだ古い料金が出ています(http://www.dotstar.net/biz/jsimood/Cyberli.htm)。

このほかにも、テレフォンカードの老舗として知られるボーコール・コミュニケーション社(VoCall Communications)では『Instant Calling Card』という、日本まで1分14セントのテレフォンカードを販売しています。

ウェブサイトで料金を見ると、香港までは11セント。ドイツ、フランス、イタリアなど西欧7ヵ国には10セント。デンマーク、スウェーデン、フィンランドといった北欧諸国には8セント。イギリスに至っては1分6セントという激安価格なのです。

 つまり、大西洋をまたぐ通話が1分約10円。日本における公衆電話の市内通話料金で、アメリカからは国際電話が掛けられるいうことになります。欲しがりません勝つまでは。日本の通信産業を世界に飛躍させるため日本の消費者はガマンを強いられているのでしょうか。

アメリカのテレフォンカードは日本とは異なり、“暗証番号が記載されたカード”に過ぎない。専用のフリーダイヤルに電話を掛け、暗証番号を入力することで購入金額相当の通話ができるようになっている
アメリカのテレフォンカードは日本とは異なり、“暗証番号が記載されたカード”に過ぎない。専用のフリーダイヤルに電話を掛け、暗証番号を入力することで購入金額相当の通話ができるようになっている



市内電話を無料、市外通話を3分10円にすべし

 電話は情報化社会の基本の基本であり、これを適正な料金にすることが情報インフラには不可欠です。そこで、市外通話を現在の市内電話料金並み(3分10円)にしていくことを提案します。市内電話は無料、すなわち現在の基本料金程度での固定制料金にすべきでしょう。

 これは決して暴論ではありません。すでにアメリカは、市内電話は10数ドル程度の基本料金で掛け放題。日本の25倍の国土でアラスカ、ハワイ、グアムまでもあるアメリカの国内長距離料金は“いつでもどこへでも”1分10セント程度。最低で5セント程度のものさえあります。しかも前述の通り、日本における公衆電話の市内料金(1分10円)で、大西洋を越える国際通話さえも可能になっているのです。

アメリカでは市内電話はタダなのか?

 “アメリカでは市内通話がタダ”という主張に対し、「固定制料金なのだから“タダという言い方はおかしい」という指摘があります。「11ドル25セント(Pacific Bell社の大都市圏料金)のフラット・レート(固定料金)を払っている」という反論がそうです。

 しかし、日本で“市内電話料金”といえば、それはあくまで3分10円の料金を指しています。東京03地域で1550円という基本料金は、電話料金とは別に“回線使用料”と呼ばれています。NTTの財務統計でも、基本料金は市内電話料金とは別に扱っています(http://pr.info.ntt.co.jp/databook/zaimu/zaimu_den_h8.html)。

 日本でも昔は基本料金を払えば市内電話は無料でしたが、いつからか基本料金とは別の“市内電話料金”という区分けができ、それを払うことになりました。私はあくまでこの日本式の用法に従って「アメリカの市内電話は無料」と言っているだけです。

 私がこれにこだわるのは、日本では「市外通話は黒字だが、市内通話は赤字」「だから市内料金を値上げせねば」という議論が長いこと行なわれてきたからです。基本料金から切り離された市内電話が赤字とされ、その値上げが主張されています。ところがアメリカではこの市内電話が実は無料だ、と指摘したい訳です。

日本の電話が“世界で一番安い”という神話

 なぜ日本では、“アメリカの市内電話が料金固定制である”という重要なことが、もっと声高に語られないのでしょうか? かつてのパソコン通信(BBS)の興隆、現在のインターネットの拡大、今後の電子商業、バーチャル・デスクトップ、ネットワークコンピューター、どれをとってもアメリカのネットワーク文化の活性の背景には無料の市内電話料金制があります。

 確かに日本では長いこと、「日本の長距離電話は高いが、市内電話は世界一安い(だから市内料金を値上げしよう)」と主張されてきました。奇妙なことです。“無料”と“3分10円”とでは、無限大の差があります。なぜこんなことになっているのか、最近、『平成10年、通信に関する現状報告』という郵政省の報告書(http://www.mpt.go.jp/policyreports/japanese/papers/index-98wp.html)を読んで、それがやっとわかりました。

 毎年発行されているこの通信白書はなかなか内容が深く、私は全体的には評価しています。この中に“電気通信料金の内外格差”という項があり、日本の電話代が諸外国、特にアメリカと比べていかに高いのかを詳細に論じています。これも大いに評価できます。でも、そこの市内電話の項目がいけません。世界5都市を比較して、東京が「標準料金の市内通話料金で一番安い水準にある」としています。グラフを見ると、アメリカはニューヨーク市のNYNEX社の市内通話料金が例として挙げられており、それによると東京は3分10円なのに対しニューヨーク市は3分12円になるそうです。

 アメリカの都市の代表としてニューヨーク市を選ぶのは仕方がないかも知れませんが、アメリカの電話料金でニューヨークは例外的です。アメリカでは全米42の州で、住宅用の市内電話は固定制料金があります(詳細は岡部『インターネット市民革命』p.255以下参照)。しかし、ニューヨーク市には固定制料金がなく、1通話10.6セントの“呼毎課金”という方式を採用しています。

 ニューヨーク市の呼毎課金というのは、市内通話1回に付き10.6セント(12円)課金されるが、何時間かけても料金は変わらないという方式です。3分間だけの比較なら日本の方が安いですが、10分かければニューヨークは12円、日本は40円です。インターネットに1時間接続した場合は、ニューヨーク市が12円なのにくらべ、日本では200円にもなります。

 確かにグラフは誤りではありません。“ニューヨークは1通話の料金”という断り書きもついています。しかし、この数字だけで「日本の方が安い」という判断を下すことは間違いですし、日本の現状がかかえる課題を的確に摘出する上で妨げになります。アメリカ国内で一般的な料金である固定制の料金で比較すれば、日本の3分10円に対してアメリカは0円となり、「日本は世界で一番安い水準」とは言いにくいはずです。

[(下)に続く]

    岡部一明氏プロフィール米サンフランシスコ在住のフリーライター。'50年栃木県生まれ。'79年カリフォルニア大学自然資源保全課卒業。各種の市民団体勤務を経て、独立。著書に『パソコン市民ネットワーク』(技術と人間)、『インターネット市民革命』(御茶の水書房)『社会が育てる市民運動 - アメリカのNPO制度』(社会新報ブックレット)、『多民族社会の到来』(お茶の水書房)、『日系アメリカ人:強制収容から戦後補償へ』(岩波ブックレット)などがある。

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